

「CMは大人気なのに売れない」のはなぜか
コミュニケーションアイデアが先行し、結果的に売上に結びつかなかった例を紹介します。ある新発売の清涼飲料水では、プロモーションとして人気タレントを起用したテレビCMを企画しました。映像にも凝り、SNSで口コミが広まる仕掛けも整え、実際に話題になりました。
その後の効果測定調査では、テレビCMによって確かに認知は獲得できていました。しかし、商品自体は売れないままで、CMの放送時期が終わればそのまま忘れ去られてしまいました。これは、プロダクトアイデアを明確に伝えられていない、もしくはプロダクトアイデアがないままにコミュニケーションアイデアだけが広まってしまった例です。
「売るためにバズを起こそう」との考えも、注意が必要です。SNSなどネット上で大きく話題になるとき、人々が語るその中身にしっかりとプロダクトアイデアが含まれ、かつしっかりと見極めた顧客(WHO)にも届くような波及の仕方であれば、便益と独自性に気づいて購入に至る可能性は高くなります。しかし、ただ表現のおもしろさだけが印象に残り、プロダクトがまったく印象に残らないケースも多くあります。その場合、購入に結びつかないため収益につながらず、コミュニケーションへの継続的な投資も難しくなり、何の結果ももたらしません。
コミュニケーション施策を展開する際は、強いプロダクトアイデアを確立した上で、それをコミュニケーションアイデアに落とし込むことが必要です。プロダクトの便益と独自性が伝わらなければ、費用の無駄遣いになってしまいます。
コミュニケーションアイデアの役割と限界
コミュニケーションアイデアの役割は、プロダクトアイデアを対象顧客に伝え、購入行動を起こしてもらうことです。しかし、コミュニケーションアイデアには限界があります。それは、独自性で注目を集めたとしても、その便益がプロダクト自体の便益に結びついていないと機能しないという点です。
話題になる広告には独自性があり、広告自体のおもしろさなどが便益として伝わっています。そうした広告はソーシャルメディアで拡散され、評価されて広告賞を受賞したりしますが、必ずしも商品やサービス自体の購入に結びついているわけではありません。プロダクトアイデアをコミュニケーションアイデアに見事に盛り込み、売上に繋げる好例がある一方で、ヒットしているといわれるテレビCMの多くが、広告が購入に結びつかないという問題を抱えています。
つまり、広告のおもしろさだけが便益として受け止められ、プロダクトの便益にひもづかず、購入に繋がらないのです。そのため、コミュニケーションアイデアとプロダクトアイデアを適切に組み合わせることが、売上拡大のための重要な戦略となるのです。
プロダクトアイデアの有無で事業の継続性をみる
プロダクトアイデアとは、対象顧客に対して具体的な便益があり、かつ商品やサービスそのものに独自の機能や特徴があることです。例えばiPhoneはその登場時、携帯電話に音楽プレーヤーのiPod機能が備わり、インターネットに繋がった唯一の携帯電話=スマートフォンでした。このように、独自性自体が便益であれば最強ですが、独自性が便益と繋がっていなければ、四象限で示したギミックに該当します。
発売後、早期に市場から消えてしまった、短命のプロダクトはどの市場にも多く見つかります。ほとんどの場合、これは偶然ではなく、商品登場時から見えていた結果です。もちろん、短期の売上を作るために意図的にこうした商品を発売する場合もあるでしょうが、そうでないなら、継続的な購入になり得るかどうか、プロダクトアイデアの有無で検証する必要があります。
最も理想的なのは、登場時のiPhoneのように、独自性そのものが便益であることです。次に理想なのは、確固たる独自性が便益を支えている場合です。例えば風邪薬で「独自の有効成分Aが入っているから効く」という場合、「A」という独自性が「風邪が治る」という顧客にとっての便益を支えています。P&Gに"Reason to Believe(RTB)"、信じるに足る理由という意味のマーケティング用語がありますが、この例ではRTBとして「A」があるから顧客が購入しているわけで、風邪が治るという便益自体は、どの風邪薬でも共通して謳っていることです。
もちろん、このようなプロダクトアイデアを創出するのは簡単ではないですが、独自性と便益を両立する「アイデア」を創出することは、マーケティング責務のひとつです。
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