
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
アル・ライズ(Al Ries、1926年 - 2022年)、ジャック・トラウト(Jack Trout、1935年 - 2017年)は、その共著『ポジショニング戦略 (Positioning: The Battle for Your Mind)』で知られる、共に著名なマーケティング戦略家です。彼らが提唱した「ポジショニング理論」は、現代マーケティングにおいて非常に重要な概念の一つとなっています。ゼネラル・エレクトリック(GE)の広告部門でキャリアをスタートさせ、1960年代後半に、共にマーケティングコンサルティング会社を設立し「ポジショニング」という概念を提唱しました。
「ポジショニング理論」
ポジショニング理論とは、製品やサービスを、顧客の頭の中に明確かつ有利な位置を占めるように位置づけることで、競合他社との差別化を図るマーケティング戦略です。重要なのは、製品自体を変えるのではなく、顧客の認識を変えることに焦点を当てる点です。情報過多の現代において、顧客の頭の中は情報で溢れており、企業が発信するメッセージはなかなか届きにくい状況です。そこで、顧客の頭の中に明確なポジションを築き、記憶に残るようにすることが重要となります。
ポジショニングの基本的な考え方は以下の通りです。
競合との差別化: 競合他社との違いを明確にし、独自のポジションを確立します。
顧客の心への訴求: 顧客のニーズや欲求に訴えかけるメッセージを発信します。
シンプルなメッセージ: 複雑な説明ではなく、覚えやすくシンプルなメッセージで伝えます。
一貫性のあるメッセージ: 長期にわたって一貫性のあるメッセージを発信し、顧客の心に定着させます。
ポジショニングの種類
ポジショニングには、以下のような種類があります。
ナンバーワン・ポジショニング: 市場で一番であるというポジションを確立します。(例:コカ・コーラはコーラ飲料のナンバーワン)
ナンバーツー・ポジショニング: ナンバーワンに対抗するポジションを確立します。(例:ペプシはコカ・コーラの対抗馬として位置づけられる)
ニッチ・ポジショニング: 特定の市場セグメントに特化したポジションを確立します。(例:高級車市場における特定のブランド)
対抗ポジショニング: 競合他社と異なる属性でポジションを確立します。(例:低価格を強調する航空会社)
「ポジショニング」
「ポジショニングの種類」
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マーケティングに与えた影響
ポジショニング理論は、現代マーケティングに大きな影響を与えています。
ブランド戦略の重要性の認識: ポジショニングは、ブランド戦略の核となる概念です。ブランドが顧客の心の中でどのような位置を占めるかを明確にすることが、ブランド戦略の基本となっています。
コミュニケーション戦略の重視: ポジショニングを実現するためには、効果的なコミュニケーション戦略が不可欠です。広告、PR、ソーシャルメディアなどを活用し、一貫性のあるメッセージを発信することが重要です。
市場調査の重要性の高まり: 顧客の認識や競合状況を把握するために、市場調査が重要となっています。顧客のニーズや競合他社のポジショニングを分析することで、自社の最適なポジションを見つけることができます。
具体的な例
ボルボ: 「安全性」というポジションを確立し、安全性を重視する顧客層から支持を得ています。
BMW: 「駆けぬける歓び」というメッセージで、運転の楽しさを追求する顧客層に訴求しています。
スターバックス: 「家庭と職場の中間のサードプレイス」というポジションを確立しています。
トラウトとライズのその他の著書
トラウトとライズは、「ポジショニング」以外にも、以下のような著書を共著しています。
マーケティング戦争 (Marketing Warfare): 競争を戦争に例え、マーケティング戦略を軍事戦略の視点から解説。
マーケティング22の法則 (The 22 Immutable Laws of Marketing): マーケティングにおける普遍的な法則を提示。
ジャック・トラウトの単独著書
トラウトは、アル・ライズと袂を分かち、その後も単独で多くの著書を執筆しています。
『ニューポジショニングの法則 (The New Positioning)』: ポジショニング理論のアップデート版。
『大失敗! (Big Brands Big Trouble: Lessons Learned the Hard Way)』: 企業が犯しがちなマーケティングの失敗事例を紹介。
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