5-1-18：Power Macintoshシリーズ（1994年～）：CEOの交代からビジネス市場への進出

PowerPCを搭載した最初のモデルであるPower Macintosh 6100（CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=55761）

Appleは1994年からPower Macintoshシリーズを展開し、ビジネス市場への進出と高性能Macintoshの提供を目指しました。しかし、このシリーズは企業市場ではIBM PCとWindowsに圧倒され、一貫して苦戦しました。1990年代前半、AppleはMacintoshを主力商品として展開していましたが、Macintoshの市場シェアは主にクリエイティブ分野に限定されていました。一方、ビジネス市場ではIBM PCとWindowsが圧倒的な支配力を持ち、Macintoshの市場シェアは低下していました。この状況を打開するため、Appleはビジネス向けにより高性能なMacintoshを投入し、企業市場に食い込もうとしました。Power Macintoshシリーズの開発が進められる中、Appleの経営はジョン・スカリー（John Sculley）からマイケル・スピンドラー（Michael Spindler）へと引き継がれました。

1990年代に入り、Windows PCの台頭によりMacintoshの市場シェアが低下し、Appleの業績が悪化。スカリーは新たな製品戦略としてNewton（PDA）の開発を推進しましたが、この試みは市場で成功せず、Appleの財務状況はさらに厳しくなりました。1993年、スカリーは業績不振の責任を問われ、Appleの取締役会によってCEOを解任されました。その後、Appleの新CEOとしてマイケル・スピンドラーが就任しました。スピンドラーはドイツ出身のエンジニアで、Apple Europeのトップを務めた経験を持ち、Appleの国際市場展開に貢献してきた人物でした。彼はスカリーの後任として1993年にAppleのCEOに就任し、ビジネス向け市場への進出を強化する戦略を打ち出しました。

CEOマイケル・スピンドラーの関与

Power Macintoshシリーズの開発は、スピンドラーのもとで進められました。彼は、Appleがビジネス市場で競争力を持つには、より高性能なプロセッサと競争力のある価格設定が必要だと考えました。そのため、彼はIBM、Motorola、Appleの三社による「PowerPCアライアンス」を主導し、Intelのx86プロセッサに対抗するためにPowerPCアーキテクチャを採用しました。スピンドラーは、Appleが企業市場に適応するためには、Windows PCに匹敵する高性能なコンピューターを開発することが不可欠だと考えました。しかし、彼の戦略はコスト管理と市場の受容性を十分に考慮していなかったため、Power Macintoshは価格が高くなり、企業市場での競争力を確保することが難しくなりました。

開発の主導者：ジョン・ルビンスタイン

Power Macintoshの開発を主導したのは、後にiPod開発にも関与するジョン・ルビンスタイン（Jon Rubinstein）でした。彼はAppleのハードウェア開発部門を率い、PowerPCプロセッサを搭載した新世代のMacintoshの開発を推進しました。Power Macintoshは、Macintoshの進化版として登場し、PowerPCプロセッサを搭載し、グラフィック処理に強く、クリエイター市場向けに最適化されました。また、当時の最新OSであるSystem 7からMac OS 8へと移行し、より高速なパフォーマンスを実現しました。

1994年～1999年：Power Macintoshシリーズの試行錯誤

Power Macは、高性能なハードウェアを備えたにもかかわらず、企業市場では期待したほど普及しませんでした。その理由は、Windows PCの急速な低価格化と、企業のITインフラがWindowsを中心に構築されていたためです。Appleはこの状況に対応できず、スピンドラーの経営手腕も批判を受けるようになりました。最終的に、1996年にスピンドラーはCEOを退任し、ギル・アメリオ（Gil Amelio）が後任のCEOに就任しました。アメリオは、Appleの財務状況を立て直すためにコスト削減と事業の再編を進めましたが、Macintoshの市場シェアの低下を止めることができませんでした。Appleの業績はさらに悪化し、1997年にスティーブ・ジョブズのNeXTを買収する形で、ジョブズが、Appleに復帰することとなります。

2000年以降：Power Macintoshの限界とAppleの方向転換

1997年にジョブズが復帰し、1999年にはPower MacintoshをPowar Macへと改名。2000年代に入ると、AppleはPower Macの方向性を見直し、ビジネス市場への挑戦を縮小し、クリエイター向けのハイエンド機としてのポジションを確立していきました。2001年にはMac OS Xの登場により、AppleはOS戦略を強化し、NeXTの技術を基盤とした新しいOSを導入しました。2003年にはPower Mac G5を発表し、映像制作やデザイン分野のプロフェッショナル市場を重視する方向へシフトしました。そして、2006年にはIntelへの移行を決定し、Windowsとの互換性を向上させる戦略を採用しました。

Power Macシリーズは、Appleがビジネス市場へ進出しようとした試みでしたが、Windowsの優位性や高価格、互換性の問題によって企業市場では成功しませんでした。Appleはそこで得た教訓をもとに、クリエイティブ市場への特化、OS戦略の明確化、Windowsユーザーへのアプローチという新たな方向へとシフトしました。ジョン・スカリーが1993年に退任し、後任のマイケル・スピンドラーがPowerPCへの移行を主導しましたが、企業市場での成功は得られませんでした。さらに、1996年にはスピンドラーが退任し、ギル・アメリオが後任となり、Appleの経営立て直しを図りましたが、最終的には1997年にスティーブ・ジョブズが復帰することになりました。

この試行錯誤の中でAppleは、ビジネス市場での競争が難しいことを学び、クリエイター市場への特化とエコシステムの構築にシフトしました。これが、最終的にiPhoneの成功へとつながる要因となったのです。Power Macの試行錯誤がなければ、Appleはコンシューマー市場での成功を収めるための戦略を見出すことができなかったかもしれません。