
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
イゴール・アンゾフ(Igor Ansoff、1918年 - 2002年)は、「戦略経営の父」とも呼ばれる経営学者です。彼の最も有名な業績の一つが「アンゾフ・マトリックス」であり、これは企業が成長戦略を策定する上で非常に有用なフレームワークです。著書には『企業戦略論』や『戦略経営論』などがあります。
「アンゾフ・マトリックス(成長マトリックス)」
アンゾフ・マトリックスは、企業が成長戦略を検討する際に、市場と製品の2つの軸を用いて、4つの成長戦略を提示するフレームワークです。縦軸に「製品」、横軸に「市場」を取り、それぞれ「既存」と「新規」で区分することで、以下の4つの象限が生まれます。
市場浸透(Market Penetration): 既存の市場で既存の製品の販売を拡大する戦略です。これは、最もリスクの低い成長戦略と言えます。具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
広告宣伝の強化:テレビCM、ウェブ広告、SNS広告など、様々な媒体を活用して認知度を高めます。
販売促進:割引キャンペーン、ポイントプログラム、クーポン発行など、購買意欲を刺激する施策を行います。
価格戦略:競合他社との価格競争、プレミアム価格戦略など、価格設定によって市場シェアの拡大を図ります。
既存顧客への深耕:リピート購入の促進、顧客ロイヤルティプログラムの導入など、既存顧客との関係性を強化します。
市場開拓(Market Development): 新しい市場で既存の製品を販売する戦略です。既存の製品を活かしながら、新たな顧客層や地域に進出することで成長を目指します。具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
新しい地域への進出:国内の未開拓地域への進出、海外市場への進出など、地理的な拡大を図ります。
新しい顧客層の開拓:これまでターゲットとしていなかった顧客層にアプローチします。例えば、若年層向けの商品を開発し、新たな市場を開拓するなどです。
新しい販売チャネルの開拓:オンライン販売、代理店販売、フランチャイズ展開など、新たな販売経路を確立します。
製品開発(Product Development): 既存の市場で新しい製品を販売する戦略です。既存の顧客基盤を活用しながら、新しい製品やサービスを提供することで成長を目指します。具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
新製品の開発:全く新しい製品を開発し、市場に投入します。
既存製品の改良:既存製品の機能向上、デザイン変更、品質改善などを行い、顧客のニーズに応えます。
製品ラインの拡充:既存製品に関連する製品を開発し、品揃えを増やします。
多角化(Diversification): 新しい市場で新しい製品を販売する戦略です。これは、最もリスクの高い成長戦略と言えますが、成功すれば大きな成長が期待できます。具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
新規事業への参入:既存事業とは全く異なる分野の事業に進出します。
M&A(合併と買収):他の企業を買収することで、新しい市場や製品を獲得します。

アンゾフ・マトリックスのマーケティングへの応用
成長目標の設定: どの成長戦略を選択するかによって、達成すべき目標が変わってきます。例えば、市場浸透戦略では市場シェアの拡大、多角化戦略では新規事業の立ち上げなどが目標となります。
マーケティングミックスの最適化: 各成長戦略に合わせて、最適なマーケティングミックス(4P:Product、Price、Place、Promotion)を検討する必要があります。例えば、市場開拓戦略では、新しい市場に合わせたプロモーション活動を展開する必要があります。
リスクとリターンの評価: 各成長戦略には、それぞれリスクとリターンが存在します。アンゾフ・マトリックスを用いることで、各戦略のリスクとリターンを比較検討し、最適な戦略を選択することができます。
アンゾフ・マトリックスの注意点
アンゾフ・マトリックスは有用なフレームワークですが、以下の点に注意する必要があります。
静的な分析ツールであること: 市場や競合状況は常に変化するため、定期的に見直しが必要です。
定性的な要素を考慮していないこと: 市場規模、成長率、競合状況などの定量的なデータだけでなく、顧客ニーズ、技術動向、規制などの定性的な要素も考慮する必要があります。
戦略の選択は状況によって異なること: どの戦略が最適かは、企業の状況、市場環境、競合状況などによって異なります。
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