
近日発売予定の著書『マーケティング大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
マーティン・リンドストローム(Martin Lindstrom、1970年 - )は、デンマーク出身のブランディング専門家、著述家、講演家です。特に、ニューロマーケティングの分野で著名であり、著書『買い物する脳―驚くべきニューロマーケティングの世界(Buyology)』(2008年)は世界的なベストセラーとなりました。『買い物する脳』で提唱されたバイオロジー(Buyology)とは、ニューロマーケティングという神経科学や心理学などを応用した手法を用いて消費者の購買行動を科学的に分析する新しいアプローチで、消費者の購買行動における無意識的な要因の重要性を明らかにしました。
「ニューロマーケティング」
ニューロマーケティングとは、神経科学、心理学、行動経済学などの知見を応用し、消費者の脳活動を測定することで、従来の市場調査(アンケート、インタビューなど)では捉えきれない、広告、ブランド、製品などに対する反応を分析するマーケティング手法です。リンドストロームは、世界各地の2000人以上のボランティアを対象に、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)などの脳波測定技術を用いて、広告やブランドに対する脳の反応を詳細に分析しました。この調査を通じて、リンドストロームは数々の発見をしました。
サブリミナル広告の効果:従来のマーケティングでは、サブリミナル広告(潜在意識に働きかける広告)は効果がないとされていましたが、リンドストロームの調査によって、サブリミナルメッセージが脳に影響を与え、購入意欲を喚起する可能性があることが示されました。
五感の重要性:視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚、味覚といった五感がブランド体験に深く影響を与えていることが明らかになりました。例えば、特定の香りや音楽がブランドイメージと結びつくことで、消費者の感情や記憶に強く訴えかける効果があります。
「クール」なブランドと交配本能:「クール」と認識されるブランドは、人間の交配本能を刺激する可能性があることが示唆されました。これは、特定のブランドを所有することで、社会的地位や魅力を高めたいという欲求に訴えかける効果です。
宗教とブランドの類似性:宗教儀式や迷信と、ブランド体験の間には類似性があることが指摘されました。例えば、特定のブランドのロゴや広告を見ることで、宗教的な儀式に参加したときのような感覚を覚える消費者がいることがわかりました。
ソマティック・マーカーの重要性:ソマティック・マーカーとは、過去の経験に基づいて形成される感情的な記憶のことです。リンドストロームは、消費者が過去のポジティブな経験と結びついたブランドに対して、無意識的に好意的な感情を抱くことを示しました。
「リンドストロームの発見」
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リンドストロームの研究は、以下のような影響を現代のマーケティングに与えています。
消費者インサイトの深化: 従来の市場調査では捉えきれなかった、消費者の無意識的な感情や反応を理解することで、より効果的なマーケティング戦略を立案できるようになりました。
五感マーケティングの重要性の認識: 視覚だけでなく、五感全体でブランド体験をデザインすることの重要性が広く認識されるようになりました。店舗デザイン、音楽、香り、触感など、五感に訴えかけることで、消費者の感情を高め、購買意欲を刺激する手法が活用されています。
ブランド体験の重視: 製品の機能的な価値だけでなく、感情的な価値や体験価値を提供することの重要性が高まりました。消費者は、単に製品を購入するだけでなく、ブランドとのエンゲージメントや特別な体験を求めているため、企業はストーリーテリングやイベントなどを通じて、記憶に残るブランド体験を提供しようとしています。
広告戦略への影響: サブリミナルメッセージの可能性や、感情に訴えかける広告の重要性が再認識されるようになりました。
ニューロマーケティングの普及: リンドストロームの活動を通じて、ニューロマーケティングは広く知られるようになり、多くの企業が消費者理解のための手法として導入するようになりました。
リンドストロームの主な著書
『買い物する脳』
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