プロダクトとコミュニケーション、それぞれの提案性
自社のプロダクトについて「このような顧客にとって便益と独自性がある」と確信したとしても、その時点でプロダクトが有しているのは価値ではなく、提案というアイデアに過ぎません。
アイデアには、プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアの2種類があります。前者は、そもそもどんな便益と独自性を持つプロダクトなのかという、商品やサービスそのものに関わるアイデアを指します。一方、後者はプロダクトの便益と独自性を顧客に伝え、購入行動を起こしてもらうための訴求のアイデアを意味します。テレビCMやPR、イベント、キャンペーンなどをどうするか、ということです。つまり、HOWの一部です。
この2つのうち、継続的に売上を拡大させていくために重要な要素は、プロダクトアイデアです。なぜなら、いくらテレビCMなどにお金をかけて便益や独自性への期待を伝えても、購入した商品がそれに見合わず満足してもらえなければ、次の購入は起こらないからです。
それにもかかわらず、企業内における売上拡大のための会議などでは、「どう売るか?(HOW)」といったコミュニケーションアイデアに話が進みがちです。どんなにコミュニケーションアイデアが優れていても、プロダクトアイデアが弱ければ、一時的に売れても中長期的な売上拡大にはつながりません。まずはプロダクトアイデアを強固にすること、つまり「そのプロダクトの顧客は誰なのか(WHO)」「どんな便益や独自性を提案すべきか(WHAT)」の検討が優先されます。
コミュニケーションアイデアだけでは売れない
プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアは、別々で独自性と便益の四象限が成立します。コミュニケーションも、独自性と便益との組み合わせで成り立っています。
コミュニケーションの便益とは、広告を受け止める対象顧客が具体的な便益を受け取れることを意味します。広告に接触すること自体が楽しい、おもしろい、心地良いといったプラスの要素をもたらすか、ということです。一方、コミュニケーションの独自性とは、広告やリアルイベント、キャンペーンの仕組みなどにおけるクリエイティブの独自性を指します。理解しやすい例として広告を取り上げると、そこで使用される言葉、ビジュアル、映像、ドラマ、ストーリー、タレントなどに既視感のない独自性があるかどうか、ということです。独自性とは、注目に値することですが、広告のクリエイティブにも独自性がなければ振り向いてもらえません。コミュニケーション自体に独自性があり、またそれに接すると便益が得られるという両方の条件を満たすのが、「コミュニケーションアイデア」です。
この2つには「プロダクトアイデアが主体でコミュニケーションアイデアは従属要素である」という明確な主従関係があります。プロダクトアイデアは、事業の継続に不可欠です。プロダクトアイデアが強固なら、特に優れたコミュニケーションアイデアがなくとも、顧客の評判などから自然と売れていきます。広告やPR活動に大幅なコストをかけずに、プロダクトそのものが支持されて売上が上がる、理想的な状態といえます。
プロダクトアイデアの独自性がやや弱くても、便益があればコミュニケーションアイデアで補強して、売上の向上やブランドの育成は可能です。しかし、商品やサービスそのものに便益がなかったら、コミュニケーションアイデアだけで中長期的な売上を獲得することは不可能です。注目を集める施策で、瞬間的に売上が上がったとしても、持続は望めません。
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