
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
マイケル・ポーター(Michael Porter、1947年 - )は、ハーバード・ビジネススクールの教授であり、経営戦略論の分野で世界的に著名な学者です。特に、『競争の戦略 (Competitive Strategy)』(1980年)で提唱された「バリューチェーン」「5フォース分析」と、それに基づいた「3つの基本戦略」は、企業が競争環境を分析し、競争優位を確立するための重要なフレームワークとして、広く活用されています。
「バリューチェーン」
企業の活動を、製品やサービスを顧客に届けるまでの一連の活動(主活動と支援活動)に分解し、どの活動で付加価値を生み出しているのかを分析するフレームワークです。バリューチェーン分析を通じて、コスト削減の余地や差別化のポイントを見つけることができます。
「5フォース分析」
5フォース分析は、業界の収益性に影響を与える5つの競争要因を分析することで、業界の構造と競争状況を把握するためのフレームワークです。これらの要因を分析することで、企業は自社が置かれている競争環境を客観的に評価し、適切な戦略を立案することができます。
新規参入の脅威 (Threat of New Entrants): 新規企業が市場に参入してくる可能性。参入障壁が高いほど、既存企業にとって有利になります。
影響要因: 規模の経済性、製品差別化、ブランド力、参入に必要な資本、流通チャネルへのアクセス、政府の規制など。
高ければ: 既存企業は価格競争に巻き込まれやすく、収益性が低下します。
低ければ: 既存企業は安定した収益を確保しやすくなります。
買い手の交渉力 (Bargaining Power of Buyers): 顧客(買い手)が価格交渉力を持つ度合い。買い手の交渉力が強いほど、企業の収益性は低下します。
影響要因: 買い手の集中度、情報の入手しやすさ、スイッチングコスト(乗り換え費用)、代替品の存在など。
高ければ: 企業は価格引き下げを要求されやすく、収益性が低下します。
低ければ: 企業は価格設定の自由度が高まります。
売り手の交渉力 (Bargaining Power of Suppliers): 供給業者(売り手)が価格交渉力を持つ度合い。売り手の交渉力が強いほど、企業のコストは増加します。
影響要因: 売り手の集中度、代替供給業者の存在、買い手のスイッチングコスト、供給品の重要性など。
高ければ: 企業は原材料費などのコスト増加に直面し、収益性が低下します。
低ければ: 企業はコストを抑えやすくなります。
代替品の脅威 (Threat of Substitutes): 既存の製品やサービスを代替するものが現れる可能性。代替品の脅威が高いほど、企業の収益性は低下します。
影響要因: 代替品の価格と性能、買い手のスイッチングコストなど。
高ければ: 企業は価格競争に巻き込まれやすく、収益性が低下します。
低ければ: 企業は安定した需要を確保しやすくなります。
業界内の競合 (Rivalry among Existing Competitors): 既存企業同士の競争の激しさ。競争が激しいほど、企業の収益性は低下します。
影響要因: 競合企業の数、業界の成長率、製品の差別化、撤退障壁など。
高ければ: 価格競争、広告競争、新製品開発競争などが激化し、企業の収益性が低下します。
低ければ: 企業は安定した収益を確保しやすくなります。

「3つの基本戦略(ポーターの競争戦略)」
ポーターは、5フォース分析に基づき、企業が競争優位を確立するための3つの基本戦略を提唱しました。
コスト・リーダーシップ戦略 (Cost Leadership): 業界内で最も低いコストで製品やサービスを提供することで、競争優位を確立する戦略。規模の経済、効率的な生産体制、コスト管理などが重要になります。
差別化戦略 (Differentiation): 競合他社とは異なる独自の価値を提供することで、競争優位を確立する戦略。高品質、革新的な技術、優れたデザイン、ブランド力などが差別化の要因となります。
集中戦略 (Focus): 特定の顧客層、地域、製品分野に特化することで、競争優位を確立する戦略。ニッチ市場に特化することで、顧客のニーズにきめ細かく対応できます。コスト集中戦略と差別化集中戦略の2種類があります。
戦略 | 特徴 | 成功要因 |
---|---|---|
コスト・リーダーシップ | 業界最低コストでの製品提供 | 規模の経済、効率的な生産体制、コスト管理、サプライチェーンの最適化など |
差別化 | 独自の価値提供(高品質、革新性、デザイン、ブランド力など) | 研究開発力、マーケティング力、ブランド構築力、顧客サービスなど |
集中 | 特定の顧客層、地域、製品分野に特化 | 特定市場への深い理解、顧客ニーズへの的確な対応、専門性など |
ポーターの競争戦略は、企業が競争環境を分析し、自社の強みを生かした戦略を立案するための重要なフレームワークです。5フォース分析で業界の構造と競争状況を把握し、3つの基本戦略から最適な戦略を選択することで、企業は持続的な競争優位を確立することができます。
ポーターのその他の貢献
ポーターは、競争戦略以外にも、「バリューチェーン分析」、「クラスター分析」など、経営戦略に関する様々な概念を提唱し、現代経営論に大きな影響を与えています。
主な著書
『競争の戦略』
『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』(※ジョアン・マグレッタ著、マイケル・ポーター協力)
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