

2人とジョンと言われたスティーブ・ジョブズとジョン・スカリーは、Appleの1980年の株式市場上場後の1983年にAppleの経営トップとしてタッグを組み、Appleを飛躍的に成長させました。しかし、1985年にジョブズはAppleを追放され、両者の関係は決裂しました。その背景には、経営方針の違い、リーダーシップスタイルの対立、市場環境の変化など、さまざまな要因がありました。
ジョン・スカリーがAppleに迎えられた理由
1983年、Appleは成長を続けていましたが、Apple IIIの失敗やLIsaの開発の混迷から、組織の拡大とともにジョブズのカリスマ経営に限界が見え始めていました。取締役会は、より安定した経営を実現するために、大手企業からの有能なCEOを求めるようになりました。当時、ジョン・スカリーはペプシコーラの社長を務めており、「ペプシチャレンジ」と呼ばれるマーケティングキャンペーンを成功させたことで知られていました。ジョブズはスカリーに対して、「君は一生、砂糖水を売り続けるのか? それとも世界を変えるチャンスに賭けてみるか?」と問いかけ、彼をAppleに社長として引き抜きました。
スカリーは、マーケティング戦略を活かし、Apple IIの売上をさらに拡大し、Appleの経営基盤を整備しました。しかし、スカリーはテクノロジー業界の出身ではなく、マーケティングの専門家だったため、製品開発の視点がジョブズとは大きく異なっていました。このため、ジョブズは共同創業者だったウォズニアクと疎遠になる一方で、新たに迎え入れたスカリーとも「革新を求めるジョブズ」と「売上と安定を求めるスカリー」という対立構造の中で、距離が生まれることになりました。
Macintoshの商業的な問題
1984年、Appleは初代Macintoshを発表し、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)とマウスを搭載した画期的なコンピューターを市場に投入しました。この製品は技術的には革新的でしたが、価格が高く、ビジネス用途には向いていないとされ、商業的には期待を下回る結果となりました。スカリーは、IBM PCが市場を席巻している状況を考慮し、Appleの財務状況を見直し事業戦略を修正しようとしました。一方で、ジョブズはMacintoshの未来を信じ、マーケティング費用をさらに投入するべきだと主張しました。この意見の違いが、次第に二人の対立を深めていきました。
ジョブズは革新を優先するあまり、市場の現実的な問題を軽視し、スカリーは「革新よりも市場の受容性が重要だ」として、Macintoshの製品機能を見直そうとしました。このような方針の違いが、Appleの経営陣内での対立を招くこととなりました。
1985年のクーデター
Macintoshの販売不振が続く中で、Appleの取締役会は「会社の長期的な成長のために、どちらのリーダーシップが適切か?」という問題に直面しました。スカリーは取締役会を味方につけ、ジョブズを経営の意思決定から外す決定を下しました。ジョブズはこれに反発し、スカリーを追放しようとクーデターを画策しましたが、その画策が事前に取締役会に知られることとなり、結果的に自らがAppleを追放されることになりました。こうして、Appleの創業者であったジョブズは、すでに退社したウォズニアクに続いて、自ら設立した会社を去ることになりました。その後、スカリーはAppleの経営を安定させることに成功しましたが、その一方でAppleは次第に技術的な革新よりも安定成長を求める中で、徐々に競争力を失っていくことになります。
ジョブズを追放した後、しばらく、スカリーはAppleの経営を安定させたかに見えました。しかし、長期的には製品開発の方向性を見失い、市場競争で後れを取ることになりました。特に、1990年代にWindows 95が登場したことで、Macintoshは市場シェアを大幅に失いました。スカリーは安定した売上と利益を重視し、Appleの技術革新を犠牲にする形になってしまいました。その結果、Appleは独自の競争力を維持できなくなり、次第に経営不振に陥り、最終的に、スカリー自身も1993年にAppleを辞任し、Appleは新たなCEOを迎えることになりました。
その後、CEOを変え続けてもAppleの苦境は続き、その打開のための技術を求めて、1997年にスティーブ・ジョブズの会社(NeXT)を買収することになりジョブズをAppleに呼び戻すことになりました。
ジョブズとスカリーの関係の崩壊から得た教訓
① ビジョンの違いが企業の成長に大きな影響を与える
ジョブズは革新を追求し、スカリーは安定した経営を重視していました。このビジョンの違いが、最終的にAppleの方向性を大きく分断する要因となりました。
② 経営の短期と長期を両立させる
スカリーの時代には安定性は向上しましたが、Appleの革新力は長期的には低下しました。企業は短期的な利益と長期的な成長のバランスをとることが重要であることを示しました。
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