

その行動は、どんな心理から生まれたのか?
顧客の購入行動の裏にある心理や、人が動く動機となる隠された心理(これを「インサイト」といいます)を探るために行うのが、「N1分析」です。先述したようにインタビューや店頭の購入行動観察などを通して、顧客一人ひとりの分析をしていきます。中でも、顧客の心の中に深く入っていけるのは、直接の会話やインタビューです。顧客の表情や話し方、言葉の使い方などから微妙なニュアンスがわかり、「今の言葉はどういう意味か?」「これは本当に望んでいらっしゃることなのか?」などと掘り下げながら心情の理解を進めていくことができるのです。
こうしたN1分析を通して、そのプロダクトの独自性と便益を導きだします。さらに必要に応じて、量的調査も行い、その独自性と便益に価値を見いだす人がどのくらいいるのかを調べていきます。
「便益と独自性の引き出し」が増えると、マーケティングスキルも磨かれる
N1分析では、他社のプロダクトを使っている、自社プロダクトの「未購入顧客」にもインタビューを行います。例えばシャンプーというカテゴリーの場合、中には髪も石けんで洗うという方もいますが、ほとんどの方は自社の顧客でなければ他社製品を使っていることが多いです。そこで、自社製品を買っていない人にインタビューする際には「何をしたら、他社製品から自社製品に移ってもらえるか」という目的意識を持って行います。競合他社の顧客の心理を理解することで、どのような便益と独自性を提案すれば、自社製品を選択していただけるかのヒントが見えてくるのです。
そこで見つかった選択理由が、現時点では自社で実現できなくても、「新商品を開発する際にはどういう機能や特徴に注力すべきか」「どんな便益や独自性の可能性があるか」という発想につながっていきます。自社のプロダクトの実際のユーザー20人にインタビューをすれば、こうした可能性を少なくとも20通り以上考えることになるので、インタビューの経験が積み重なるにつれて、様々な便益と独自性の提案を思い付く引き出しが増えていきます。こうした引き出しが増えることで、顧客へ提案すべき価値を見つけだす力も磨かれていくのです。
なお、20人にインタビューする場合も、グループインタビューではなく、1人ずつ個別に話を聞き、一人ひとりの心理を掘り下げることがポイントになります。グループインタビューだと、主張の強い他の人の意見に引っ張られることが多いので、N1分析としてはあまり有効性がありません。
他分野の顧客の調査が有効な場合もある
新規プロダクトを発売する前には「そのプロダクトが提供しうる便益が競合する分野は何か」「代替する分野は何か」を考えて、異分野の調査をすることもあります。
仮にヨーグルト製品を販売しようと考えたとき、ヨーグルトの便益のひとつに「お通じがよくなる」ことが考えられます。「お通じがよくなる」という便益を持つ競合を考えてみると、便秘薬も考えられます。それなら、「便秘薬を使っている人たちは何を求めているのか」を理解するインタビューをしてみます。さらにインタビューをした人のうち、「以前は便秘薬を使っていたが今はあまり使っていない人」に話を聞き、「便秘薬を飲むとお腹が痛くなるから、もっと自然にお通じをよくしたい」「薬品からではなく、野菜などの食品から食物繊維を摂りたい」といった思いを抱えている人が多かったなら、自社がこれから開発すべきは「乳酸菌や食物繊維も多く含み、お腹にやさしくてお通じによいヨーグルトではないか」という仮説を立てることができます。
ここで大事なことは、ひとつのカテゴリーにとらわれず、顧客が求める便益を起点にして発想するということです。「お通じをよくする」という顧客の便益から考えてみれば、顧客はヨーグルトのマーケットだけではなくて、便秘薬のマーケットにもいるはずです。便秘薬の購入頻度の高い人、購入頻度の低い人、そして購入から離反した人たちにはそれぞれ何らかの理由があります。「この顧客はなぜ購入を続けているのか」「なぜ購入をやめたのか」などの行動には、すべて理由があるのです。それらをしっかり深掘りしていくと、新しい価値を提案するチャンスが見えてくるのです。
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