1-4-17:トム・ピーターズ

トム・ピーターズは現代経営論に影響を与えた著述家で、エクセレンス理論を提唱。顧客中心や従業員の自主性を重視し、組織文化の重要性を強調しました。
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近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。

トム・ピーターズ(Tom Peters、1942年 - )は、海軍、ペンタゴン、ホワイトハウス勤務を経て、1974年から1981年までマッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務したアメリカ合衆国の経営コンサルタント、著述家であり、現代経営論の分野で非常に大きな影響力を持つ人物です。現在は、自身のコンサルティング会社であるトム・ピーターズ・カンパニーの会長を務める。特に、ロバート・ウォーターマン(Robert H. Waterman Jr.)との共著『エクセレント・カンパニー (In Search of Excellence)』(1982年)は世界的なベストセラーとなり、彼の名を広く知らしめました。

エクセレンス理論(エクセレンスの8つの基本原則)」

『エクセレント・カンパニー』(1982年)で提唱した「エクセレンス理論」は、当時のアメリカ企業が直面していた課題、特に日本企業の台頭に対する危機感へのアンチテーゼとして生まれました。この理論は、優れた企業(エクセレント・カンパニー)に共通する特徴を分析し、8つの基本原則としてまとめ上げたものです。これらの原則は、組織文化、リーダーシップ、従業員のエンパワーメントなどに焦点を当てており、ハードな戦略や分析だけでなく、ソフトな側面も重視している点が特徴です。

エクセレンスの8つの基本原則

  1. 行動への偏重 (A Bias for Action): 分析や計画に時間をかけすぎるのではなく、まず行動を起こすことを重視します。試行錯誤を繰り返し、素早く行動に移すことで、変化への対応力を高めます。小さな実験を繰り返し、そこから学ぶことを推奨しています。

  2. 顧客に密着 (Close to the Customer): 顧客のニーズを深く理解し、顧客との良好な関係を築くことを重視します。顧客からのフィードバックを積極的に収集し、製品やサービスの改善に活かすとともに、顧客との密なコミュニケーションを通じて、長期的な関係を構築します。

  3. 自主性と企業家精神 (Autonomy and Entrepreneurship): 従業員の自主性を尊重し、企業内起業家精神を奨励します。従業員が自ら考え、行動し、新しいことに挑戦できる環境を作ることで、イノベーションを促進します。小さな組織単位で実験的な取り組みを推奨しています。

  4. 人を通じての生産性向上 (Productivity Through People): 従業員を単なる労働力としてではなく、企業の最も重要な資産として捉えます。従業員の能力開発やモチベーション向上に投資し、従業員が仕事に誇りを持ち、最大限の力を発揮できる環境を作ります。従業員への敬意と信頼が重要です。

  5. 価値観に基づく経営 (Hands-On, Value-Driven): 明確な企業理念や価値観を持ち、それを組織全体に浸透させることを重視します。経営陣が率先して価値観を体現し、従業員が共有することで、組織の一体感を高めます。経営陣が現場に積極的に関与することも重要です。

  6. 本業に徹する (Stick to the Knitting): 企業の強みや得意分野に集中し、多角化を安易に進めないことを重視します。自社のコアコンピタンスを見極め、それを最大限に活かすことで、競争優位を確立します。

  7. シンプルな組織、小さな本社 (Simple Form, Lean Staff): 複雑な組織構造や過剰な管理体制を避け、シンプルで効率的な組織を維持します。本社機能をスリム化し、現場への権限移譲を進めることで、意思決定の迅速化を図ります。

  8. 厳しさと緩やかさの両立 (Simultaneous Loose-Tight Properties): 組織全体で共有する明確な価値観や目標を持ちながら、現場にはある程度の自由裁量を与えるという、相反する要素を両立させます。統制と自主性のバランスが重要です。

