2-1-3:価値は、「便益+独自性」で成り立つ

顧客起点マーケティング WHO WHAT HOWと価値の理解
価値は「便益」と「独自性」で成り立ちます。便益は購入理由、独自性は他を選ばない理由。顧客はこれらに基づき商品を選択し、価値を感じるのです。
2-1-3:価値は、「便益+独自性」で成り立つ
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便益は「買う理由」、独自性は「他を買わない理由」

「価値」という言葉は日常的に使われますが、その定義や意味合いは文脈によって様々です。ここでは、価値とは「便益」と「独自性」で構成されると定義します。この2つの要素が組み合わさることで、顧客がプロダクトに対して価値を認め、購入や利用が成立します。

継続的に自社の商品・サービスを購入している顧客、あるいはサブスクリプションサ ービスにおいて長く利用している顧客は、何らかの便益があるから購入あるいは利用し続けているはずです。そして、何らかの独自性を感じているから、他のプロダクトにスイッチしない、離脱しないのです。

まず「便益」とは何でしょうか。英語では「ベネフィット」や「メリット」とも表現されますが、有形か無形かを問わず、それを利用することによって便利になる、楽しい、おいしいなど、顧客に具体的な利益や利便性、快楽などを与えるものです。悩みが解決する、事態がよくなる、効率がよくなる、不快がなくなる……なども便益です。今よりプラスになること、あるいはマイナスが解消することともいえます。

例えば、ひざが痛くない人は「ひざの痛みを治します」というマッサージに便益を感じませんが、ひざが痛い人にとっては便益になるため、わざわざ時間やお金を使ってでも、そのマッサージを受けたいと思うわけです。ですから、便益をシンプルにいえば「選ぶ理由、買う理由」です。

もうひとつの「独自性」とは、唯一無二で、シンプルにいえば「他の選択肢、競合、代替品を選ばない、買わない理由」です。ユニークネス、オリジナル性ともいえます。顧客が過去に見たことや聞いたことがない、あるいは経験したことがないといった新規性のある要素は、その人にとって注目に値します。

商品Aの特徴を、同じ市場の商品B、Cも十分に有するなら、それは独自性とはいいません。商品Aしか有していない、あるいは他の追随を許さないレベルに到達しているから、顧客がBやCを選ばないのです。

200円のミネラルウォーターの便益と独自性

例えば、山歩きをしていて山奥の商店にミネラルウォーターが200円で売っていたら、価格だけ見れば高いと感じるでしょう。ただし飲み物を持っておらず、のどがひどく乾いていて、その店以外に店が見あたらなかったら、高いと思いつつ200円を払って購入する人が少なくないはずです。この場合、「水でのどを潤せる」ことが便益で、「他では売っていない(今、その場ではこれ以外の選択肢がない)」ことが独自性になります。山歩き中という状況で、顧客がミネラルウォーターのこれらの便益と独自性に価値を見いだしたから、その対価として200円を払って入手するのです。

しかし、この価値は固定のものではありません。顧客の「のどの渇き」が潤えば、その便益は弱くなりますし、他の商品や代替品が出てくれば独自性も弱くなります。この商店の100メートル先に自動販売機があり、ミネラルウォーターが120円で売っていることがわかれば、200円のミネラルウォーターの独自性は弱まります。もちろん、あと100メートル歩くというコストを拠出しなければいけませんが、この状況なら歩く人も多いでしょう。

すると、元の商店で扱う200円のミネラルウォーターは売れなくなります。そこで、商店では200円から130円に値を下げるかもしれません。それで歩かずに130円で買うのか、あるいは100メートル歩いて120円のミネラルウォーターを買うのかは、その人が100メートル移動する労力や時間を考えて10円の差をどう判断するかです。

つまり価値とは、顧客がお金や時間、労力や、あれこれ考えるために脳を使う力などと引き換えにその「便益と独自性」を入手したいと思う、関係性が成り立つときに生じるのです。

人は「便益」と「独自性」に価値を感じる

場合によっては、便益自体が独自性を持つこともあります。例えば、新型コロナウイルスのワクチンもそうです。感染が拡大した当初には何種類かの会社の選択肢がありましたが、次第にモデルナ社のワクチンと、ファイザー社のワクチンが主になっていきました。mRNAタイプのこの2つのワクチンの便益が圧倒的に強かったため、他の2つより強い独自性を持ったわけです。このように便益自体が独自性を持つ場合もあれば、便益と関係ない独自性が存在する場合もありますが、いずれにしても、人は便益と独自性の組み合わせに対して価値を感じます。

先の牛乳の例でいえば、仮に「おいしい低脂肪牛乳」という特徴を持つ新製品ができたとしても、アレルギーのある人にとっては便益になりません。ところが、牛乳は好きだけれど今はダイエットしている人に、「おいしい低脂肪牛乳」という提案をすれば、便益を感じてもらえる可能性があります。「低脂肪牛乳は味が薄いもの」と思い込んでいる人に、「おいしい低脂肪牛乳ができました。こんなに味が濃くておいしいのに、低脂肪です」と提案すれば、強い独自性になるからです。すると、その商品は高い値段で売れる可能性が出てきます。

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《西口一希》

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