
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
セオドア・レビット(Theodore Levitt、1925年 - 2006年)は、ドイツ生まれのアメリカ人経営学者で、ハーバード・ビジネススクールの教授を務めました。「マーケティング近視眼 (Marketing Myopia)」という概念を提唱したことで非常に有名であり、現代マーケティングの基礎を築いた人物の一人と言えます。彼の著書である「マーケティング近視眼」は、1960年にハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文であり、その後、書籍『マーケティング論』としても出版され、世界中で大きな影響を与えました。レビットは、従来のマーケティングの考え方を批判し、顧客中心のマーケティングの重要性を説きました。彼は、企業が製品そのものに焦点を当てるあまり、顧客のニーズを見失ってしまう「マーケティング近視眼」に陥っていると指摘し、企業は顧客のニーズを満たすことに焦点を当てるべきだと主張しました。
「マーケティング近視眼」
「マーケティング近視眼」
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「マーケティング近視眼」とは、企業が自社の製品やサービスに過度に焦点を当て、顧客のニーズや市場の変化を見落としてしまう状態を指します。レビットは、企業が「自分たちは何を作っているのか」ではなく、「顧客は何を求めているのか」という視点を持つべきだと主張しました。マーケティング近視眼に陥っている企業の典型的な例として、レビットは鉄道会社を挙げています。鉄道会社は、自分たちを「鉄道事業」と定義し、鉄道輸送以外の交通手段の発達に対応できずに衰退していきました。もし、彼らが自分たちを「輸送事業」と定義していれば、自動車や航空機の発達にも対応し、事業を多角化できた可能性があります。レビットは、企業がマーケティング近視眼に陥る原因として、以下の点を指摘しています。
成長への過信: 企業は成長を追求するあまり、顧客のニーズの変化を見落としてしまうことがあります。
製品への偏重: 製品そのものに過度に焦点を当て、顧客のニーズを満たすという目的を見失ってしまうことがあります。
変化への抵抗: 市場の変化や技術革新に抵抗し、現状維持に固執してしまうことがあります。
マーケティングへの影響
レビットの「マーケティング近視眼」の概念は、現代マーケティングに大きな影響を与えています。
顧客中心主義の確立: 顧客のニーズを重視する考え方は、現代マーケティングの基本的な考え方となっています。
市場志向の重要性の認識: 企業は、市場の変化に常に注意を払い、市場のニーズに合わせた製品やサービスを提供していくことが重要です。
イノベーションの促進: 顧客のニーズを満たすためには、常に新しい製品やサービスを開発していく必要があります。
「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という言葉
レビットの言葉として有名なものに、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがあります。これは、顧客は製品そのものではなく、製品がもたらす便益や解決策を求めているということを意味しています。この言葉は、マーケティングの本質を的確に表しており、多くの人に引用されています。
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