2-5-39:函館のハンバーガー店「ラッキーピエロ」人気の理由

顧客起点マーケティング ブランディングの誤解
ラッキーピエロは地域密着と独自性を追求し、記憶に残る体験と顧客第一のブランディングを成功させています。
2-5-39:函館のハンバーガー店「ラッキーピエロ」人気の理由
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観光客の誰もが訪れる「ハンバーガー店」

中小企業ならではのブランディングの成功例を紹介したいと思います。北海道の函館に訪れると、観光客が必ず立ち寄るといわれる「函館ラッキーピエロ」というハンバーガー店があります。筆者も、本シリーズのベースとなる書籍『ブランディングの誤解』を執筆中の24年9月、函館観光に行った際に訪れました。それまでは同店について、全く知りませんでした。

検索サービスで「函館観光」「函館グルメ」といったキーワードで検索すると、検索結果に海鮮系の飲食店や朝市と並んで、このハンバーガー店と、そのメニューである「チャイニーズチキンバーガー」が必ず表示されました。

函館と無関係に思える「ハンバーガー」「チャイニーズチキン」に、疑間を抱くばかりでしたが、まさしくこの時点で、筆者の中では函館という言葉に連想した強いブランディングが形成されようとしていました。ちなみに、驚くことに、函館市内にラッキーピエロは17店舗ありますが、マクドナルドはわずか4店舗のみです。

観光の前半こそ海鮮三味でしたが、徐々に食傷気味になり、このハンバーガー店を訪れることになりました。

筆者が伺った店舗は、観光名所から少し離れた街中にある十字街銀座店という店舗でした。この店舗、派手な看板と装飾で100メートル先からでも分かります。

店内に入れば、なぜかサンタクロースとクリスマス関連のグッズや装飾品であふれかえっており、さながらクリスマスのイベント会場のようです。この予想外の装飾に、さらに心をつかまれました。店内には、たくさんの観光客が並んでおり、同時に多くの地元の方がテイクアウトの注文に並んでいました。

メニューを見ると、ハンバーガーだけではなくカレーや定食など多数のメニューがあることにも驚かされました。このときは折角なので、素直に看板メニューと紹介されていた、チャイニーズチキンバーガーを注文しました。

店内は、懐かしい食堂のキッチンのようです。注文後につくるため、時間がかかると事前に言われていましたが、実際に15分以上たってからハンバーガーが提供されました。15分も待ったハンバーガーは筆者の経験では日本で初めてです。

食べてみると、他では味わったことのない中華風のボリューミーなハンバーガーで確かにおいしい。個性が強いため、毎日食べたいとは思いませんが、観光という特別なイベントでの食事としては、楽しく、おいしく、そして強く記憶に残りました。

3日間の函館旅行の間に多くの観光名所、海鮮を楽しみましたが、結局、最も記憶に残ったのはラッキーピエロでの体験でした。函館に期待していた観光や海鮮は、ある意味想定通りで、ラッキーピエロだけが、予想外だったため、強く記憶に残ったのです。

あまりにも気になり、帰路、ラッキーピエロの歴史なども調べてみると、実は、まさに、本章で伝えたい中小企業のブランディングの本質が徹底されていることが分かったのです。

ラッキーピエロ創業者に学ぶブランディングの本質

中小企業のブランディングとして伝えたい要素が、ラッキーピエロのWebサイトにある会長インタビューに凝縮されていたため、その一部を抜粋の上、重要だと思う部分に傍線を入れました。また、僭越ながら、その意味を解説させていただきます。

ラッキーピエログループインタビュー 王一郎会長インタビュー抜粋(原文ママ・ただし傍線は筆者)

――オープンまでの経緯を聞かせて下さい

最初はホットドックがいいんじゃないかって思っていたんです。そしたらホットドックは細長いから特長が出しづらかったんです。知り合いの人にハンバーガーはどうかと言われて。ハンバーガーは日本で言うラーメン屋みたいなものだから、私がアメリカに行ったらハンバーガーを食べるに本場では美味しくて並んでいる。それが引き金になりましたね。

