マーケティングは、まるで「樹海」
マーケティングの現場には、手探りでさまよい続け、同じところで悩んでいる人が少なくありません。事業を成長させるために、様々なマーケティングの理論やテクノロジーを勉強し、様々な施策を試みても思ったような成果が出ず、労力や時間だけを消費して疲弊していく……。そんな姿はさながら「樹海」に迷い込んだ旅人のようです。
「マーケティング」というと、一見スマートできらびやかな世界というイメージを持つかもしれませんが、実際に足を踏み入れればそのイメージは変わります。その実情は、まるで鬱蒼と樹々が広がり続ける樹海です。この世界では常に新しい手法やテクノロジーが生まれ続けており、「〇〇マーケティング」や「〇〇戦略」「〇〇理論」など、様々な手法があふれかえっています。マーケティングを学ぶ際も、そうしたものばかりに目がいきがちです。
さらにビジネスをめぐる環境は、刻々と変化し続けています。そのため、マーケティングの世界にあふれるツールや方法論は、からみ合って樹木や雑草となり、その先の道筋を見えなくしています。周到な用意をしないまま一度そこに足を踏み入れれば、出口がどこにあるのか、そもそもゴールが何だったのかもわからなくなり、自分がいる場所さえ見失ってさまよい続けることになってしまうのです。まさに、樹海に迷い込むかのごとくです。
また、マーケティングの世界には専門的な用語もたくさんあります。こうした用語を解説してくれるマーケティングの本やサイトもたくさんあるので、それらを読んで、何とか理解しようとしているマーケティング初心者の方もいるかもしれません。でも、こうした用語は曖昧な定義のまま増殖し、営業目的で使われていることも多いのです。いかにも専門的で説得力のある言葉のように使われていても、意味や定義が曖昧な用語はしょせん「バズワード」にすぎません。ですから、せっかく用語を覚えてなんとなく理解した気になっても、「知っている」で止まってしまっている方もたくさんいます。
マーケティングを「学ぶ」のと、実践「できる」の間には、大きな壁があるのです。その壁を越えられず、右往左往する。これが「マーケティングの樹海」をさまよっている状態です。
「マーケティングの樹海」を抜けだすためにもっとも大切なのは、流行りのツールや具体的な理論を覚えるよりも、マーケティングもふくめた「ビジネスの原則」を理解しておくことです。そしてビジネスを向上させるためには、「ビジネスの原則」と「マーケティング」の関係について構造的に理解し、顧客に何が必要なのかを学ぶことが必要です。
マーケティングの本質は価値づくり
マーケティングが複雑に感じられる理由のひとつは、マーケティングという言葉が指し示すものが定義されていないことです。ここでは「マーケティングとは『顧客』に向けて『価値』を『創造すること』と定義します。マーケティングの本質は、価値づくりにあります。
まず「ビジネスがどう成り立っているのか」から考えてみます。そもそも私たちは仕事の報酬としての対価をいただくために働いていますが、この対価をいただくには、お金を払ってくれる人が必要です。つまり「顧客」がいてこそ、です。顧客に「お金を払ってもいい」と思っていただけるプロダクト(商品やサービス、体験)をつくるために必要なことをすべて実行するのが、マーケティングです。
では、「価値を創造する」とは、どういうことでしょうか? そもそも「価値」とは何なのか? この問いは、マーケティング領域だけでなく、およそどのようなビジネスにとっても重要なことです。
同時に、そのプロダクトを継続的に提供する事業の観点で考えると、いくら多くの顧客が価値を見いだしても、ずっと赤字では持続しません。最初は赤字でも、一定期間のうちに、プロダクトを生み出すためのコストを顧客が払うお金が上回って黒字化する必要があります。また、同じことを続けていては顧客は飽き、競合も登場するので、獲得した利益を再投資してプロダクトを進化させたり、新たな価値をつくり続けることも重要です。
これらを踏まえて、先の定義をもう少しかみ砕くと、「(1)マーケティングとは『顧客』のニーズを洞察し、顧客が『価値』を見いだすプロダクトを生み出すこと。(2)さらに、その価値を高め続けて継続的な利益を生み出し、(3)その利益を再投資して新たな価値をつくり続けること」と表すことができます。
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