
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
デビッド・アーカー(David Aaker、1938年 - )は、「モダンブランディングの父」とも称される、アメリカの著名な経営学者、ブランド戦略コンサルタントです。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院の名誉教授であり、ブランド論の第一人者として知られています。彼の最も有名な業績は、著書『ブランド・エクイティ戦略 (Managing Brand Equity)』(1991年)および『Building Strong Brands』(1996年)で体系化した「ブランド・エクイティ理論」です。この理論は、ブランドを企業の重要な資産として捉え、その価値を最大化するための方法論を提供し、現代のブランディング戦略に大きな影響を与えています。
「ブランド・エクイティ理論」
ブランド・エクイティとは、ブランド名やシンボルと結び付いたブランド資産(および負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増減させるものです。つまり、強力なブランドは、顧客の購買行動や企業の収益にプラスの影響を与え、弱いブランドはマイナスの影響を与えるということです。アーカーは、ブランド・エクイティを構成する要素として、以下の5つを提唱しました。
ブランド・ロイヤルティ(Brand Loyalty): 顧客が特定のブランドを繰り返し購入する傾向。顧客の維持、価格プレミアムの許容、競合への弱さなどに影響します。
習慣的な購入
切り替えコスト(他のブランドへの乗り換えに伴う費用)
顧客満足度
好意的な口コミ
ブランド認知(Brand Awareness): 顧客がブランドを認識し、想起できる度合い。ブランドの存在を知っているか、特定のカテゴリーで思い出すことができるかなどが含まれます。
ブランド想起(カテゴリーに紐づけてブランドを思い出すこと)
ブランド再認(提示されたブランドを認識すること)
ブランドの優位性(特定のカテゴリーで最初に思い出すブランド)
知覚品質(Perceived Quality): 顧客がブランドに対して抱く品質の評価。製品の選択、顧客満足度、ブランド拡張の可能性などに影響します。
品質に対する顧客の全体的な評価
特定の属性(性能、耐久性、信頼性など)に対する評価
ブランド連想(Brand Associations): 顧客がブランドに対して抱くイメージや連想。ブランドの個性、ライフスタイル、使用場面など、様々な要素が含まれます。
ブランドの個性(例:若々しい、洗練された、信頼できる)
ユーザーイメージ(例:特定のライフスタイルを持つ人々が使用している)
使用場面(例:特別な日に使用する)
製品属性(例:革新的な技術、優れたデザイン)
シンボル(例:ロゴ、スローガン、キャラクター)
その他のブランド資産(Other Proprietary Brand Assets): 特許、商標、チャネル関係など、ブランドに付随するその他の資産。競合優位性や参入障壁の構築に貢献します。
特許
商標
チャネル関係

ブランド・エクイティの構築プロセス
アーカーは、『Building Strong Brands』の中で、ブランド・エクイティを構築するためのプロセスを詳細に説明しています。重要なのは、顧客の視点に立ち、顧客にとって価値のあるブランドを構築することです。
ブランド・アイデンティティの明確化: ブランドが何を表し、何を約束するのかを明確に定義します。ブランドの核となる価値観、個性、ビジョンなどを言語化します。
ブランド・ポジショニングの確立: 競合との差別化を図り、顧客の心の中に明確な位置を占めるようにブランドを位置づけます。
マーケティング・プログラムの実行: ブランド・アイデンティティとポジショニングに基づいて、広告、広報、販売促進などのマーケティング活動を展開します。
ブランド・エクイティの測定と管理: 定期的にブランド・エクイティを測定し、その変化をモニタリングします。必要に応じて、マーケティング戦略を修正し、ブランド価値を維持・向上させます。
ブランド・エクイティのメリット
強力なブランド・エクイティは、企業に以下のようなメリットをもたらします。
価格プレミアムの獲得: 顧客は、ブランド価値の高い製品に対して、より高い価格を支払うことを許容します。
顧客ロイヤルティの向上: 顧客は特定のブランドを繰り返し購入し、競合に流出しにくくなります。
マーケティング効率の向上: 顧客はブランドを認識しているため、広告などのプロモーション活動の効果が高まります。
ブランド拡張の可能性: 確立されたブランド名を使って、新しい製品やサービスを市場に導入しやすくなります。
競合優位性の確立: 強力なブランドは、競合他社にとって参入障壁となり、市場での優位性を維持できます。
アーカーの主な著書
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