日本人向けのハンバーガーショップを作ればいい、そしたら幾らでも特徴を出しやすい。それでハンバーガーに挑戦したんです。我々のハンバーガーはどうあるべきかと、世界中食べ歩きをしました。

――中華的なのが特徴的ですね。

以前千葉のほうで中華料理のお店をやっていたことがありました。私が中華料理の経験があるということで、中華の美味しさを取り入れたメニューを商品にしようと思いました。私どもの一番の商品はチャイニーズチキンバーガー。中華の技法を取り入れた中華味なんです。

ここから学べるのは「便益と独自性の追求」と、継続性を重視した顧客の頻度が高い習慣に軸を置いた商品選びです。

――話題になったのはいつ頃だったんですか?

一番最初に火が付いたのは、ライダーさん達の間でクチコミで広がって集まるようになってくれたんです。彼らはノートなんかに書くんですね。私たちにはわかりませんでしたから、どうしてこんなにライダーさん達がたくさんいるの?って(笑)。

夏になったら何台も停めて道路をふさいでしまう位でしたから。それからマスコミさんに取り上げていただいて、観光客や地元の人にも来ていただけるようになりました。函館っ子や卒業した学生さん達が、札幌や東京に行くと故郷の味ということで自慢してくれるのが嬉しいですね。

このライダーが最初に価値を見いだした顧客(WHO)です。その価値を起点として、マスコミでの紹介やライダー間での回コミといった、潜在顧客へと広がる手段(HOW)を自然と獲得できています。

――ラッキーピエロという名前の由来は?

私が小さい頃、テントのサーカス団が来ていたんです。毎日テントの隙間を見つけてはそこから入って観に行った記憶があります。サーカスが大好きだったので、ワクワクドキドキするサーカスのようなお店を作りたいと考えていました。

それでサーカスの中で主役ではないけれど大事なキャラクターであるピエロとつけたんですけど、ピエロってなんだか物悲しいイメージもあるので、ラッキーって付け足したんです。幸運ピエロならいいんじゃないかなって。

――函館で始められたのには理由があったのですか?

もう住み着いて38年位になりますから、函館っ子と同じだと思うんです。例えば、東京で何番目というより、地方でオンリーワンになることが面白いと思うんですね。そういう意味でも地方で根差していきたいですね。

自身の経験に基づく、印象的な店舗のネーミング、そのネーミングを体現した店舗設計、そして函館という地を付加したといったブランディングと独自性が自然と生まれています。

――地元に対するこだわりはありますか?

観光客に人気があるだけのお店は成立しません。我々が観光で行くのは地元で本当に美味しくて楽しいから。だから地元の人に拍手喝采してもらえないと、観光客はいらっしゃらないと思うんです

例えば、イカ踊りバーガーは、函館はイカの街ですから観光客の方がイカを食べたいということで作ったメニューです。せっかく食べに来てくださるんだから、冷凍ではなくて朝取れたイカを使っていたりとこだわっています。利益は無いですけど、でもお客様が食べたいんですから。

――店舗ごとに全て差別化されていますが、フランチャイズとしては捉えていない?

そうですね。一店舗一店舗のお店が個性的で、地域のお客様にとても愛されています。例えば、ソフトドリンクの値段にしても学生の多い本町店や松陰店の120円、観光コースのお店はM150円、地域によってこれぐらい変えています

学生街は学生さんにサービスしてあげよう、観光コースは全国から来ていただいて感謝感激150円でいいよねって。そのお店が地域にいかに密着しているか、自分のターゲットのお客様にマッチしているかどうかなんです。お客様の目的に合わせてそれぞれの個性の店を使ってくださればいいですね

一過性の売り上げ(観光客)と継続的な売り上げ(地元の客)を連動させることで、顧客の分母を増やしながら、継続利用による利益の創出ができています。

また、複数の顧客層(WHO)への異なる便益と独自性(WHAT)をそれぞれの顧客を起点につくることで、顧客の幅の拡大に成功しています。

――それぞれの店舗に設けられているテーマはどこから生まれてくるんですか?

