
ブランドエクイティを形成する要素とは
この「購入行動に影響を与える認識」を理解する上で重要なのが、現在のブランドエクイティ形成の過程の時系列分析です。アーカー氏が導き出したブランドエクイティを形成する要素について、時系列で考えてみます。
創業期には、創業者は顧客にこんな利便性や便益を与えたい、この独自性を追求したいという思いで、商品・サービスが立ち上がっているはずです。顧客起点ではない創業者起点かもしれません。しかし、そこに顧客が価値を見いだせば、顧客は購入し、売り上げにつながります。
このような創業期の様々な試行錯誤をへて事業が成長する長い過程で、様々なイメージや認識が顧客の中で生まれ、ブランドエクイティが顧客の中で形成されていきます。
企業が管理すべきブランドエクイティとは商品・サービスが多種多様な顧客に、認知され、購入され、再購入され、継続的に購入してもらえる強い購入意思(ロイヤルティー)を構築する複数の便益と独自性の枠です。
枠がない、または枠が曖昧すぎると、長いプロセスの中で、投資の効果が最大化できず、無駄な投資を増やしてしまいます。一方で、枠が狭すぎると、顧客層を不必要に狭めてしまって成長機会を小さく限定したり、また、社会や顧客を取り巻く環境が変わったときに対応できず、行き詰まったりすることになります。
現時点で強いと認識されているブランドも歴史を見れば、長期的な事業成長の過程で、変化しながらも一定の枠の中で、ブランドが育ってきたことが分かります。

例えば、インテリアブランドの「IKEA」はもともと17歳の創業者が注文があればペンや財布など、何でも販売する雑貨商売でした。そこから商材を拡大した結果、今の事業があります。その過程で、どのようなカテゴリーや商品で成功して、失敗したのかをきちんと分析することでブランド育成の過程が分かります。
歴史を精緻に知ることは、重要ではありません。どんな商品・サービスがどのような便益や独自性を通じて、どの顧客層の購入につながり、その結果どんなエクイティイメージをつくってきたかという理解が重要です。その購入につながるエクイティと顧客の関係がどうつくられたのかをひもとくことで、打ち手が見えてきます。この関係の理解なしに、全般的にブランドエクイティを強化しようとすると失敗します。
「ルイ・ヴィトン」の歴史から学べること
例えば、ラグジュアリーブランドは高額で、そのデザイン性やクリエイティブ性といった便益は、少数の人しか手にできません。だからこそ、身に着けることで自己満足が高まる価値を感じられます。ですが、売り上げを上げようとすると、顧客を増やすためにブランドのマス化が検討に挙がります。
ところが誰でも買えるようになると、既存顧客の購入につながっていた「希少性」というエクイティを失い、離反につながる可能性が高まります。
ラグジュアリーブランドの代表格である「ルイ・ヴィトン」も、歴史の中でそれを繰り返してきました。80年代から90年代にかけて、円高によって、パリの本店で観光客が買いあさるようになり、希少性を失い、ラグジュアリーとしての価値を損ないかけました。そこで、段階的に価格を上げつつ、新たにより高級なラインを追加しました。
その後は、アーティストの村上隆氏とコラボしたり、スポーツブランドとコラボしたりして、新しい世代やマスを取り込みながらも、絶対に価格は落としません。既存顧客にはクラシックなルイ・ヴィトンのクリエイティブを提案し、新規層にはエッジが立ったクリエイティブを提案しています。
同じヴィトンの店舗でも銀座店と渋谷店では陳列している商品が異なり、陳列の仕方も異なります。一定の枠の中でブランドを守りながら、クリエイティブでエッジを立てて、顧客層を拡大しています。
ブランドエクイティの枠をどう設定するか
ルイ・ヴィトン、メルセデス、BMWなどはブランドアイデンティティーとしての軸を持ちつつ、ブランドエクイティは、特定の便益や独自性とそこに価値を見いだす顧客層の組み合わせで幅を持たせています。
ですので、実は、マスとしての大衆層を取り込みやすい商品もあれば、マスにはならない商品もあります。このエクイティの枠を狭く定義するほど、ロイヤル顧客だけを高利益率で取り続けるビジネスになります。しかし、新規顧客の獲得による短期的な売り上げ獲得の難度は上がります。
自動車メーカーなどの中にはマスには一切売らないという方針をとる「ブガッティ」や「パガーニ」といったスーパーラグジュアリーを貫く企業もあります。売り上げ規模としては大きくはなりませんが、利益率は非常に高いのが特徴です。
どんな便益と独自性を、どの顧客層と結びつければ価値が生まれるのか、その便益、独自性と顧客層の複数の組み合わせを合算したブランドエクイティの枠をどのように設定するかは経営層として、非常に重要な意思決定です。
このようなラグジュアリーブランドではない、より多くの顧客層を対象とした一般的な商品やサービスであっても、価値を生み出すことができる複数の便益と独自性と顧客層の組み合わせを見極めることは重要です。それらをブランドエクイティの枠として管理していくことが、事業の結果につながるブランドマネジメントです。
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