「エクセレンスの8つの基本原則」

  • 1)行動への偏重

  • 2)顧客に密着

  • 3)自主性と企業家精神

  • 4)人を通じての生産性向上

  • 5)価値観に基づく経営

  • 6)本業に徹する

  • 7)シンプルな組織、小さな本社

  • 8)厳しさと緩やかさの両立

エクセレンス理論は、当時の経営学に大きな影響を与え、多くの企業が組織改革に取り組みました。特に、従来のハードな戦略や分析だけでなく、組織文化、リーダーシップ、従業員のエンパワーメントといったソフトな側面を重視したこと。現場の重要性を強調し、経営陣が現場に積極的に関与することを推奨したこと。従業員を単なるコストではなく、企業の重要な資産として捉え、人間中心の経営を提唱したこと。

しかし、その後、いくつかの批判も受けました。分析対象となった企業は、1980年代のアメリカ経済の状況に大きく影響を受けており、普遍的な理論とは言えないという指摘や、企業の成功要因を8つの原則に単純化することの妥当性に対する疑問、変化の激しい現代において、過去の成功事例を分析するだけでは不十分であるという指摘など。しかし、これらの批判を踏まえても、エクセレンス理論は現代の経営にも以下の点は現代においても重要です。

  • 顧客中心の視点: 顧客のニーズを深く理解し、顧客との良好な関係を築くこと。

  • 従業員のエンパワーメント: 従業員の自主性を尊重し、能力開発やモチベーション向上に投資すること。

  • 組織文化の重要性: 明確な企業理念や価値観を持ち、組織全体に浸透させること。

  • 現代では、変化への対応力、イノベーションの促進、デジタル技術の活用などが重要になっていますが、これらの要素もエクセレンス理論の原則と矛盾するものではありません。エクセレンス理論の基本的な考え方を踏まえつつ、現代の状況に合わせて柔軟に解釈し、応用していくことが重要です。

「マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド (MBWA)」

これは、管理職がオフィスや工場などの現場を歩き回り、従業員と直接コミュニケーションを取ることで、現場の状況を把握し、組織の改善につなげるというマネジメント手法です。MBWAは、単に現場をうろつくことではありません。目的意識を持って現場に出向き、従業員と積極的に対話することで、以下の目的を達成しようとするものです。

  • 現場の状況把握: 現場で何が起こっているのか、従業員がどのような課題に直面しているのかを直接知る。

  • 従業員とのコミュニケーション: 従業員と直接対話することで、信頼関係を築き、モチベーションを高める。

  • 問題の早期発見と解決: 現場の小さな問題や兆候を早期に発見し、大きな問題に発展する前に解決する。

  • 情報共有とフィードバック: 経営層の意向や情報を現場に伝え、現場からのフィードバックを収集する。

  • 改善提案の促進: 現場の従業員からの改善提案を促し、組織全体の改善につなげる。

現代では、テクノロジーの進化により、メール、チャット、ビデオ会議など、様々なコミュニケーションツールが利用可能になっています。しかし、直接対面でコミュニケーションを取ることの重要性は依然として高く、MBWAは現代のマネジメントにおいても有効な手法と言えます。特に、リモートワークが普及する中で、意識的に現場に出向くことの重要性は増していると言えるでしょう。

トム・ピーターズの主な著書

  • 『エクセレント・カンパニー』(1982年): ロバート・ウォーターマンとの共著。成功を収めている企業の共通点を分析し、8つの基本原則(「エクセレンスの8つの基本原則」)を提示。

  • 自由奔放のマネジメント (Thriving on Chaos) 』(1987年): 変化の激しい時代における企業の生き残り戦略を提唱。

  • The Pursuit of Wow!』(1994年): イノベーションの重要性を強調し、企業がどのように創造性を発揮すべきかを論じる。

  • ブランド人になれ!』(1999年): 個人が自分自身をブランドとして捉え、キャリアを構築していくことの重要性を説く。

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《西口一希》

マーケティングに影響を与えた41人と理論