2-1-11:プロダクトアイデアを理解し、磨き続ける

顧客起点マーケティング WHO WHAT HOWと価値の理解
プロダクトアイデアを理解し、磨き続けることが重要です。顧客像を共有し、顧客に価値を感じていただくことで、売上拡大や事業継続が可能になります。
2-1-11:プロダクトアイデアを理解し、磨き続ける

自社のプロダクトアイデアがわからないと売れない

ビジネスの現場では、プロダクトの技術開発者やエンジニアは開発時に具体的な顧客像をイメージしていることも少なくありません。もしくは、創業者自身が自分のほしいと思うものを開発していることもあります。ただ、一般的に技術畑や開発畑の人は、「マーケティング」に対して自分とはまったく違う世界のものという認識を持っていることが多いようです。「マーケティングとは売る施策を考えること」「専門家や広告代理店に任せること」というイメージも強いため、マーケティングに対して距離をとる傾向にあり、開発側が持っている顧客像が社内で共有されていないケースも多々見られます。

一方、HOWばかり意識しているマーケティング部門の人は、そのプロダクトに価値を見いだしてくれるはずの顧客の存在に気づかないことが多くあります。そのため、本来はその顧客に対して届けるべき便益と独自性があるのに、価値を見いだしてくれそうもない人たちに向かって訴えていることもあります。自社の開発チームは、誰が顧客かわかっているのにもかかわらず、結果的にそのプロダクトを真に欲している顧客には届かない、つまり商品が売れないということになってしまうのです。

コミュニケーションアイデアを考える前に、プロダクトアイデアをWHOとWHATの関係で徹底的に考えることで、売上拡大のチャンスが見つかることが多いです。ほとんどの場合で、「既存の商品やサービスでは新しい顧客はもう増えない」ケースはありません。プロダクトの成長余力を100%発揮できているケースはまれで、WHOとWHATの関係で考えていないので、企業がその成長余力に気づいていないケースのほうが多いです。

一方、自分たちが提供しているプロダクトの価値に気づいて成功したケースには、次のような例が挙げられます。料亭や日本料理店で、料理や食卓に添えられる葉っぱを「つまもの」といいます。野山にあるときはただの葉っぱでも、食卓に飾れば美しく食欲をそそり、食体験を演出する飾りや器になるわけです。

徳島県上勝町に、先駆的にこの事業を起こした「株式会社いろどり」という会社があります。そこでは過疎化の進む集落で、平均年齢70歳以上の女性たちにきれいな葉っぱを集めてもらい、料亭などの飲食店に卸しているそうです。この事業を始めた方は、野山にある葉っぱが提供し得る便益と独自性を見つけたのです。そして、その価値を感じてくれる飲食店のオーナーや来店客といった顧客を探し出して、提供したわけです。葉っぱの事業は今では町を代表する事業に成長しているそうで、葉っぱに便益と独自性を見いだし、それを必要とする顧客につなげることができれば、新しい価値をつくり出し、立派なビジネスになるという一例です。

マーケティングの目的は、価値を成立させ続けること

事業を継続するには、プロダクトアイデアを理解した上で、それを磨き続ける必要があります。便益と独自性を常に進化させ、顧客にとっての価値を高めていかなければ、あるときに価値を見いだしてくれた顧客もやがて離れてしまいます。

例えば、ネスカフェブランドを展開するネスレ日本では、プロダクト提案を時代によって進化させてきました。もともと1杯あたり約10円のインスタントコーヒーを販売していましたが、2013年からは商品を溶けやすく改良した「ソリュブルコーヒー」を展開しました。ソリュブルコーヒーになって、1杯あたり約15円と単価は上がりました。インスタントコーヒーは、他にもたくさんあるため、どうしてもコモディティエリアでの価格競争になりがちですが、ネスレはプロダクト自体変えることで差別化をしたのです。結果的に値段が上がっても、顧客はそれに対して価値を見いだしたため、廃れることはありませんでした。

さらにネスレはのちに、「ドルチェグスト」というシリーズも始めました。これはカプセル式のコーヒーメーカーを無料でレンタルでき、コーヒー豆が封入されたカプセルを買えばいいだけの商品で、1杯約50~80円程度になります。挽きたてのコーヒーの味を簡単に、しかも様々なバリエーションを楽しめるという独自性が受け入れられ、人気を確立しました。製法を変えて味や香りを改良したり、より本格的な抽出方法にこだわったりしながら、便益と独自性を強めて価値を高め続けているのがネスレのビジネスといえるでしょう。

このように、顧客がそのプロダクトの便益と独自性を強く感じていれば、お金を払い続けてもらえます。つまり価値が成立し続け、事業が存続します。逆に便益に欠けると、最終的にはコモディティ化して価格競争に巻き込まれますし、独自性が欠けると他社に真似をされ、追随されてしまいます。

便益と独自性を磨き続けて顧客が離れないようにしていくことで、利益が上がっていくのです。マーケティングの目的は、プロダクトの便益と独自性を維持し、強化し続けることです。その意味でも、「誰かにとって明確で、簡単に代替されない便益と独自性は何か」、そして「自社が提供しうる価値は何か」を考え続け、顧客に提案し続けることが大事なのです。

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《西口一希》

WHO WHAT HOWと価値の理解