お店のテーマのアイデアが常に10個位あるんですよ。私が好きなものやみんながニヤっとできるものとか。私自身がまず楽しみたいし、同じものをお客様にも楽しんでいただけるのが一番だと思うんですね。そのテーマに合わせていつも資料を集めているんですけれど、家の屋根裏部屋は資料だらけ(笑)。

例えば、エンジェルの五稜郭公園前店は、前のクリントン大統領の奥様がエンジェルのブローチを使っていて世界中でエンジェルブームだったんです。その頃サンタのグッズを集めていたんですけれど、そのついでにエンジェルも集まってきたんですよね。

最近家の中でたった一匹で可哀想なんですが、インコを放し飼いにしているんですけれど、私は小鳥が好きなので今度は鳥をテーマにしようかなって(笑)。

アイデアはいっぱい貯まっているので、立地によってこのテーマのお店って決めています。たまに他の企業に先を越されてしまうこともあるけれど、私が作ったらまた違うから。お客様は飢え死にするから食べに来ているのではなくて、私どものお店が美味しくて楽しいから来ていただけるのだと思っています。だから、帰る時にはもっと幸せになって欲しい、そういうイメージで仕事をしています

――フランチャイズには無い個性的なメニューやサービスが魅力です。

効率化と時間という事で、我々は何となく豊かになったのかなと思う反面、本当にこれでいいんだろうかという不安を持っていると思うんですね。私どもは身体にいいもの、安全なものを一生懸命選び出して、それを手作りで提供しています。

例えば、他のナショナルチェーンさんが単価と時間にこだわるとすれば、私どもはこだわった味と楽しさですね。THEフトッチョバーガーなんて効率という事を考えたら、3個分のハンバーガーを安く出して、作るのも大変で、わざわざ鐘を鳴らしてお持ちするという手間隙をかけています。

じゃあ、私どもは何を売っているのかと言ったら、それを食べてくださる体験、面白さ、それを周りで見る可笑しさ、愉快さをお売りしているんです。私どもは、チェーン店部門から考えるとメニューが多すぎるし非効率的です

ですが、私達は常にお客様と美味しい事、楽しい事を共に分かち合いたいし、考え願っています。私は美味しさだとか良い仕事というものは、結局愛と愛が重なりあってできるものだと思うんです。

顧客に提供したい価値を明確に定義し、かつ提供者の思い込みとしての価値で終わらず、顧客の価値への転換に成功しています。また、体験を通じて記憶化につなげるブランディングも実践しています。

――一人とのつながりを大切にしているのが印象的です。

私どもの経営理念はお客様主導となっています。お店の中にあるアンケートは毎日100枚~150枚集まるんですけれど、誉めてくださった方、問題ありって言ってくださった方全て読んでサインしています。売上アップだけではなく、お客様のアドバイスをミーティングの中でものすごく真剣にやっています。つまりお客様がボスだから私どもはお客様に仕えなければならない

現場のスタッフはお客様と接している、そのスタッフ達は一週間に一回お客様がこう言っていましたって私に報告する事になっています。つまり現場で直接言ってくれた事をもとに経営をしていく。私どものお店はお客様が喜び満足する為にあるんです。

昔のように物が豊かではなかった時代は会社が決めれたけれども、今はお客様が決める時代。だから私どもは、お客様が喜び満足されるであろうという店作り、食材、サービス等いろんな提案をするけれども、決められるのはお客様だから、自分達の表現で顧客に喜んでいただけているのかを本当にわかっているのかというのを常に認識していないといけない

世の中物が安くはなったんだけれど、音より何か物足りないように感じて、顧客が安さに価値を見出せなくなっているんです。だから世の中が安くならねばならないという時に、我々は品質向上にもこだわったんです

常に顧客を起点とし、顧客価値に焦点を定めた経営をされています。その価値に見合った価格を設定し、利益の創出につなげています。

飲食店は中小企業が多いですが、ラッキーピエロはその中でいかに独自性を打ち出し、顧客の記憶に残る体験を提供するかというブランディングの本質を追求しています。

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《西口一希》

ブランディングの誤解