価値が生じるかもしれない「便益+独自性」=アイデア
プロダクトを追求し、満を持して市場に送り出しても、期待通りに売上が伸びないことはめずらしくありません。要因のひとつに、企業が「プロダクトに価値がある」と誤解していることが挙げられます。そう思い込んで疑わないために、「これほど価値ある商品なのになぜ購入されないのか」と頭を悩ませ、訴求点の見直しやプロダクト自体の改善、あるいはそもそも対象とする顧客の再検討などに目が向かないことが少なくありません。
価値は、プロダクトが有しているものではありません。価値とは企業がつくって提供するものだと思われていることが多いですが、あくまで「顧客が見いだすもの」です。企業は、「顧客にとって価値になるかもしれない、なってほしいもの」を提案しているに留まり、顧客自身が「これは私にとってよいものだ(便益がある)」、そして「他では手に入らない(独自性がある)」と思わなければ、その提案は価値とはいえません。
WHO(顧客)が、WHAT(プロダクト)が提案する「便益」と「独自性」を自分ごと化して、初めて価値は生まれます。逆にいえば、WHAT(プロダクト)が提案する便益と独自性を顧客が自分ごと化しなければ、価値は生まれないのです。
価値を感じてもらえる可能性のある便益と独自性の組み合わせを、「アイデア」と呼びます。アイデアは、あくまで企業からの一方通行の期待や願望であって、そこに価値が生じるかは顧客が決めることです。企業ができるのは価値づくりではなく、プロダクトにアイデアを込めることです。
企業側は「あなたにとって、価値があるかもしれませんよ」と、便益と独自性のアイデアを提案しているにすぎないのです。マーケティングに携わる人は、自分たちが顧客に価値を提供していると考えるのではなく、「顧客は何に価値を見いだすのか」を起点にする必要があります。
価値を感じるかは、顧客によって異なる
例えば、アルコールの飲めない方(WHO)にとって、ビールの「未体験の〝のどごしのうまさ〟」をアイデアとして提案しても、そもそもアルコール入りのビールはこの方にとって自分ごと化しないため、何の価値も持ちません。よって、購入には至りません。しかし、「未体験の〝のどごしのうまさ〟のビールをプレゼントにいかがですか?」と提案すれば、同じWHOであっても、ビールの大好きな友人へのプレゼントとして価値を見いだす可能性があります。ビール好きの友人にとっての便益と独自性を「未体験の〝のどごしのうまさ〟」の訴求に見いだし、プレゼントとして購入すれば、すなわち価値が成立します。
一方で、この「未体験の〝のどごしのうまさ〟」のビールのノンアルコールバージョンを開発してアイデアとして提案できれば、このアルコールの飲めない方(WHO)も自分にとっての便益と独自性を見いだして、自分用に購入するかもしれません。
また、ニュースアプリの「スマートニュース」は、大手飲食チェーンのお得なクーポンをまとめてチャンネル化した「クーポンチャンネル」が大成功し、スマートニュース自体のダウンロード数と新規顧客数も激増しました。飲食店のクーポンをまとめたサイトは、現在では他社でもたくさん提供されていますが、2017年当時には唯一の存在だったため、そのアイデアに価値があると感じてくれる顧客が多くいたのです。
ところが、中には価値を感じない人もいました。外食の習慣のない人です。毎日家で手づくりのご飯を食べたいと考えている人や、自宅や職場の近くに飲食店がない人にとっては、飲食店のクーポンに価値はありません。
このように、あくまで価値というのはそのプロダクトとその顧客との間に発生するものであり、顧客によってその価値はまったく違ってきます。だから、顧客が誰か、どこにいるのか、もしくはそもそも顧客がいるかどうかもわからないのに、「4P」(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)の企画立案などをしても意味がないのです。まず「顧客(WHO)が誰か」を考えることが大切です。
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