
既存顧客が離れてしまった失敗事例
1985年4月23日、米コカ・コーラは歴史に残る賭けに出ました。世界中で親しまれてきた炭酸飲料「コカ・コーラ」の味を変更すると発表したのです。これは「ニュー・コーク騒動」と呼ばれ、マーケティング史上最大の失敗事例といわれています。
当時、コカ・コーラは、低迷の時期を迎えていました。15年連続で最大の競合相手「ペプシコーラ」に市場シェアを奪われていたのです。コカ・コーラの幹部は、その原因を考えました。なぜ、コカ・コーラではなく、ペプシが選ばれているのか。
膨大な調査を行い、そして、ある一つの結論にたどり着きました。それは「ペプシコーラの方がおいしい。だから、ペプシコーラが売れている」。実際、ラベルを隠した味覚テスト(目隠しテスト)では、顧客の評価はペプシヨーラのほうが「おいしい」という評価でした。このコカ・コーラのラベルを隠したテストというのが、失敗の要因の1つです。
コカ・コーラは莫大な予算をかけ、さらなるテストを実施、全く新しい製法、全く新しい味のコカ・コーラが生まれました。それがニュー・コークです。コカ・コーラの幹部は、売れると信じて疑いませんでした。20万人を対象に味覚テストを行い、ニュー・コークが一番おいしいという結果が出ていたからです。
「ニュー・コークが一番おいしいことを証明できた。これで間違いなく売れる」。そう思い、自信満々に、大々的に宣伝したことでしょう。そのあとの結果は、言うまでもありません。
ニュー・コークは新規顧客に全く売れなかっただけでなく、昔からのファンからも大きな批判を受けるほど不人気でした。
コカ・コーラは、コカ・コーラという名称と、その独自性のあるおいしさをひも付けていたブランディングを、ニュー・コークという新名称と新しいおいしさの組み合わせに変更することで、そこまで築いてきたブランドを壊してしまったのです。
そもそも、コカ・コーラというブランド名称を隠した味覚テスト自体が、コカ・コーラが今後何をすべきかを分析するには不適切だったのです。
慌てたコカ・コーラはすぐさま、音のコカ・コーラの味を復活させました。世紀のリブランディングの失敗事例です。
なぜリブランディングの多くは失敗するのか
ブランドは長く商品を展開する中で、徐々に業績が右肩下がりになる時期を迎えることがあります。そのてこ入れとして用いられる手段の一つに「リブランディング」があります。このリブランディングの失敗は、枚挙にいとまがありません。
リブランディングの目的が低調気味なブランドをてこ入れして、売り上げを上げることだとしても、明確な顧客イメージや何を便益と独自性とするのかのイメージを持たず、間雲にブランド名やロゴを変えたり、プロダクトの中身を変えたりすることはむしろ悪手です。既存顧客が対象のブランドを想起できなくなり、むしろ離反率の増加を招く恐れがあります。
リブランディングの典型的な失敗例は、低迷する業績を、前段でブランディングの目的の2つめとして紹介した「情緒的価値や心理的価値をブランディングでつくる」ことで、底上げしようとするケースです。著名なデザイナーを起用し、新たなロゴや統一感のあるデザインなどで、かっこよく見せようとして、結果的に顧客を失う事例は数多くあります。
こちらも前段で紹介した、ローソンのプライベートブランド(PB)の失敗はその典型例でしょう。本来PBのパッケージで伝えるべきことはおいしさなどだったはず。ところが、商品のよさが伝わらない方向にリブランディングをしてしまった。これではうまくいきません。
リブランディングは商品・サービスを買う理由、競合ブランドを選ばない理由が分かっていて、その強みを増幅させる、あるいは理解させるための目的でしか成立しません。
なお、2024年時点では、ローソンはこの問題を解決し、「おいしさ」や「中身の魅力」が伝わるパッケージヘ変更し、業績も好調です。
「顧客不在」のリブランディングになっていないか
また、離反者にアピールし、戻ってきてもらおうとしたとしても、元のブランド名やロゴで認知していた人は、新しいブランド名やロゴを認識できません。ブランドを構成するロゴやパッケージに対する顧客の認知度が新規、既存ともにゼロベースになるため、全てがマイナスに作用するというケースはこれまで何度も起こってきました。
例えば、老舗のお菓子のブランドに関して若年層の顧客が減っているのであれば、若者にとってその便益と独自性が合っていない可能性が高いです。
お菓子を食べる時間が減り、スマートフォンを使う時間が増えているのであれば、可処分時間がスマホに置き換えられたということです。つまり既存の商品では便益と独自性が成立しなくなっているということ。では、売るべきお菓子はという課題に立ち返ると、プロダクトやサービスそのものの問題になるはずです。
リブランディングの名の下に、ブランド名を変えたり、はやりのタレントを広告塔に使ったりしても、根本的な課題の解決にはつながりません。
特にパッケージ変更をして、既存客を失うケースは非常に多いです。ブランディング巧者といわれるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でも、かつて「リジョイ」というシヤンプーのてこ入れのために、パッケージデザインやロゴを刷新したところ、売り上げが下がってしまったケースがあります。
「顧客不在」で、企業を起点とした「リブランディング」は成功しません。もしそのようなリブランディングを実行したいと考えている担当者がいた場合、「ロゴやデザインを変更したことで、誰がそれを評価して購入してくれるのでしょうか?」「今のデザインは誰が評価していないから購入しないのでしょうか?」と尋ねると、立ち止まって、考え直すきっかけになるでしょう。
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