5-1-30:iPhoneへの反応:「現在からの否定」と「未来からの肯定」

世界一のブランド解説 Apple 神話の検証
2007年のiPhone発表時には多くの否定的な見解がありましたが、Appleはそうした批判をものともせず成功を収めました。特に日本市場でも、初期の懸念を乗り越えて新たな体験を提供し、広く支持を集めました。
5-1-30:iPhoneへの反応:「現在からの否定」と「未来からの肯定」
Image: iPhone 1st Gen / Illustration by Rama Licensed under CC BY-SA 3.0 / Source: Wikimedia Commons

2007年1月9日、スティーブ・ジョブズがMacworld Expoで初代iPhoneを発表したとき、それは間違いなく革新的な瞬間であり未来の提案でした。未来への期待から絶賛の声もある一方で、現在のような大成功を誰もが予測していたわけではなく、「これは売れない」「失敗する」「市場には合わない」といった否定的な見解が多くありました。ブランド戦略の専門家として名高いアル・ライズ(Al Ries)をはじめ、多くのアナリストや業界関係者がiPhoneの市場適合性に懐疑的な意見を持っていました。また、日本市場においても、「iPhoneは日本の携帯文化に合わない」「日本のフィーチャーフォンに勝てるはずがない」といった批判が巻き起こりました。

アル・ライズによるiPhone批判:ブランド戦略の視点からの否定

アル・ライズは、「ポジショニング戦略」の提唱者であり、マーケティングとブランド戦略の世界で大きな影響力を持つコンサルタントです。彼は**「ブランドは特定のカテゴリーに焦点を当てることで強化される」という考え方を持っており、企業が新しい分野に無理に拡張するとブランドが弱体化すると主張していました。アル・ライズは、2007年に発表されたiPhoneについて、「Appleはコンピューター会社であり、携帯電話市場に参入するのは間違いだ」「AppleはPCブランドであり、携帯電話に進出するとブランドの焦点がぼやける」「AppleはMacやiPodといったコンピューター関連の製品でブランドを確立している。携帯電話市場に参入すると、ブランドの明確さが失われ、既存のAppleの顧客が混乱する」と非難しました。

また、「1つのデバイスで複数の機能を統合するのは失敗する」「電話、インターネット、iPodの機能を1つに統合するという考え方は、あまりにも複雑すぎる。ユーザーは単機能のデバイスを求めるものであり、オールインワンのデバイスは成功しない」「物理キーボードのないスマートフォンは受け入れられない」と指摘し増田。当時のスマートフォン市場では、BlackBerryのような物理キーボードを備えたデバイスが主流で、ライズは、「ビジネスユーザーは物理キーボードを好むため、タッチスクリーンのみのスマートフォンは普及しない」と述べました。さらに、「Appleのエコシステムは閉じすぎており、柔軟性がない」「Appleの製品は常にクローズドなエコシステムに閉じているため、携帯電話市場の多様なニーズに対応できない」と現在の常識からの批評を行い当時、一定の共感を呼ぶこととなりました。

しかし、Appleは、アル・ライズの主張を聞いたかどうかは分かりませんが、真っ向から否定する形でiPhoneの戦略を進めました。ジョブズは「我々は未来のユーザー体験を定義する」とし、従来のスマートフォンの概念を覆すことを目標にしました。そして、結果としてiPhoneは大成功を収め、アル・ライズの予想は大きく外れることになりました。未来からの肯定なのか、現在からの否定なのかの視点の違いで見え方が変わることが分かります。

日本市場でのiPhone批判

一方で、2007年当時、日本の携帯電話市場は「ガラケー(フィーチャーフォン)」が主流であり、日本独自の進化を遂げていました。「iモード」や「おサイフケータイ」「ワンセグ」「赤外線通信」など、日本の携帯電話は多機能であり、日本のユーザーはこれらの機能に慣れ親しんでいました。そのため、iPhoneが発表された際、日本のメディアや通信業界関係者からも否定的な意見が相次ぎました。「ガラケーと比べて機能が劣る」「iPhoneにはワンセグもおサイフケータイもない。こんな携帯が日本で売れるはずがない」との批判がありました。特に、おサイフケータイ機能がないことは、決済インフラが進んでいた日本市場において大きなマイナス要素と見られていました。

「タッチスクリーンは日本のユーザーには合わない」日本のユーザーは物理ボタンのあるガラケーに慣れていたため、「タッチスクリーンは使いにくい」という声がありました。「防水機能がない」日本の携帯電話は防水機能が標準装備されていたため、「防水なしのiPhoneは実用的ではない」との指摘がありました。「キャリアの支配に逆らった戦略は日本では通用しない」。日本の携帯電話市場は、当時NTTドコモ、KDDI(au)が支配しており、端末メーカーはキャリアに従う形で販売していました。しかし、Appleは「キャリアの制約を排除し、Appleのコントロール下で販売する」という方針を貫いたため、「この戦略では日本では成功しない」との見解が強かったのです。

しかし、結果としてiPhoneは日本市場でも大成功を収めました。その要因としては、まず、ソフトバンクの孫正義社長がスティーブ・ジョブズと直接交渉し提携をまとめ、日本でのiPhone独占販売を開始したことにより、他キャリアとの差別化が図られました。最初は抵抗があったものの、次第にユーザーはタッチスクリーンの利便性を理解し、フィーチャーフォンからの移行が進みました。さらに、日本のユーザーは、アプリを自由にインストールできるApp Storeの利便性に魅力を感じ、ガラケーからの移行が加速しました。後の劇的なiPhoneの躍進は紹介するまでもないと思います。

アル・ライズをはじめとするマーケティングの専門家や、日本市場の評論家たちは、iPhoneが売れないと予想しました。しかし、Appleは「エコシステムの構築」「UXの最適化」「App Storeの導入」といった戦略を通じて、それらの批判を覆し、スマートフォン市場を支配することに成功しました。もしスティーブ・ジョブズが当時の批判を真に受けていたら(そうしないのは明らかですが)、iPhoneは市場に出なかったかもしれません。しかし、彼は過去のAppleの失敗(NewtonやPippin)から学び、批判を超える強固な戦略を持ってiPhoneを市場に送り出したのです。結果として、iPhoneはスマートフォン市場のスタンダードを確立し、世界中の人々の生活を変えました。

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《西口一希》

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