2-2-9:10人まとめてではなく、1人ずつに聞く必要性

顧客起点マーケティング ビジネス構造の理解
N1分析では、実際の顧客に焦点を当て、個別に生活習慣や購買行動を探ることが重要です。これにより、初回購入やロイヤル化のきっかけを理解し、戦略を練ることができます。
2-2-9:10人まとめてではなく、1人ずつに聞く必要性
  • 2-2-9:10人まとめてではなく、1人ずつに聞く必要性
  • 2-2-9:10人まとめてではなく、1人ずつに聞く必要性

なぜ知ったのか、なぜ買ったのかを探る

N1分析は架空の想定顧客ではなく、実際にそのセグメントに属している、名前のある顧客個人にフォーカスして実施します。その方の生活態度、習慣、購入行動から購入に関連する認知や心理を、カスタマージャーニーを想像しながら理解し、それぞれの結びつきを探っていきます。理解したいことは、「いつ、どのようなきっかけで、ブランドを知ったのか/買ったのか/ロイヤル顧客化したのか」です。そのきっかけとなったカテゴリー体験や、商品やサービスの経験、ブランドメッセージとの出会い、何らかの特定の情報認知などが、「アイデア」を創出する大きなヒントになるのです。

手始めにロイヤル顧客層で10人ほど実行すれば、なぜロイヤル化したのか、そもそもなぜ使い始めたのかのきっかけの候補が3つや4つは必ず見つかります。共通点を把握することで、そのきっかけがどれくらい強く現れるのか、再現性があるのかの推察もできます。さらに一般顧客や、認知未購入顧客や未認知顧客のセグメントでN1分析を続けて、ロイヤル顧客から得られたきっかけがそれ以外の層では出てこなければ、注目すべきです。その事実やコミュニケーション内容を「プロダクトアイデア」として、N1インタビュー時に「こういう提案があったらどうですか」などと聞き、複数人から好意的な反応があれば、実際に展開することで購入が拡大する可能性があります。

ただし、いずれのN1分析の際も、他の顧客が同席しない状態で、1人に対して聞くことが大事です。10人にN1分析をするというのは、あくまで「N=1」×個別の10人であって、N=10のひと固まりではありません。複数人を同じ場所に集めて話を聞くグループインタビューは、隣の人の意見に自分の意見が左右されることが多いので、得られるヒントは浅くなります。N=10の平均的な発見を求めるのではなく、1人が強く実感している際立った体験や認識を見つけるのです。

「他人へのギフト需要」を見つけて強化したロクシタン

スキンケアブランドのロクシタンは、かつて、ブランド認知がありながらも未購入の「認知未購入」セグメントのボリュームが大きく、その層に最初の購入を促して顧客化するマーケティング戦略が求められていました。知っているが買ったことがない人に、いかに初回購入していただくかが課題でした。

すでに顧客である人にN1分析を実施すると、自分用ではなく、ハンドクリームなど人にプレゼントしやすい商品のギフト購入が「最初にロクシタンを買ったきっかけ」になっていることがわかりました。別の人へのN1分析でも、同じように答えるケースが複数あったので、訴求の切り口として「誰にも喜ばれるギフト」という点を打ち出しました。すると「手ごろな価格で汎用性のあるギフトを探している」という需要を捉え、ロクシタンを知っているが買ったことがない人の多くの初回購入を促し、一般顧客の数と購入額を大きく伸ばしました。明確に「ギフト」と言い切ることが独自性であり、誰もが喜ぶこと、つまり贈る側からすると「外しがない」ことが初回購入への強い便益になりました。

さらに、ロイヤル顧客へのN1分析から、多くのロイヤル化のきっかけが「初めてロクシタンを買った際にスキンケア商品の良さを体験した」ことだったとわかりました。その中には、ギフト購入時に自分が商品を体験し、気に入って自分用にも買うようになった、というケースがありました。

そこで、ギフト利用を認知未購入者向けに大きく打ち出しながら、店舗では初購入に来られたギフト目的の方に必ずスキンケア商品のサンプルを提供し、認知獲得と使用体験の徹底という戦略を実践しました。その結果、未購入からの初顧客化と、一般からロイヤル顧客化する人数を同時に押し上げることができました。

このようなきっかけ探しのためには、特にロイヤル顧客のN1インタビューや調査をすると、実りが多いです。ブランドへの思い入れが強い方や、その便益や独自性をとりわけ貴重に感じている方が多いので、明確な購入意向を伴うきっかけを比較的見つけやすく、アイデアへのヒントも得やすいからです。

まだ会員登録されていない方へ

会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です


《西口一希》

ビジネス構造の理解