2-1-6:価値の四象限で考える、購入の継続と非価格競争力

顧客起点マーケティング WHO WHAT HOWと価値の理解
顧客にとっての便益と独自性が強ければ、顧客が感じる価値が高まり、購入が継続され価格競争から脱却できます。企業は便益や独自性を磨くことで、継続的な利益を生めるようになるのです。
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購入の継続と価格競争

顧客にとって便益と独自性が強ければ、プロダクトに見いだされる価値は大きくなります。同時に、その強さに応じて、購入の継続性や価格競争への巻き込まれやすさも変化していきます。

まず、その顧客にとっての便益が強ければ強いほど、購入や使用の継続性が高まります。プロダクトの便益が期待に対して弱いと、一度使われた段階で「もう要らない」と思われ、次は買ってもらえません。実際に体験して、おいしい、役に立つなど何らかの強い便益を顧客が実感し、満足して初めて「次も買おう」という心理になり、継続的な購入や使用、つまりリピートが起こります。従って、四象限での横軸は、右に進めば「使用と購入の継続」につながります。

一方、プロダクトに競合するプロダクトに代替できない何かがあれば、つまり顧客にとって独自性が強ければ、価格競争と無縁になります。縦軸は、上に進めば「非価格競争力(価格の安さ以外での競争力)」につながります。競合や代替品にない強い独自性を確立できず、縦軸において下の領域に留まっていると、いつまでも価格競争から抜けられないことになります。

手に入りにくいものは「独自性」となる

価格が高くても売れるのか、あるいは続けて買ってもらえるかは、便益と独自性を見いだす方がどれだけいるかで決まります。

例えば2022年5月、画家のアンディ・ウォーホルによるマリリン・モンローを描いた肖像画が1億9500万ドル(当時の為替レートで約250億円)で落札されたというニュースが話題になりました。

これは、ウォーホルがモンローを描いた肖像画をほしいと思う人がたくさんいたということです。なんとしてでも手に入れたいという思いでオークション会場まで足を運んだり、代理人を立てたりして多くの人が争った結果、最終的に約250億円で落札した人が出てきて、肖像画はこの人の手にわたりました。つまり、このモンローの肖像画には、それほど高い価値が発生したということです。

一般的に、価値は希少性に左右されるという側面があります。希少性は独自性ですが、ウォーホルがモンローを描いた肖像画が何百枚もあれば、ここまでの高値はつかなかったはずです。その反対に、手に入りやすいものは、どんなに便益があったとしても価値は低くなります。例えば空気を考えてみると、空気がなくなると人間は生きていけないので、本来は便益が非常に強いはずですが、今はとりあえず地球上のほとんどの場所で潤沢に手に入ります。水中など例外はありますが、空気を手に入れるために、お金や時間を使う必要はありません。そのため価値はゼロに近いです。

その点、水は微妙です。環境汚染や地球温暖化によって飲料に適している水が減ってきているため、昔はゼロだった価値が、徐々に上がっています。浄化してボトリングされた水を入手するためには、お金の他にも、買いに行く体力や時間も必要です。環境の変化とともに水の価値も変化し、今では価値が発生しているといえます。もちろん、地球の環境破壊が進めば、不幸にも空気も水同様に価値が高まってしまいます。

価値を高め続けて、継続的な収益を生み出す

顧客がプロダクトの便益や独自性に価値を見いだしてくれれば、購入や利用が成立します。そのために、企業はプロダクトの便益や独自性を磨き上げる必要がありますが、その際には「継続性」という視点も重要です。ビジネスは一過性では成り立たないので、継続的に利益を生み出すために、その価値を高め続ける必要があるのです。

例えば、ラーメン屋さんが腕によりをかけた豚骨ラーメンを顧客に食べてもらっても、味がイマイチだったら継続してもらえませんが、おいしければ次も来てもらえます。ただし、それも永遠には続きません。最初は「おいしい」と感じていても、やがて味に飽きてくるかもしれません。人は経験を重ねるうちに、最初は素晴らしいと感じていたものが当たり前になっていき、しだいに価値も変化していくからです。

そこで、店としては豚骨ラーメンにバリエーションを加えるとします。「カロリー半分なのに、濃さ2倍」の豚骨ラーメンを提供し、さらにおいしくなり、体にもいいとなると価値は高まるかもしれません。しかし、そこに競争相手が現れてくると、また豚骨ラーメンの価値が相対的に下がってしまいます。豚骨ラーメンのカロリー半分を売る二番煎じの店が近くにできれば比較対象ができるため、顧客が離れていく可能性もあるでしょう。そうなるとコモディティ化して、価格競争の状態に入ってしまいます。その場合、さらに便益を強化するか、独自性を追求しなければ、価値は下がってしまいます。価値の四象限の図でいえば、常に右上の「価値」の象限に上げていく努力を続ける必要があるということです。便益と独自性を高め続けていくことでのみ、顧客に継続的に購入してもらい、収益を上げ続けることができるのです。

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《西口一希》

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