2-1-32:ブランディングは便益と独自性があってこそ有効

顧客起点マーケティング WHO WHAT HOWと価値の理解
ブランディングをすれば、価値が生まれるわけではありません。プロダクトに便益と独自性があって初めて、ネーミングやロゴによるブランディングが顧客の記憶化を促し、他との区別に役立つのです。
2-1-32:ブランディングは便益と独自性があってこそ有効
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独自性を商品名でしっかり表現する

実際のマーケットにおいてブランディングで成功した例といえば、ロート製薬の「肌ラボ」シリーズの「極潤(ごくじゅん)」もそのひとつです。この商品の特徴は、化粧水や化粧クリームの名前に漢字を使ったことです。

漢字表記は今ではそうめずらしくありませんが、当時はほとんどの化粧品において商品名は英語、パッケージデザインはきれいでシンプルなものばかりでした。そこに登場した「極潤」や「肌ラボ」といった漢字名の商品はインパクトがあり、他の商品と差別化する要素になりました。しかも「極潤」の化粧水やクリームは保湿力の高さが特徴で、保湿力を求める人には強い便益と独自性があったので、それを漢字2文字でしっかり表現していたわけです。

仮に「スキンラボ」のような英語名だったら、他の商品との区別が曖昧になり、商品の便益も伝わりづらいため、店頭で手に取られにくかったでしょう。せっかく購入されても「あの化粧水って何だったっけ?」と忘却される可能性が高くなります。パッケージも、よく見かけるような英語ロゴの化粧品らしいデザインだと店頭ですぐに判別できず、目に付いた他の商品にスイッチされる可能性もあります。脳のキャパシティには限界があるので、新しい商品やサービスが次々と出てくるなかで、独自性がなければ途端に忘却されてしまうのです。

他にも、差別化しにくい商品を独特なマーケティングで売り出した例として、男前豆腐店の「男前豆腐」があります。名称だけでなく、パッケージも他の豆腐とはまったく違ってイラストを全面に使っています。発売時にはそれらの独自性で大きな話題になりましたが、実際は豆腐の品質や製法にもこだわりが強く、食べてみると非常においしいという便益があったため、その後もよく売れています。

そもそも豆腐は、見た目だけでおいしさが伝わりにくい食品です。白くて四角い豆腐を店頭で見て、「この豆腐はとてもおいしそうだ」と思われるよう訴求するのは難しいでしょう。また一度購入して食べたあとも、名前を覚えていないと再購入につながりにくく、独自性を感じてもらいにくいです。だからこそ、思いきった独自のネーミングとパッケージデザインによるブランディングが実行されたと考えられます。

便益と独自性がなければ、ブランディングは成功しない

ただし注意したいのは、これらの商品はブランディングだけで成功したわけではないことです。共通点は、もともと便益が強いプロダクトであることです。どんなプロダクトも、独自性が立っているだけでは「ギミック」に終わりかねません。「男前豆腐」も、独自性の強さから最初は購入に結びつかなかった人も、おいしさという便益があったために「一風変わっているけど、実際に食べたらおいしい豆腐」という口コミで広がりました。便益がなければ、どれほど独自性を尖らせてもブランディングは成立しないのです。

繰り返しになりますが、ブランディングとは、顧客が価値を見いだした便益と独自性とプロダクトの関係を強い記憶として顧客に残し、忘れられないよう、また思い出しやすいようにして継続購入を最大化する手段です。顧客がプロダクトの便益と独自性に高い価値を見いだした結果、ブランディングは継続購入を強化する手段になりますが、プロダクトの価値そのものをつくり出すわけではありません。逆にいえば、顧客がその便益と独自性に高い価値を見いださない限り、いくらブランディング的な投資をしても、売上や利益の向上にはつながりません。

ブランディングはもちろん重要ですが、その目的はあくまで、プロダクトの便益と独自性を思い出してもらうために他の商品と区別してもらうことです。「ブランディング」の語源には諸説ありますが、そもそも牛などの家畜が他の家のものと混同しないよう、焼き印を押していたことに由来するともいわれています。つまり、ブランディングという言葉には「区別する」意味以上はないのです。焼き印をつくって牛に押せば特別な牛になるわけなく、牛自体は変化しません。「ブランディングをしたらモノが売れる」という発想は、それと似たようなものです。

ロゴも、ブランディングにひもづいている

実際のマーケティングの現場ではよく、ロゴやデザインの変更、また名称の変更が提案されることがありますが、それだけでは有効ではありませんし、多くの場合、売れません。ロゴも顧客が感じている価値にひもづいて認識されます。プロダクトの使用体験を通して価値を感じていなければ、ロゴも認識されません。

たくさんのロゴタイプやロゴマークを集めたとき、よく知っているブランドであれば、好き嫌いや買いたい買いたくないなどの何かしらの反応があるはずです。コカ・コーラのロゴタイプを見るだけで、自然と「スカッと爽やか」といった言葉を思い浮かべ、シュワッとするイメージが湧いてくる人は少なくないでしょう。

一方、ほとんど使ったことのない企業のロゴに対しては、あまり具体的なイメージが湧いてきません。国内で流通する、よく知っているブランドを見るときに比べて、世界の知らないブランドのロゴを見たときには、特に何も思い浮かびません。それは、そのプロダクトの便益と独自性を知らないからです。ロゴだけ見せられても、購入意欲は湧きませんし、意味を感じないのです。

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《西口一希》

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