
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
マーサ・ロジャーズ(Martha Rogers、1914年 - 1994年)は、ドン・ペパーズ(Don Peppers)との共著『ワン・トゥ・ワンの未来(The One to One Future: Building Relationships One Customer at a Time)』で知られる、顧客中心主義マーケティングの先駆者の一人です。もともと看護学の研究者でしたが、後にマーケティング分野に転身し、ドン・ペパーズと共同でコンサルティング会社「ペパーズ&ロジャーズ・グループ」を設立しました。彼女とペパーズが提唱した「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」は、従来のマスマーケティングとは異なる、顧客との個別の関係構築を重視する革新的なアプローチでした。彼女は、顧客との関係性を重視するマーケティングの重要性を早くから認識し、その理論構築と普及に貢献しました。
「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」
ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、企業が個々の顧客との関係を構築し、維持することに焦点を当てたマーケティング戦略です。従来のマスマーケティングが不特定多数の顧客に対して同じメッセージを発信するのに対し、ワン・トゥ・ワン・マーケティングでは、顧客一人ひとりのニーズや嗜好に合わせてカスタマイズされたコミュニケーションやサービスを提供します。ワン・トゥ・ワン・マーケティングの基本的な考え方は以下の通りです。
顧客の識別 (Identify): 顧客データベースなどを活用し、個々の顧客を識別します。顧客の名前、連絡先、購買履歴、嗜好などの情報を収集し、顧客プロファイルを構築します。
顧客の差別化 (Differentiate): 顧客を価値の高い顧客とそうでない顧客に分け、それぞれの顧客に最適な対応を行います。例えば、優良顧客には特別なサービスや特典を提供し、ロイヤルティを高めます。
顧客との対話 (Interact): 顧客とのコミュニケーションを通じて、個々のニーズや嗜好を理解します。アンケート、フィードバック、ソーシャルメディアなどを活用し、顧客との双方向のコミュニケーションを実現します。
顧客に合わせたカスタマイズ (Customize): 顧客のニーズや嗜好に合わせて、製品、サービス、メッセージなどをカスタマイズします。例えば、顧客の過去の購買履歴に基づいてパーソナライズされた商品をお勧めしたり、顧客の興味に合わせたコンテンツを提供したりします。
「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」
|
ワン・トゥ・ワン・マーケティングがマーケティングに与えた影響
ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、現代のマーケティングに大きな影響を与えています。
CRM(顧客関係管理)の普及: ワン・トゥ・ワン・マーケティングの考え方は、CRM(Customer Relationship Management)システムの普及を後押ししました。CRMシステムは、顧客情報を一元管理し、顧客との関係を構築・維持するためのツールとして、多くの企業で導入されています。
パーソナライズされたマーケティングの重要性の認識: ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたマーケティングの重要性を広く認識させました。メールマーケティング、ウェブサイトのパーソナライズ、レコメンデーションエンジンなど、様々なマーケティング手法でパーソナライズが活用されています。
顧客ロイヤルティの重視: ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、短期的な売上だけでなく、長期的な顧客関係の構築、つまり顧客ロイヤルティの重要性を強調しました。リピート購入の促進、顧客生涯価値の最大化など、顧客ロイヤルティを高めるための様々な施策が展開されています。
データドリブンマーケティングの進化: ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実践するためには、顧客データの収集と分析が不可欠です。このことが、データドリブンマーケティングの進化を加速させました。顧客データ、行動データ、属性データなどを分析し、顧客インサイトを獲得することで、より効果的なマーケティング施策を展開することが可能になりました。
顧客中心主義の浸透: ワン・トゥ・ワン・マーケティングは、企業活動の中心に顧客を据える「顧客中心主義」の考え方を浸透させました。製品開発、サービス提供、マーケティングコミュニケーションなど、あらゆる企業活動において顧客の視点を重視するようになりました。
具体的な例
Amazonのレコメンデーションエンジン: Amazonは、顧客の購買履歴や閲覧履歴に基づいて、パーソナライズされた商品をお勧めしています。これは、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの典型的な例と言えるでしょう。
Netflixのパーソナライズされたコンテンツ配信: Netflixは、顧客の視聴履歴に基づいて、個々の顧客に最適な映画やドラマをお勧めしています。これも、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの考え方を応用したものです。
従来のマスマーケティングとの違い
項目 | マスマーケティング | ワン・トゥ・ワン・マーケティング |
---|---|---|
対象 | 不特定多数の顧客 | 個々の顧客 |
コミュニケーション | 一方向(企業から顧客へ) | 双方向(企業と顧客の間) |
メッセージ | 画一的 | パーソナライズされている |
目的 | 大量販売 | 顧客との長期的な関係構築 顧客生涯価値の最大化 |
焦点 | 製品 | 顧客 |
ペパーズとロジャーズのその他の著書
ペパーズとロジャーズは、「ワン・トゥ・ワンの未来」以外にも、以下のような著書を共著しています。
ワン・トゥ・ワン企業戦略(Enterprise One to One):ワン・トゥ・ワン・マーケティングを企業全体に適用するための戦略を解説。
ワン・トゥ・ワン・マネージャー(The One to One Manager):ワン・トゥ・ワン・マーケティングを組織内で実践するための具体的な方法を解説。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です