5-1-28:iPhoneへの反応:Sony

世界一のブランド解説 Apple 神話の検証
スティーブ・ジョブズはソニーを高く評価していましたが、iPhone登場時にソニーはその革新性を過小評価し、スマートフォン市場で競争に出遅れました。独自技術に固執したことで苦戦を強いられたものの、カメラセンサー分野では確かな成功を収めています。
5-1-28:iPhoneへの反応:Sony
Photo by meisowave / CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/

スティーブ・ジョブズは生前、ソニーの製品哲学やエンジニアリングへのこだわりを高く評価していました。彼は「Appleは、かつてのソニーのような会社であるべきだ」と語り、ソニーが持っていた「技術とデザインの融合」「独自のアイデンティティ」を賞賛していました。しかし、iPhoneが登場した2007年当時、ソニーはその革新性を適切に評価できず、競争の波に適切に対応することができませんでした。

ソニーの経営陣のiPhoneに対する懐疑的な評価

2007年にiPhoneが発表された際、ソニーはマイクロソフト同様に、特にその脅威を強くは認識していなかったようです。当時、日本市場では「ガラケー」と呼ばれるフィーチャーフォンが主流であり、物理キーボード、ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信、カメラ機能といった日本独自の進化を遂げた携帯電話が広く普及していました。当時のソニー・エリクソン(ソニーとエリクソンの合弁会社)は、日本の消費者は物理ボタンを好むことを知っており、ワンセグやおサイフケータイのような日本独自の機能がなくタッチスクリーンだけのiPhoneのユーザーインターフェースが日本市場に適応しないと判断していたと思われます。

エンジニアの一部はiPhoneの脅威を認識

一方で、ソニーの技術者の中にはiPhoneの登場に衝撃を受けた者もいました。特に、タッチスクリーンによる直感的な操作性や、ハードウェアとソフトウェアの統合によるスムーズなユーザー体験は、それまでの携帯電話とは全く異なるものでした。これまでの携帯電話は「キャリア主導」で開発され、端末メーカーはキャリアの仕様に従う形で製品を作るのが一般的でしたが、iPhoneはキャリアの制約を取り払ったApple独自のUXを実現していたのです。ソニーが持つウォークマンの音響技術やサイバーショットのカメラ技術を活用すれば、iPhoneに匹敵するハードウェアとしてのスマートフォンを作れる状況であったようですが、iPhoneのようにソフトウェアとハードウェアを完全に統合し、しかも優れたUIを実現するビジョンはなかったようです。

ソニー・エリクソンのスマートフォン市場への参入

iPhoneが登場した直後、ソニーはスマートフォン市場への本格参入を検討したようですが、当初は従来のフィーチャーフォンの延長線上にある「高機能な携帯電話」を開発する方向に進みました。その結果、ソニー・エリクソンは、すぐにはiPhoneと競争できるスマートフォンを市場投入できませんでした。2010年になって、ソニーは「Xperiaシリーズ」を発表し、Androidを搭載したスマートフォン市場に本格参入しました。しかし、Appleのようにソフトウェアも含めたエコシステムを構築するのではなく、ハードウェアとしての技術スペックを強調する戦略をとったため、ユーザーの支持をあまり得ることができませんでした。特に、Android OSのカスタマイズに力を入れた結果、アップデートの遅れやシステムの最適化不足が問題となり、Googleの純正AndroidデバイスやSamsungの競争力に劣る結果となりました。

独自技術に固執した結果

ソニーは、iPhoneに対抗するために、ウォークマンの音響技術やサイバーショットのカメラ技術を統合し、「ソニーらしさ」を強調したスマートフォン開発を進めました。しかし、Appleのように直感的なUXを追求するのではなく、技術スペックを前面に出すアプローチをとったため、ユーザーにとっては魅力が薄れました。さらに、日本市場向けの独自機能にこだわり、グローバル市場を見据えた製品展開が遅れたことも大きな要因でした。iPhoneが世界的な成功を収める中、ソニーのスマートフォン事業は苦戦を強いられました。2014年には、ソニーのモバイル部門が赤字に転落し、以降も市場シェアの低迷が続きました。結果として、2020年代にはスマートフォン事業の縮小を余儀なくされました。

カメラセンサー市場での成功

スマートフォン市場では苦戦したものの、ソニーはカメラセンサー市場で大きな成功を収めました。iPhoneのカメラには長年にわたってソニーのイメージセンサーが採用されており、ソニーはこの分野で圧倒的なシェアを誇っています。2022年には、AppleのCEOティム・クックがソニーのカメラセンサー工場を訪問し、「iPhoneのカメラ品質向上において、ソニーの技術は不可欠」とコメントしました。

まとめ

ソニーも、マイクロソフト同様に、iPhoneの登場を正しく評価できず、スマートフォン市場での競争に乗り遅れました。日本市場の特殊性や独自技術へのこだわりが、iPhoneの可能性を過小評価させ、市場適応を遅らせたことが敗因となりました。しかし、ソニーは完全にAppleとの競争に敗れたわけではありません。スマートフォン市場では苦戦したものの、カメラセンサー市場ではAppleの重要なパートナーとなり、現在でもその分野で圧倒的なシェアを維持しています。スティーブ・ジョブズが憧れたソニーは、イノベーションにおいて今も重要な存在であり続けていますが、市場の変化に迅速に対応できなかったことが、スマートフォン事業での苦戦につながったのです。

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《西口一希》

Apple 神話の検証