
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
クレイトン・クリステンセン(Clayton Christensen、1952年 - 2020年)は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、経営学、特にイノベーションの分野で多大な影響を与えた人物です。彼の最も有名な著書は『イノベーションのジレンマ (The Innovator's Dilemma)』(1997年)であり、この中で提唱された「破壊的イノベーション (Disruptive Innovation)」という概念は、ビジネス界に大きな衝撃を与えました。
「破壊的イノベーション」
破壊的イノベーションとは、既存の市場や価値観を破壊し、新しい市場や価値観を創造するイノベーションのことです。既存の企業は、既存の顧客や市場に焦点を当て、既存の製品やサービスの改良に注力する傾向がありますが、破壊的イノベーションは、当初は既存の市場では価値がないと見なされるような、シンプルで安価な製品やサービスから始まります。しかし、徐々に性能や品質を向上させ、最終的には既存の市場を侵食し、支配するようになります。一方で、対照的に、「持続的イノベーション (Sustaining Innovation)」という概念があります。持続的イノベーションは、既存の製品やサービスを改良し、既存の市場における競争力を維持するためのイノベーションです。既存企業は、持続的イノベーションには積極的に投資しますが、破壊的イノベーションには対応が遅れる傾向があります。
破壊的イノベーションの特徴
当初は既存市場で価値がない: 既存の顧客のニーズを満たすものではないため、当初は既存市場では注目されません。
シンプルで安価: 既存の製品やサービスよりもシンプルで安価なことが多いです。
新しい市場や顧客を創造: 既存市場とは異なる新しい市場や顧客を創造します。
徐々に性能や品質を向上: 徐々に性能や品質を向上させ、既存市場を侵食していきます。
既存企業にとって脅威: 既存企業は、破壊的イノベーションに対応できずに市場を失うことがあります。

「イノベーションのジレンマ」
イノベーションのジレンマとは、既存の優良企業が、合理的な経営判断に基づいて行動しているにもかかわらず、破壊的イノベーションによって市場で失敗してしまう現象のことです。既存企業は、既存の顧客のニーズに応え、利益率の高い既存事業に資源を集中させる傾向があります。そのため、当初は利益率が低く、既存顧客のニーズを満たさない破壊的イノベーションを軽視しがちです。しかし、破壊的イノベーションが徐々に成長し、既存市場を侵食するようになると、対応が遅れてしまい、市場を失ってしまうのです。
イノベーションのジレンマの例
デジタルカメラの登場: フィルムカメラの市場を支配していたコダックは、デジタルカメラの登場に対応が遅れ、倒産に至りました。
パーソナルコンピュータの登場: メインフレームコンピュータを製造していたIBMは、当初パーソナルコンピュータを軽視していましたが、後に市場を席巻されました。
オンライン音楽配信サービスの登場: CD販売を主体としていた音楽業界は、iTunesなどのオンライン音楽配信サービスの登場に対応が遅れ、大きな打撃を受けました。
クリステンセンは、企業が破壊的イノベーションに対応するためには、以下の方法が有効であると提唱しています。
独立した組織を設立: 既存事業とは別に、破壊的イノベーションに特化した独立した組織を設立する。
小さな市場から開始: 当初は利益率が低い小さな市場から開始し、徐々に市場を拡大していく。
既存のプロセスや価値観にとらわれない: 既存事業のプロセスや価値観にとらわれず、新しいビジネスモデルを構築する。
顧客の声に耳を傾けるだけでなく、新しい市場の可能性を探る: 既存顧客の声だけでなく、新しい市場の可能性を探ることで、破壊的イノベーションの兆候を早期に捉える。
クリステンセンの代表的な著書
『イノベーションのジレンマ』
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