1-4-5:アルフレッド・D・チャンドラー・ジュニア

アルフレッド・D・チャンドラー・ジュニアは、企業の戦略が組織構造を決定すべきだと主張し、特に多角化戦略における組織の変化を明らかにしました。
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近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。

アルフレッド・D・チャンドラー・ジュニア(Alfred D. Chandler Jr.、1918年 - 2007年)は、アメリカの経営史家であり、経営学において非常に重要な貢献をした人物です。彼の最も有名な業績は、「組織は戦略に従う(Structure Follows Strategy)」という命題です。著書には著書には『組織は戦略に従う』のほか『経営戦略と組織(Strategy and Structure: Chapters in the History of the American Industrial Enterprise)』や『スケール・アンド・スコープ(Scale and Scope: The Dynamics of Industrial Capitalism)」などがあります。以下、チャンドラーの理論を中心に詳しく解説します。

「組織は戦略に従う」

チャンドラーは、企業の組織構造は、その企業の戦略によって決定されるべきであると主張しました。これは、従来の経営学における考え方、つまり組織構造が先にあり、その中で戦略が実行されるという考え方とは逆の視点です。彼は、アメリカの主要企業の歴史を詳細に分析し、企業が成長・発展していく過程で、戦略の変化に伴い組織構造も変化していったことを明らかにしました。特に、多角化戦略を採用する企業が、従来の機能別組織から事業部制組織へと移行していく過程を詳細に記述しています。

  • 機能別組織: 製造、販売、経理など、機能ごとに部門が分かれている組織構造。単一の製品やサービスを提供する企業に適しています。

  • 事業部制組織: 製品や地域など、事業ごとに部門が分かれている組織構造。複数の製品やサービスを提供する多角化企業に適しています。

チャンドラーは、企業が成長し、事業を拡大していくにつれて、従来の機能別組織では対応しきれなくなり、より柔軟で分権的な事業部制組織が必要になると指摘しました。つまり、戦略が変われば、それを効果的に実行するための組織構造も変わる必要があるということです。

チャンドラーの研究は、組織と戦略の間には密接な関係があることを示しています。

  • 戦略が組織を規定する: 企業の戦略は、組織の構造、プロセス、文化などを規定します。例えば、多角化戦略を採用する企業は、事業部制組織を採用し、各事業部に独立性を持たせることで、迅速な意思決定と事業展開を可能にします。

  • 組織は戦略実行の基盤となる: 適切な組織構造は、戦略を効果的に実行するための基盤となります。戦略と組織が一致していない場合、戦略はうまく実行されず、企業のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

  • 戦略と組織は相互に影響する: 戦略と組織は一方通行の関係ではなく、相互に影響し合う関係にあります。戦略の変化は組織の変化を促し、組織の変化は新たな戦略の可能性を生み出すことがあります。

マーケティングへの影響

  • マーケティング組織の設計: マーケティング部門の組織構造は、企業の全体戦略、特にマーケティング戦略に基づいて設計されるべきです。例えば、グローバル展開を進める企業では、地域ごとのマーケティング組織を設置し、現地のニーズに合わせたマーケティング活動を展開する必要があります。

  • マーケティング戦略と組織の整合性: マーケティング戦略と組織構造が整合していない場合、マーケティング活動は効果を発揮しません。例えば、顧客中心主義のマーケティング戦略を採用する場合、顧客情報を一元管理し、顧客との関係を構築するための組織体制を整備する必要があります。

  • 変化への対応: 市場環境や顧客ニーズは常に変化しており、企業の戦略も変化していく必要があります。それに伴い、マーケティング組織も柔軟に変化していくことが求められます。

具体的な例

  • ゼネラル・モーターズ (GM): チャンドラーの研究で最も有名な事例の一つがGMです。GMは、多角化戦略を採用し、複数の自動車ブランドを展開するにあたり、機能別組織から事業部制組織へと移行しました。これにより、各ブランドが独立性を持ちながら、それぞれの市場ニーズに対応することが可能になりました。

アンゾフとの関係

同時代の経営学者で「アンゾフ・マトリックス」で有名な、イゴール・アンゾフは、逆に「戦略は組織に従う」という主張を展開しています。しかし、これは単なる対立ではなく、視点の違いを表しています。チャンドラーは、歴史的な視点から、組織構造が戦略によって変化していく過程を明らかにしました。一方、アンゾフは、経営者の視点から、戦略を実行するためには、組織能力や組織文化などの要素も考慮する必要があると主張しました。つまり、戦略と組織は相互に影響し合う関係にあると言えます。

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《西口一希》

マーケティングに影響を与えた41人と理論