5-1-2:Appleの業績とスティーブ・ジョブズ

世界一のブランド解説 Apple
Appleは2013年にブランドランキング1位を獲得し、2023年まで11年連続で首位を維持しています。スティーブ・ジョブズの存在や試行錯誤が成功に寄与しましたが、今日の成長は彼の影響だけではありません。関係者の取材記事や動画などを振り返り、また財務情報と照らし合わせながら、その歴史と現在のAppleを作った試行錯誤を取り上げます。
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スティーブ・ウォズニアック(左)とスティーブ・ジョブズ(右)。Apple Computer Company(当時)創業者の2人

10年にわたりランキング首位

Appleがインターブランドのグローバルブランドランキングで世界一となったのは、2013年です。それまで1位だったCoca-Colaから首位の座を奪い、2023年まで11年連続で首位を維持しています。

世界を変える革新的な商品やサービスを提供し続け、美しいデザインやフォント、秀逸なUI/UX、歴史に残るテレビCMキャンペーンなど、ビジネスに関わる方なら誰しもが世界最高のブランドと認めるでしょう。ブランディングの理想事例として取り上げられ、メディアだけでなくマーケティングに関わる多くの代理店やコンサルタント会社が、Appleの成功事例を紹介しています。

マーケティングに、いや経営に関わる方なら誰しもが、この世界最高のブランドの歴史に学ばない理由はありません。現在の成功につながった創業から50年近くにわたる様々な試行錯誤とつながりを理解することで、マーケティング実務で活用できる「知恵」を学び取りたいです。

Appleは徹底した秘密主義を貫いてきたので、公式に発信した情報は完成したプロダクト情報や財務情報がほとんどで、その裏側にある成功や失敗の情報は限定的です。結果、一般に入手できる情報は断片的な第三者による誤った解釈も多いので、多数の文献だけでなくスティーブ・ジョブズや共同創業者であったスティーブ・ウォズニアック含めた関係者の取材記事や動画などを振り返り、また財務情報と照らし合わせながら、その歴史と現在のAppleを作った試行錯誤を取り上げます。

創業からの財務結果の歴史

まずは、創業からの財務結果の歴史を俯瞰してみます。

2024年10月11日時点での株式市場での時価総額は、3.4兆ドル(1ドル150円換算で500兆円超)で世界一であり、世界一のブランド力を裏付けるように株式評価で圧倒的に成功しています。ちなみに、世界の時価総額トップ10は、Appleを筆頭に、エヌビディア、マイクロソフト、アマゾン、メタ、アルファベット(Google)、イーライリリー、ブロードコム、テスラとなっており、2013年にグローバルブランドランキング1位だったCoka-Colaは入っていません。(日本経済新聞の時価総額上位ランキングより)

順位

銘柄名

時価総額(百万ドル)

1

アップル AAPL(NASDAQ)

3,459,701.37

2

エヌビディア NVDA(NASDAQ)

3,306,644.00

3

マイクロソフト MSFT(NASDAQ)

3,094,522.54

4

アマゾン・ドット・コム AMZN(NASDAQ)

1,981,772.94

5

メタ・プラットフォームズA META(NASDAQ)

1,288,880.75

6

アルファベットA GOOGL(NASDAQ)

956,423.16

7

アルファベットC GOOG(NASDAQ)

918,844.20

8

イーライリリー LLY(NYSE)

885,853.85

9

ブロードコム AVGO(NASDAQ)

847,616.15

10

テスラ TSLA(NASDAQ)

695,792.68

次に、Appleが創業された1977年から2023年までの売上推移と、株式上場した1980年から2024年8月までの株価推移を見てみます。Appleがインターブランドのグローバルブランドランキングで世界一になった2013年の売上は1700億ドル(1ドル150円換算で25.5兆円)で、2023年の3830億ドル(1ドル150円換算で57.5兆円)へと2.2倍に、同時期に株価は、2013年度末で17.3ドル、2023年度末の192.0ドルへと11倍に急増しています。

売上が急伸し始めたのは2010年前後からで、そこからまさに10年以上に渡る右肩上がりの成長を連続し、株価はそれに反応して、売上伸長率を超えて急伸し続けています。一方で、このような圧倒的なブランドであるAppleを創業し、2013年に世界一のブランドとなるまで成長させたスティーブ・ジョブズが惜しくも亡くなったのは2011年です。明らかにスティーブ・ジョブズがいなければ今のAppleはなかったといえますが、業績を見れば、Appleが圧倒的な売上と株価の伸長を達成したのは、スティーブ・ジョブズ亡き後なのです。

(売上推移)

(Appleの株価推移)

創業者であるスティーブ・ジョブズは1977年のApple創業以降、2011年に亡くなるまで、Appleの経営から追われて退社していた長い不在期(1985年から1996年の12年間)があります。Appleの売上、対前年成長率とジョブズの不在期を合わせると、世間一般ではあまり知られていない事実が見えます。

時系列で順に見ると株式上場した1980年から1984年まで対前年150%を超える成長率を達成しながらも、1984年から1986年は成長鈍化しています。ジョブズ退社後の1986年から88年は、ジョブズ不在にも関わらず再度成長し、1995年まで安定成長を続けています。

そしてジョブズがAppleに再度関わり始めた1996年から1998年は、対前年比-11%、-28%、-16%と急激に前年を下回り続けています。1999年から短期的な成長がありますが、2001年には再度、前年比-33%と急激に落としています。ジョブズが復帰しても、5年近くはその影響が見えません。

復帰後6年目の2002年からようやく再成長が始まり、ここから2012年まで対前年+50%前後の急成長を達成し、売上規模を2002年の$5.7Billionから2012年の$156.5Billionまで27倍に急拡大しています。その後は、対前年成長率は鈍化するものの、拡大した売上規模に対して安定的に成長し、現在の圧倒的な売上と時価総額を伴った世界一のブランドになっています。

このように俯瞰すれば、ジョブズがいたから成功したという単純な話ではないことが理解できます。Appleという圧倒的なブランドは、スティーブ・ジョブズ1人が創った世界一のブランドと結論づければ、もはや神話であり再現性はありません。私たちは何も学ぶこともなく、実務に活かすこともできません。そのデザインやフォントの美しさを真似ることはできますが、明らかに不十分です。

ジョブズがいた時期、そうでない時期を含めて、様々なプロダクトやサービスが生まれ、様々な出来事や多くの試行錯誤があり、その時期ごとに、短期的な結果が生まれました。そして、その長い歴史を俯瞰すれば、結果として圧倒的なブランドになっています。ジョブズの言った「未来を作った複数の点(Connecting Dots)」とは一体何なのか。その点はどのように生まれ、どのようにつながり、iPhoneをはじめとする世界を変えるプロダクトを生み出し、圧倒的な価値となり世界一のブランドとなったのかを、Appleにまつわる神話の検証も含めてひも解いていきます。

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《西口一希》

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