2-1-14:平均や合計だけを見る「マス思考」の誤り

顧客起点マーケティング WHO WHAT HOWと価値の理解
平均や合計だけを見ていると「マス思考」に陥り、誰にも響かない提案を生んでしまいます。特定の顧客が何に価値を見いだすかを理解し、追求することが重要です。
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平均だけを見ていると、本質は見えてこない

不特定多数の大勢に向けてプロダクトを開発したり、施策を考えたりすることを、「マス思考」と呼びます。マス思考は、一見すると幅広い人に訴求しそうですが、総花的な提案になってしまい、結果として誰にも響かないことに陥りがちです。平均値しか見えなくなり、最大公約数的な施策が多くなるのです。

最大公約数的な施策が持つデメリットを、地球温暖化を例にして考えてみます。地球上の気温上昇を年ごとに平均化して表したグラフは、たしかに右肩上がりになっており「地球温暖化が進んでいる」ことはわかるものの、それ以外の状況が見えてこないため、具体的なアクションを起こしようがありません。しかし、これを海洋の気温と陸地の気温に分解してみると、実は海洋よりも陸地の温度が上がっていることがわかります。海水温度も上がっていて漁獲高への影響も出ていますが、より問題が深刻なのは陸地のほうです。

その上昇を地域ごとに見れば、世界の食糧供給を担う大きな穀倉地帯との重なりがあります。この地域の温暖化こそが具体的な問題であって、このままでは、砂漠化も進み、穀物や農作物の収穫量も大幅に減っていきます。つまり、まずは陸地の穀倉地帯の気温上昇リスクにいかに対処し、食糧生産をどこで確保するかが重要だという話につながっていきます。

このように平均値を見ているだけではものごとの本質は見えず、問題解決の具体策が見えてこないのです。

3人の友人にどんな料理をふるまうか

このことを、別の例題でも考えてみます。家に3人の友人を呼び、料理を出そうと考えています。友人たちに好きな食べ物を聞いたところ、それぞれ「カレーが好き」「ハンバーガーが好き」「寿司が好き」と答えました。3人とも好みがまったく違います。そのとき、次の3つのうち、どれを選ぶでしょうか。

A.みんなの好きなものが合わないので、とりあえず鍋料理を用意する

B.3品とも少しずつ用意する

C.とにかくおいしいカレーをつくる

友人たちを喜ばせるためには、どんな料理を出せばいいか、もちろん絶対の正解はありませんが、一番うまくいく確率が高いのはCではないでしょうか。その理由は、Aの鍋は「つぶし」が効くかもしれませんが、もともと誰も鍋を欲していなかったため、誰も満足しない可能性が高くなります。まさにマス思考で、誰に対しても向き合っていないため、嫌がる人がいない代わりに高い価値を見いだす人もいない選択です。Bの「3品とも少しずつ用意する」案も突出するものがなく、皆がそこそこの価値しか感じられない可能性が高くなります。これもマス思考です。

Cを選択した場合、3人のうち1人は必ず高い価値を見いだします。そこで本当においしいカレーを出すことができれば、残りの2人もよほどカレーが苦手でない限り、「カレーは普段あまり食べないけれど、これは本当においしい」と予期していなかった価値を感じてくれる可能性が高くなります。1人の人が認める価値をさらに強化して提案することによって、同じように「価値」と感じてくれる人が出てくるわけです。テレビCMなどに大規模な投資をするマスマーケティングのように、本来は多種多様な趣味趣向を持っている顧客を「大きな集団」でとらえ、画一的な施策を実行しても、それぞれの心には響きません。

また、マーケティング知識として、「4P」と並んで有名なSTP(マーケットをいくつかのセグメントに分解してターゲット層やポジショニングを設定する)、3C分析(カスタマー:Customer、競合:Competitor、自社:Company、の3つのCに関して行う分析)、PEST分析(政治的要因、経済的要因、社会的要因、技術的要因のマクロ分析)なども思考のきっかけにはなりますが、誰がやっても似たような結論にしかならないので、強度のある便益と独自性を見いだすには不十分です。

それよりも、具体的な1人の顧客を徹底的に理解して、その顧客が見いだしている便益や独自性に注目し、強化していくことで、同じように便益や独自性を感じる人たちを増やす可能性が広がっていきます。そのためにも、まずは1人が認める価値をしっかり突き詰めるのです。

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《西口一希》

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