40年超の歴史から実務に生かせる「知恵」を得る
Appleに関する一連のコンテンツでは、Appleに関する日本語と英語で手に入る多くの書籍、雑誌、ネット記事、過去のインタビュー動画をレビューさせていただきました。そこから得られる事実と実際のAppleの売上推移を照らし合わせながら、本当にビジネスに影響を与えた「Wisdom(知恵)」につながるテーマを選んで解説していきます。
マーケティングとは何か? ブランドとは何か? いまだに定義が曖昧な実務上の問いに対して、誰しもが認める世界No.1のブランドであるAppleの40年超の歴史を借りて、向き合っていきたいです。Appleの歴史を演繹的に捉えるのではなく、個別の事項を帰納的に振り返り、単なる事実「情報」を超えて私たちが実務に活用できる「知恵」を紡ぎ出していきたいと思います。構想としては、全部で数十本になるかと思いますが、順次公開していきます。なおAppleの歴史を学ぶ上では、ご許可をいただき、書籍『The History pf Jobs & Apple 1976~20XX スティーブ・ジョブズとアップル 奇跡の軌跡(MAC LIFE 特別編集)』(元MAC LIFE編集長 株式会社クリエイシオン代表取締役 高木利弘氏著/株式会社晋遊舎)の一部記事と図版を参照、活用させていただいています。改めて、厚く感謝申し上げます。
「強いブランドの条件」をどう捉えるか
経営やマーケティングに関わる方だけでなく、ビジネスに関わる方なら誰しもが、ブランドに憧れを持つでしょう。自社ブランドの売上や利益が上がることは当然として、ビジネスに関わる方であれば誰しも、Appleや他の「成功しているブランド」として名が挙がるようなブランドを作りたいという気持ちが、少なからずあるのではないでしょうか。
その「ブランド」とは、そもそも何なのか? この定義は千差万別ですが、おそらく最も有名なブランド指標は、インターブランドが発表しているベストグローバルブランドです(2024年現在での最新版は 2023年 ベスト グローバル ブランド )。
このブランドランキングがどのように作られているかをみると、以下の「ブランド強度評価モデル10要素」に基づいていることが公表されています。しかしこれは、「強いブランドになったから、これらの10要素が備わっている」という意味で、「これらの10要素を強化すれば、強いブランドになる」わけではありません。
インターブランドのランキングや10要素は、ブランディングを考える上ですばらしい指標ですが、どんなブランドでも、この10要素を強化すればAppleのようなブランドになれるわけではないのです。
成功の舞台裏には試行錯誤がある
このブランド評価は、すでに多くの売上と利益を生み出し、多くの顧客を抱え、財務的に成功しているブランド群を対象としています。そして、それらに共通する重要な10要素を評価し、同業種の他のブランドと比較し、ブランド価値が算定されています。10要素とブランドランキングは、単純な原因と結果ではないのです。
ビジネスやマーケティングに関わる私たちにとって重要なのは、Appleのように強いブランドが、称賛される成功例の背景に何があったのかということです。誰もが知る成功だけでなく、光が当たらずともその後の成長に大きな影響を与えた様々な試行錯誤の歴史を理解すること、そしてそこから現在に至る強力なブランド創出への具体的な示唆を得ることです。
Appleという誰しもが憧れるようなブランドのイメージは、世界中で大成功したiPhone、その秀逸なUI/UXとデザイン性、それらの象徴としてのスティーブ・ジョブズがカリスマとして語られること、そういった複数の要素から構築されています。なので、各要素だけを真似してもiPhoneは再現できませんし、Appleになることもできません。これらはむしろ、長い歴史の結果、ブランドとして成功した段階で見えている要素であって、成功につながった原因ではありません。ビジネスに関わる私たちは、Appleが創業から何を行ってきたのか、どんな試行錯誤を経て、何を捨て何を学んできたのかという歴史を丁寧に読み解き、再現性のある「知恵」を学び取らねばなりません。
AppleのEV撤退はどこにつながるのか
Appleは1976年に、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック、ロナルド・ウェインによって、マイクロコンピュータの「Apple I」を販売するために創業されました。1977年1月に発売された「Apple II」が大ヒットしたことで急成長し、1980年に新規株式公開を果たしています。
その創業から約50年のAppleの歴史をひも解くと、実は、数々の試行錯誤があります。Apple Lisa(1983)、Newton MessagePad(1993)、ゲーム機のPippin @(1996)、Power Mac G4 Cube(2000)をご存知でしょうか? これらは、発売してから早々に発売中止したがゆえに、多くの顧客の目に触れることなく、光が当たらずに現在では語られることがありません。こうした事象は、一般的には失敗と言われますが、現代から振り返ると、先に挙げた商品群は現在私たちが使っているiMac、MacBook、iPad、IPhone、AppStoreの成功につながっています。このような試行錯誤からAppleは学び続け、私たちが知っている商品やサービスが生まれ、多くの顧客を獲得し、維持し続けているのです。
成功した商品やサービスが、過去の試行錯誤からの学びに支えられていることは明らかです。これらを失敗と捉えるのか、現在の大成功につながる知見を得るための必要な試行錯誤として捉えるのかで、私たちが学べることが単なる「情報」や「知識」で終わるのか、実務で活用できる「知恵」レベルに昇華できるのかの差異を生み出します。
2024年7月、AppleのEV(電気自動車)プロジェクトであった「Project Titan」のキャンセルが発表されました。このプロジェクトは、10年にわたって数十億ドル(数千億円)規模の取り組みで、完全自律走行型の電気自動車の製造を目的としていました。世間では失敗と片付けられるかもしれませんが、そこでAppleが学んだもの、開発した技術は、将来のAppleのプロダクトやサービスにつながってくるかもしれません。過去のAppleの歴史をひも解くと、数々の失敗は、何らかの「点」として後の成功につながっているのです。
後の2005年に、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチで「未来を作った複数の点(Connecting Dots)」として有名な下記の一節があります。まさに、Appleを世界一のブランドに導いた、その時点では成功にはなっていない数々の「点」が一体何なのか、それはどのように結びついて世界を変えるプロダクトやサービスとなったのかを言い表しています。ここで語られていることがどう具現化しているか、Appleの歴史から読み解いていきたいと思います。
参照:(Stanford公式YouTube)スティーブ・ジョブズ スピーチ 2005年 スタンフォード大学卒業式
"You can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something—your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life." 「点と点を先を見ながらつなぐことはできません。過去を振り返って初めて点と点がつながるのです。だから、将来どこかで点がつながると信じるしかありません。直感、運命、人生、カルマ、何でもいいのです。何かを信じることが大切です。このアプローチは私を裏切ったことがなく、私の人生に大きな違いをもたらしました。」 |
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