‟効く”手段は、人や提案内容によって変わる
マーケティングにおいて、「誰に何を提案するか」はとても重要です。顧客が見えていないのに、何が便益および独自性として求められるのかはわかりません。もし、顧客を明確につかめていないのに「このプロダクトには価値がある(便益と独自性がある)」と言い切るなら、それは顧客起点ではなく企業起点になっています。
しかし、つい「どうしたら売上や利益が伸びるか」という方法論(HOW)ばかりを求めてしまい、「顧客が誰なのか(WHO)」「どのような便益と独自性のあるプロダクトが受け入れられるのか(WHAT)」に目が向かないことが多く起きています。WHOやWHATに関する議論ではなく、「○○社のようなおもしろいテレビCMをつくりたい」あるいは「とりあえずSNSで話題にしたい」といった、HOW先行の議論がなされています。ですがHOW先行では、効果や効率の最大化は期待できません。WHO、あるいはWHATが変われば、有効なHOWもまったく変わるからです。
流行りのSNSで話題づくりをしても、届けるべき顧客がそのSNSを見ていなかったら、効果がないのは当然です。逆に、WHOとWHATがしっかり把握できていれば、効果が見込めるHOWを選定することは難しくありません。顧客を深く理解できているほど、その有効性は高まります。
マーケティングで、顧客に「価値がある」と認められるためにすべきことは、顧客のニーズを洞察し、顧客が便益と独自性を見いだすプロダクトを生み出すことです。その価値を高め続けて継続的な収益を生み出し、さらにその収益から、新たな価値を提案するために再投資していきます。
自らのプロダクトの価値を知らなければ、当然伝えられない
世の中には、自社のプロダクトの便益と独自性の可能性を把握できていない企業も少なくありません。しかし、提供側が自らのプロダクトの便益と独自性を認識していなければ、潜在的な顧客にプロダクトの価値を見いだしてもらえません。「うちの商品はこんなに優れているのに、なぜか売れない。どうやって売ったらいいのか?」という悩みを企業が抱えるとき、その商品が売れない理由には、次の2つが考えられます。
① 価値をつくり得る便益と独自性を、それを必要とする顧客に伝えきれていない
② 自分たちが信じて伝えている便益と独自性に、顧客が価値を見いだしていない
まず①について、プロダクトが提供し得る便益と独自性は、「顧客はどんな人か」「どんな便益と独自性に価値を感じてくれているのか」がわかって初めて見えてくるものです。それが不明瞭だと、潜在的な顧客にプロダクトの価値を届けることは難しくなります。
②は、自社が考える便益や独自性に対して、顧客はそれほど強い価値や他社商品との差を感じていない状態です。どんな企業も自社プロダクトに思い入れがあるため、他社のプロダクトとの差異を認識していますが、一般の人にはそれがわかりません。つまり、社内での評価と顧客の評価の乖離が起きています。
潜在的な顧客に価値を届けられていない、他社商品に比べて便益や独自性が乏しいという問題を回避するには、ここでも「どう売るか(HOW)」よりも、「誰に(WHO)、何を(WHAT)提案すれば価値を見いだしてもらえるか」の組み合わせを考えることに尽きます。顧客が見いだしている便益と独自性を洞察して、その関係を広げることが第一歩です。
「誰に、何を」よりも手段手法=HOWが先行する理由
WHOとWHATが定まれば、促したい心理変化や態度変容を見据えて手段手法を選べるため、確実に効率が上がります。逆にWHOとWHATが曖昧だと最大公約数的な訴求にならざるを得ず、非効率なのは明白です。
それなのに、なぜHOW偏重の事態が頻発するかというと、手段手法(HOW)の議論は「誰に何を」提案するかの議論より単純で、単純に議論が済む手法ほど実行するのが容易だからです。実行すれば何らかの結果は出るため、検証を厳密にせずとも一見ビジネスが前進したように感じられ、チームの合意も得やすくなります。
また、手段手法の選択肢が世の中にあふれていることも、理由のひとつです。顧客になっていただきたい方々や、自社プロダクトが押し出すべき便益や独自性が曖昧でも、次の商品開発、新たな販売促進や追加的な営業活動、流行りのマーケティングなどの手段手法へは、すぐに投資できます。
しかしその場合、「どのような顧客に、何を提供するから高い価値が生まれるのか」を見据えられていないので、期待どおりの成果が得られないことが多いです。そして、WHO、WHAT、HOWのどこに失敗の要因があるかがわからないので、戦略と施策の立て直しができず、投資と労力が積み重なり、収益性の向上は難しくなります。仮に売上が上がっても、何が奏功したのかを精査できないので、再現性がありません。
この問題の解決には、まずWHOとWHATを見極めた上で、もっとも有効なHOWを選択することが必要です。WHOとWHATが明確なら、HOWを導くことは難しくありません。HOWから入ると、本来届けるべき顧客は目に入らないので、WHOとWHATを見極めた上でそれに基づいたHOWを実行することが求められます。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です