5-1-10:Lisa(1983年):Appleの技術革新と市場適合の失敗

世界一のブランド解説 Apple 神話の検証
Lisaは1983年にAppleが発表したGUI搭載のパソコンですが、高価格と動作の遅さで商業的に失敗しました。この経験から、Appleは市場ニーズや価格戦略の重要性を学び、Macintoshの開発につながりました。
5-1-10:Lisa(1983年):Appleの技術革新と市場適合の失敗

Lisaは、Appleが1983年に発表した世界初のGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)搭載パソコンでした。マウスによる直感的な操作を備えた革新的な製品でしたが、価格が高すぎたこと、動作が遅かったこと、市場の受容性を考慮できなかったことが重なり、商業的には大きな失敗となりました。この失敗は、Appleが価格戦略の重要性、技術革新と市場ニーズのバランス、ユーザー体験(UX)の最適化を学ぶきっかけとなり、それが後のMacintoshの開発につながることになりました。

Lisaの開発背景(1979年~1983年)

AppleはApple IIの成功の延長線で、1979年に、従来のテキストベースのコマンド入力に依存しない、新しいコンピューターの開発を決定しました。当時のパソコン市場では、黒い画面に白い文字を入力するCLI(コマンドラインインターフェース)が主流であり、初心者には非常に扱いにくいものでした。しかし、スティーブ・ジョブズは、「コンピューターは誰でも簡単に使えるべきだ」と考え、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を採用したLisaの開発を指示しました。事前に、訪問したゼロックス(Xerox)のPARC研究所で、マウスを使ってウィンドウやアイコンを操作できるGUI技術をジョブズは目にし、「これこそが未来のコンピューターだ」と確信していました。そして、Lisaの開発を途中で変更して、GUIとマウスを搭載して開発したのです。

1983年:Lisaの発表と市場の反応

Appleは、Lisaの発売がパーソナルコンピューター市場を変えると確信し、大々的に宣伝しました。Lisaは、GUIを搭載し、マウスを用いた操作を可能にした世界初のコンピューターであり、複数のアプリケーションを同時に実行できるマルチタスク機能も備えていました。当時としては画期的な技術が詰め込まれていましたが、市場の反応は芳しくありませんでした。発売直後から、Lisaは深刻な問題を抱えることになりました。その最大の要因は、価格の高さと動作の遅さでした。Appleは、Lisaを「究極のビジネスパソコン」として市場に投入しましたが、その価格は9,995ドル(現在の価値で約30,000ドル)と非常に高価でした。当時のIBM PC(1981年発売)の価格が1,500ドル~3,000ドルだったのに対し、Lisaはその約3倍の価格であり、個人はもちろん、企業でも導入しづらいものでした。

また、LisaはGUIを搭載することで視覚的には優れていましたが、ハードウェアの性能がそれに追いついておらず、動作が非常に遅いという問題が発生しました。ユーザー体験(UX)が期待したほど快適ではなく、企業市場でも受け入れられませんでした。さらに、Lisa専用のソフトウェアが少なく、ビジネス市場で求められる業務アプリケーションのラインナップが不十分でした。Appleは独自OSを開発しましたが、他のPCとの互換性がなかったため、企業が導入するメリットが少なくなりました。

Lisaの失敗要因

Lisaの失敗は、主に4つの要因によって引き起こされました。

1. 価格が高すぎた

Lisaは、パーソナルコンピューターとしては非常に高価であり、企業市場でも価格が導入の大きな障害となりました。Appleは、高性能な製品を開発することにこだわりましたが、市場が受け入れられる価格を考慮しませんでした。

2. 動作が遅く、パフォーマンスが低かった

GUIを搭載することで操作性は向上しましたが、それを処理するハードウェアの性能が追いついていませんでした。これにより、システムの動作が非常に遅くなり、ユーザー体験が悪化しました。

3. ソフトウェアのエコシステムが未整備

Lisa専用のソフトウェアが不足しており、企業向けに必要な業務アプリケーションの提供が十分ではありませんでした。そのため、企業がLisaを導入する魅力が大きく低下しました。

4. マーケティング戦略の失敗

AppleはLisaを「究極のビジネスパソコン」として宣伝しましたが、GUI以外で機能的な優位性は少なく企業市場には受け入れられませんでした。さらに、高価格に加え、IBM PCとの互換性が低かったため、企業が導入する理由が見出せなかったのです。

Lisaの販売が不振だったため、Apple内部では「次の戦略をどうするか」を巡って対立が発生しました。ジョブズは、不振が続くLisaチームを見限って別の開発リーダーがいたMacintoshチームの開発を支持し、半強引に自らがリーダーとなることでMacintoshがLisaの後継機として開発されることになりました。そして、1984年にLisaは正式に生産終了し、AppleはMacintoshに注力することになりました。

Lisaの失敗から得た教訓

Apple Lisaは、GUIを搭載した画期的なコンピューターでしたが、価格の高さ、動作の遅さ、エコシステムの不足によって市場で失敗しました。しかし、この失敗からAppleは、価格戦略の重要性、UXの最適化、ソフトウェアエコシステムの必要性を学び、それが後のMacintoshの成功へとつながることになりました。

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《西口一希》

Apple 神話の検証