2-1-4:金銭だけでなく体力や時間も顧客が払うコスト

顧客起点マーケティング WHO WHAT HOWと価値の理解
顧客がプロダクトに価値を見いだす際、金銭だけでなく体力や時間も対価として支払います。例えば、行列のできることで有名な「ラーメン二郎」など、独自性を感じる商品には多くの人が並んででも手に入れたがるのです。
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顧客が払うものは、金銭とは限らない

顧客がプロダクトに価値を見いだしたとき、顧客はそれを入手するために対価を払います。このとき、対価というと金銭を想起しがちですが、「価値=金銭的な評価」とは限りません。体力や時間、知力や考える力なども、顧客が自身の裁量で拠出する対価に該当します。

新発売のゲームソフトや、人気ブランドの限定商品などを手に入れるために、多くの人が店の前に並ぶことがあります。プロダクト自体の代金に加えて、自分の有限な時間を費やし、また並ぶ面倒さや疲労を許容してでも「いち早く入手する」ことを求めているわけです。人気アーティストのコンサートチケットを得るために、予約サイトで何回もクリックするときも、代金に加えて時間や手間を払っています。

金銭が関与しない「価値の等価交換」も成り立ちます。例えば街で、プロモーションとして新発売のドリンクなどが無料で配られるときに行列ができるのは、その価値を無料で入手するために、多くの人が並ぶ時間や体力を費やしていると捉えられます。

知力や思考力、脳内の‟考える余地”を費やすことも、顧客が払う対価になります。新しいパソコンを買いたいけれど、どれにしたらいいだろうかとスペックを比較して迷っているとき、私たちは時間とともに知力や考える力も使っています。他のことを検討したり、仕事をしたりする知力や考える力を割いているのです。

こうしたものは、ほとんど有限です。時間はもちろん、お金も多くの人にとっては有限です。体力や知力なども無限ではありません。

このように、顧客がお金や体力、知力、時間などの有限の資産と交換してでも手に入れたいと思うものが「価値」なのです。

「ラーメン二郎」に払う対価

例えば、根強い人気を誇るラーメン店「ラーメン二郎」には、行列ができていることが少なくありません。濃厚で山盛りのラーメンを求めて行列ができるのは、その味やボリュームに便益を感じている人が多いからです。また、味の濃さとボリュームは同店のラーメンの便益であると同時に、独自性にもなっています。この店以外にはなかなか類似店や類似品が見られず、また登場したとしても同店の支持の厚さから「模倣だ」と批判されるでしょう。顧客にとっての独自性をしっかりと確立すると、顧客の離反を防ぎ、競合の登場を難しくする副次的な効果もあります。

ラーメン二郎のファンには若い男性が多く「ジロリアン」と呼ばれていますが、彼らはきっと自宅近くのラーメン店にはあまり並ばないでしょう。そのラーメンにおいしさという便益は感じたとしても、ラーメン二郎ほどの濃さや量という強い独自性を感じないからです。でも、便益と独自性の両方が成り立つラーメン二郎には、1時間かけてでも並ぶのです。その1時間にアルバイトをすれば、ラーメン1杯以上の収入が得られるのに、並ぶことに使っています。つまり、顧客はラーメン自体の代金に加えて、並ぶための時間まで支払っています。

そこまで強く求めていない人であれば、来店時に行列ができていたら「今日はやめよう」と立ち去るでしょう。この場合、並んででも食べたい人よりも、感じている価値は弱いということになります。

他にも、山奥のお寺でしか食べられない豆腐料理や、住宅街を30分も歩いた場所にある手打ち蕎麦など、長時間歩いたり移動したりしてようやく手にするプロダクトもあります。そこで出される料理が、便利な駅前にある店舗とたいして変わらない味ならば、わざわざ足を運ぶ人は少なく、店を続けるのは難しくなりそうです。

ただし、味以外に例えば「店内から見える外の景色がすばらしい」などの便益や独自性があれば、料理の代金以上に何らかのコストを支払ってくれる可能性はあります。

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《西口一希》

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