
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
ドン・E・シュルツ(Don E. Schultz、1934年 - 2020年)は、アメリカのマーケティング研究者であり、ノースウェスタン大学メディル・スクール(現在はメディル・スクール・オブ・ジャーナリズム、メディア、統合マーケティングコミュニケーション)の名誉教授でした。彼は、1990年代初頭に提唱した「統合マーケティング・コミュニケーション(IMC:Integrated Marketing Communication)」の概念で最もよく知られています(著作に『広告革命米国に吹き荒れるIMC旋風: 統合型マーケティングコミュニケーションの理論』など)。この概念は、従来のマーケティング手法に大きな変革をもたらし、現代マーケティングの重要な柱の一つとなっています。
「統合マーケティング・コミュニケーション(IMC)」
IMCは、企業が顧客とのあらゆる接点を通して、一貫性のあるメッセージを伝え、顧客との関係を構築するための戦略的なプロセスです。従来のマーケティングでは、広告、広報、販売促進など、それぞれのコミュニケーション活動が独立して行われていましたが、IMCではこれらの活動を統合し、顧客視点から最適化することを目指します。シュルツは、IMCを以下のように定義しています。
「顧客、見込み客、その他のステークホルダーに対して、説得力のある一貫したメッセージを伝達するために、様々なコミュニケーション分野(例えば、一般広告、ダイレクト・レスポンス、販売促進、広報)を戦略的にコントロールし、統合するプロセス。」
IMCを実践する上で重要な要素は以下のとおりです。
顧客中心主義: 顧客のニーズや行動を深く理解し、顧客視点からコミュニケーション戦略を構築します。
コミュニケーションの一貫性: あらゆるコミュニケーションチャネルを通して、一貫したメッセージを伝えます。これにより、顧客は企業やブランドに対して明確なイメージを持つことができます。
タッチポイントの最適化: 顧客と企業とのあらゆる接点(タッチポイント)を分析し、それぞれのタッチポイントで最適なコミュニケーションを行います。タッチポイントには、広告、ウェブサイト、ソーシャルメディア、店舗、カスタマーサービスなどが含まれます。
双方向コミュニケーション: 一方的な情報発信ではなく、顧客との対話を通じて関係性を構築します。ソーシャルメディアなどを活用したインタラクティブなコミュニケーションが重要となります。
データ分析と効果測定: マーケティング活動の効果をデータに基づいて測定し、改善につなげます。これにより、投資対効果の高いマーケティング活動を実現できます。
従来のマーケティングとの違い
従来のマーケティングは、4P(製品、価格、流通、プロモーション)を中心としたプロダクトアウトの発想が強く、プロモーションの中でも広告が中心的な役割を担っていました。しかし、情報過多の現代において、一方的な広告だけでは顧客にメッセージが届きにくくなっています。IMCは、顧客視点に立ち、あらゆるコミュニケーション活動を統合することで、より効果的に顧客にアプローチしようとするものです。以下に、従来のマーケティングとIMCの違いをまとめます。
従来のマーケティング | 統合マーケティング・ | |
---|---|---|
起点 | 製品 | 顧客 |
コミュニケーション | 一方向(企業から顧客へ) | 双方向(企業と顧客の間) |
メッセージ | 断片的 | 一貫性がある |
チャネル | 広告中心 | あらゆるタッチポイント |
目的 | 製品販売 | 顧客との関係構築 |
IMCのメリット
IMCを導入することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。
コミュニケーション効果の向上: 一貫性のあるメッセージを伝えることで、顧客への情報伝達効果を高めることができます。
ブランドイメージの強化: 顧客は企業やブランドに対して明確なイメージを持つことができ、ブランドロイヤルティの向上につながります。
マーケティングROIの向上: 効率的なコミュニケーション活動により、マーケティング投資の回収率を高めることができます。
顧客との長期的な関係構築: 双方向コミュニケーションを通じて顧客との信頼関係を築き、長期的な関係を構築できます。
IMCの実践
IMCを実践するためには、以下のステップを踏むことが重要です。
顧客分析: ターゲット顧客のニーズ、行動、情報接触状況などを深く分析します。
コミュニケーション目標の設定: 達成すべき具体的な目標を設定します。例えば、認知度向上、購買意欲向上、顧客ロイヤルティ向上などです。
コミュニケーション戦略の策定: 顧客分析に基づいて、最適なコミュニケーションチャネルとメッセージを策定します。
コミュニケーション活動の実行: 策定した戦略に基づいて、具体的なコミュニケーション活動を実行します。
効果測定と評価: 定期的に効果測定を行い、必要に応じて戦略を修正します。
ドン・シュルツのその他の貢献
シュルツは、IMCの提唱以外にも、マーケティング分野で多くの貢献をしました。特に、データベースマーケティングや顧客関係管理(CRM)の分野でも先駆的な研究を行いました。
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