
誰に、どのような行動変化を起こしたいのか
前項では、9つの分類の間を顧客が絶えず移動し続けることを表す「カスタマーダイナミクス」というフレームワークを解説しました。マーケティング活動によって、「7.積極・認知・未購入」層が、「3.積極・一般顧客」に移動するほど新規顧客を獲得できています。「1.積極・ロイヤル顧客」にとどまる層が増えるほど、利益率が高まります。

これを踏まえ、ブランディングの成果を考えてみましょう。顧客の獲得という視点では、ブランドの想起率が高まり、ブランドカが強まるほど、特定カテゴリーの商品・サービスの購入を検討したときに、想起されやすくなります。
カスタマーダイナミクスのうち、「7.積極・認知・未購入」層のブランド想起率が上昇すれば、「3.積極・一般顧客」へと動く可能性が高まります。これがブランドカの向上における新規顧客獲得の動態(ダイナミクス)です。
また、「3.積極・一般顧客」「1.積極・ロイヤル顧客」にとって、ブランディングにより、自社ブランドの優先度が高まれば、消極に転落する離反防止につながります。これによる購入頻度や継続購入率が高まることで、LTV(顧客生涯価値)の上昇が期待できます。
このように、誰を対象に、どのような行動変化を起こしたいのかを明確に設定できていない、要件定義ができていないことがブランディングで失敗する大きな要因です。顧客と一言で言っても、ロイヤル顧客なのか、潜在顧客なのかで、商品・サービスに対する気持ちや、認識は異なります。
ミネラルウオーターの愛飲者と、「水道水」で十分だと考えている人を自社ミネラルウォーターブランドの顧客にするために提案すべき便益と独自性やその訴求軸は全く異なります。自社の顧客の状況をカスタマーダイナミクスに落とし込み、ブランディングでどのような成果を目指すのかという目的設計ができていれば、無駄な投資を防げます。
ブランディング実施の3つのステップ
これを3つのステップにまとめると、次のようになります。
ステップ1:商品・サービスの便益と独自性の明確化
ステップ2:その便益と独自性を「誰に」伝えたいのかを、カスタマーダイナミクスのフレームワークを用いて明確化する
ステップ3:一対象者に便益と独自性を伝える上で最も適切な施策を検討する
ステップ1の商品・サービスの便益と独自性の明確化について、1990年代前半にあったヘアケアブランド「バンテーン」の成分にまつわる話をしましょう。
パンテーンといえば、「プロビタミンB5」という成分を具現化した黄色の透明な粒を活用したコミュニケーション施策をご存じの方は多いと思います。
そもそも、このプロビタミンB5は、「パンテノール」と呼ばれる成分で、パンテーンは、この成分を特徴として生まれてきたブランドです。私がパンテーンのアシスタントブランドマネジャーを務めていた当時は、ブランド名の由来であるパンテノール配合を訴求するコミュニケーションをしていました。また、透明の液体として映像化されていました。
ですが、パンテーンを継続購入するロイヤル顧客層の調査をする中で、パンテノールという成分に対する認知度の低さが浮き彫りになりました。洗髪後の洗いあがりがさらさらで、とてもいいため、「他の製品とは何かが違う」というのは実感してくれています。ですが、その理由としてのパンテノールの便益と独自性については伝わっていなかったのです。ブランド名の由来だとも認知されていませんでした。
便益を想起させる表現で成長した「パンテーン」
一方、調査の中でビタミンという言葉に、非常にいい印象を持たれるロイヤル顧客が多いことを発見しました。パンテノールはビタミンB5になる前の成分で、プロビタミンB5の別名です。この発見から、プロビタミンB5という名称に変更することを思い付きました。併せて映像として透明な液体ではなく、黄色いビタミンの粒が髪の毛に浸透していくようなイメージ表現を使うことで、便益と独自性を象徴的に伝えることを狙いました。
当時、透明カプセルに入ったある化粧品ブランドの美容液が非常に売れていましたが、そこから着想を得た表現でした。配合成分の名称をブランド名であるパンテノールから変更することに対して、社内からは反対意見が多く出ました。ですが、ビタミンをイメージさせる黄色い成分が髪の毛に浸透するという表現は、それまで認識されていなかったパンテーンの商品品質を表す上で、分かりやすく、納得性があるため、顧客に対するコンセプト調査の結果は圧倒的に好評価でした。
また、同様にパンテーンを販売して既に好調だった台湾のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のチームから、「黄色い透明な粒の表現はいいと思う」との共感をもらっていたので、まずは日本で先行して「プロビタミンB5 (パンテノール)」と併記するなど、段階的に変更を施しました。
テレビCMでも透明の黄色い粒を押し出すことを開始し、数年かけて、パンテーンの便益とその理由が効果的に伝わり、ブランドは継続的に成長しました。
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