
1997年、Appleはスティーブ・ジョブズが率いるNeXTを買収し、彼をAppleに復帰させるという決断を下しました。この決定は、Appleの経営が極度の混乱に陥り、会社存続の危機に直面していたことに起因します。Appleは、90年代前半からの試行錯誤の末、業績が悪化し続け、根本的な変革が必要な状況に追い込まれていました。1996年にAppleのCEOに就任したギル・アメリオ(Gil Amelio)は、前任のマイケル・スピンドラーの失敗を受け、Appleの再建を任されました。アメリオは、財務の立て直しやコスト削減を進めましたが、Appleの根本的な問題である「製品戦略の混乱」と「OS技術の遅れ」を解決することができずにいました。
当時のAppleは、PowerPCへの移行が進められたものの、企業市場ではマイクロソフトのWindows NTの台頭により競争力を失い、消費者市場ではMacintoshの魅力が薄れつつありました。特に、Mac OSは時代遅れになりつつあり、MicrosoftのWindows 95が圧倒的な支持を得ていたことで、AppleはPC市場でのシェアを失い続けていました。アメリオは、Appleが競争力を取り戻すためには、新しいOSが必要だと考えました。しかし、Mac OSの改良には時間がかかりすぎるため、外部から次世代OSを導入するという戦略を検討しました。
NeXT買収の決定
Appleは新しいOSの選択肢として、BeOSとNeXTの2つの候補を検討しました。BeOSは、元Appleのエンジニアであるジャン=ルイ・ガセー(Jean-Louis Gassée)が設立したBe社のOSであり、高速なマルチタスク処理が可能であったものの、ソフトウェアエコシステムが未熟であるという問題を抱えていました。一方、NeXTは、スティーブ・ジョブズがNeXT Computerを設立して開発したNeXTSTEPというUNIXベースの先進的なOSを持っており、堅牢性や開発環境の充実度が評価されていました。NeXTSTEPはオブジェクト指向プログラミングを採用し、将来的な拡張性が期待できるOSでした。この2つの選択肢を比較した結果、AppleはNeXTを買収し、NeXTSTEPを次世代Mac OSの基盤として採用する決断を下しました。これにより、Appleは新しいOS技術を獲得するだけでなく、スティーブ・ジョブズをAppleに復帰させる機会を得ることになりました。注目すべきは、あくまで結果としてスティーブ・ジョブズが復帰することになった事実です。
NeXT買収の影響とジョブズの復帰
1997年、Appleは4億2900万ドルでNeXTを買収し、NeXTSTEPを次世代OSとしてMac OS Xの開発基盤にすることを決定しました。
この買収により、Appleは大きなメリットを得ることになりました。NeXTSTEPは、Appleが必要としていたモダンなOS技術を提供し、将来のMac OS Xの開発基盤となりました。NeXTのオブジェクト指向プログラミング環境は、後のMac開発に大きな影響を与えました。
さらに、ジョブズが「特別顧問」としてAppleに戻ることで、株式市場や昔からのアップルユーザーから経営の立て直しが期待されました。
ジョブズはAppleの「特別顧問」として復帰しましたが、社内での彼の影響力は急速に増し、一方で、Appleの取締役会は、アメリオの再建策に対して不満を抱き始め、株価の低迷や業績不振を理由に、1997年7月にアメリオを解任しました。これにより、スティーブ・ジョブズはAppleの暫定CEO(iCEO)として、実質的にAppleの経営を握ることになりました。彼はすぐに大規模な経営改革を開始し、製品ラインを整理し、エコシステムを重視する方向へと舵を切りました。
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