
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む40人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、40人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
デビッド・オグルビー(1911年 - 1999年)は、「広告の父」とも呼ばれる20世紀を代表する広告界の巨匠です。著書『ある広告人の告白(Confessions of an Advertising Man)』と『オグルビー・オン・アドバタイジング(Ogilvy on Advertising)』は、広告業界のバイブルとして今でも広く読まれています。彼が提唱した「クリエイティブな広告コピーの重要性」について詳しく解説し、それがマーケティングに与えた影響を説明します。オグルビーは、単なる芸術作品ではなく、消費者の購買意欲を刺激し、実際に売上につながる広告、つまり「売るための広告」を重視しました。徹底的なリサーチに基づいた事実を伝える広告を提唱し、ブランドイメージの重要性を早くから認識し、広告を通じてブランドの個性を確立することに尽力しました。
広告としてのクリエイティブなコピー
オグルビーは、広告の成否はコピー(広告文)の質によって大きく左右されると考えました。彼は、単に情報を伝えるだけでなく、消費者の注意を引きつけ、興味を持続させ、購買意欲を喚起するような、クリエイティブなコピーの重要性を強調しました。彼のコピーライティングに関する原則は、現代のマーケティングにおいても非常に重要な示唆を与えています。オグルビーが重視したクリエイティブなコピーの要素は以下の通りです。
事実に基づく情報 (Facts): 曖昧な表現や誇張表現ではなく、事実に基づいた情報を提供することで、消費者の信頼を得ることを重視しました。例えば、製品の具体的な性能や効果、顧客の声などを客観的なデータとして提示することで、説得力を高めます。
明確で簡潔な表現 (Clarity and Simplicity): 複雑な言葉遣いや専門用語を避け、誰にでも分かりやすい言葉で伝えることを心掛けました。難解な表現は読者を遠ざけてしまうため、平易な言葉でメッセージを伝えることが重要です。
ストーリー性のある表現 (Storytelling): 物語性を持たせることで、消費者の感情に訴えかけ、記憶に残る広告を作ることを重視しました。単なる説明文ではなく、読者の共感や想像力を掻き立てるようなストーリーを用いることで、メッセージがより深く心に響きます。
ヘッドラインの重要性 (Importance of Headlines): ヘッドライン(見出し)は広告の中で最も重要な要素であり、消費者の注意を引く魅力的なものでなければならないと考えました。読者はまずヘッドラインに注目するため、簡潔で力強く、興味をそそる言葉を選ぶことが重要です。
長いコピーの有効性 (Long Copy): 興味を持った読者は長いコピーでも読むため、必要な情報を十分に伝えることができるとしました。短いコピーでは伝えきれない情報を、詳細な説明や事例などを交えて伝えることで、読者の理解を深めます。ただし、長ければ良いというわけではなく、読者を飽きさせない工夫が必要です。
ブランドイメージとの一貫性 (Consistency with Brand Image): コピーはブランドイメージと一貫していなければならないと考えました。ブランドが持つ個性や価値観を反映したコピーを用いることで、ブランドイメージを強化し、消費者からの認知度を高めます。
「広告としてのクリエイティブなコピー」
|
マーケティングへの影響
オグルビーの提唱したクリエイティブな広告コピーの重要性は、現代のマーケティングに多大な影響を与えています。
コンテンツマーケティングの隆盛 (Rise of Content Marketing): オグルビーが重視したストーリーテリングは、現代のコンテンツマーケティングにおいて重要な要素となっています。顧客にとって価値のある情報を提供することで、ブランドへの関心を高め、長期的な関係を構築する手法は、オグルビーの教えと深く関連しています。ブログ記事、ソーシャルメディア投稿、動画など、様々なコンテンツを通じてストーリーを伝えることで、顧客とのエンゲージメントを高めます。
コピーライティングの重要性の再認識 (Re-emphasis on Copywriting): デジタルマーケティングが主流となる現代においても、コピーライティングの重要性は変わっていません。ウェブサイトのコピー、広告文、メールマガジンなど、あらゆる場面で効果的なコピーが求められています。オグルビーの原則は、現代のコピーライターにとっても重要な指針となっています。
顧客中心のメッセージング (Customer-Centric Messaging): オグルビーは、常に顧客の視点に立って広告を作ることを重視しました。これは、現代のマーケティングにおける顧客中心主義の考え方と一致しており、顧客のニーズや課題を理解し、それに応えるメッセージを発信することが重要とされています。
データに基づいたクリエイティブ (Data-Driven Creative): オグルビーは事実に基づく情報を重視しましたが、現代ではデータ分析に基づいてクリエイティブを最適化する手法が発展しています。A/Bテストなどを活用し、どのコピーが最も効果的かを検証することで、より効果的な広告展開が可能になっています。
具体的な例
ハサウェイのシャツ広告 (Hathaway Shirts): アイパッチをつけた男性を起用したこの広告は、ミステリアスな雰囲気で注目を集め、ハサウェイのシャツのブランドイメージを高めることに成功しました。これは、ストーリー性のあるビジュアルとコピーの組み合わせの成功例と言えるでしょう。
ロールス・ロイスの広告 (Rolls-Royce): 「時速60マイルで走行中、一番うるさいのは電気時計の音だけ」というコピーは、ロールス・ロイスの静粛性を際立たせ、高級車としてのブランドイメージを確立しました。これは、簡潔で力強いヘッドラインと、製品の優れた点を明確に伝えるコピーの好例です。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です