2-2-2:顧客起点マーケティングがデジタル時代に必要な理由

顧客起点マーケティング ビジネス構造の理解
デジタル時代には顧客の理解がマーケティングの鍵であり、情報過多の中で顧客の行動や心理を把握することが重要です。顧客分析を通じて戦略的運用を行う必要があります。
2-2-2:顧客起点マーケティングがデジタル時代に必要な理由

顧客を把握せずにマーケティングしている現状

そもそもマーケティングとは、平たくいうと、魅力的な商品やサービスを開発し、顧客に継続的に購入、使用していただく活動です。企業側がどれだけ「魅力的だ」と訴えても、受け手である顧客がそう感じなければ、成立しません。従って、顧客が生活の中で何を考え、何を経験し、何を求め、何を感じているのかを知ることは、マーケティングにおいて基本中の基本です。

しかし現在、その基本が崩れつつあります。多くの人々がスマートフォンを通じてインターネットに直接つながり、無数ともいえる様々なデジタル上の情報に触れているため、一人ひとりの情報接触や感じていることや行動を把握するのは極めて難しくなってきました。

新聞、雑誌、テレビ、ラジオの4マスといわれるマスメディアが、紙媒体を中心に衰退する中で、マーケターが発信した情報も伝わりにくくなっています。それを埋めるかのように、様々なデジタルマーケティングの手技手法が提案され、マーケターは「顧客が何を求めているか」を知るよりも、新しい技術の理解と実行に時間を取られています。ですが、それらはあくまで顧客戦略(WHO&WHAT)を実行するための手段(HOW)であり、ブランド全体から見れば部分最適で限定的な影響しか与えません。

なぜ、顧客が動いたのか? 顧客の行動変化の理由である心理変化に触れないままでは、大規模なマーケティング投資でスケールさせることができません。顧客を把握しないマーケティングは必ず、部分最適の連続から縮小均衡に陥ります。見方を変えれば、拡大するデジタル世界で「顧客を捉えるため」としながら新しい手技手法に囚われて、ますます顧客から遠ざかっているのです。

定期的に数字を更新してビジネスを可視化する

顧客分析のフレームワークは、一度作成したら定期的に調査して各セグメントの人数や構成比を更新し、継続して運用します。運用の流れは、次の5ステップになります。

  1. 5segsまたは9segs作成 ―誰でもできる簡単な調査で顧客を5つまたは9つのセグメントに分解

  2. セグメント分析 ―行動データと心理データから各セグメントの基本的な顧客特性を把握

  3. N1分析 ―どのセグメントの方かを踏まえて「1人の顧客(N=1)」にインタビューし、認知や購入のきっかけと深層心理を分析

  4. アイデア開発 ―N1分析を元に、その顧客の心理状態と行動を変える「アイデア」を考案、必要に応じて定量的調査などでポテンシャルを確認

  5. 施策の実行と検証 ―確度の高いアイデアを顧客に対して実践し、各セグメントの動きを評価

5segsまたは9segsのいずれの場合も、ゴールは既存顧客と今後の潜在的な顧客候補のすべてを含む対象顧客全体を統合して可視化・定量化、セグメント化し、マーケティングの戦略的な運用を可能にすることです。売上や利益がどの顧客層に由来しているのかを把握できれば、新規顧客の獲得に過剰に投資してしまう事態、あるいは既存顧客にばかり目を奪われてブランドを将来的に先細りさせてしまう事態を回避することが可能になります。

現代に的確な顧客分類とN1分析が有効な理由

9segsでは、5segsに「そのブランドを次回も購入(使用)したいか?」という次回購入意向の軸が加わります。次回購入意向は、NPI(Next Purchase Intention)と表し、NPIが上がる活動をブランディングの成果として評価します。そうすることで、マーケティング業務にとって大きな課題でありながら、曖昧な検証しかできなかったブランディング活動の投資効果を可視化・定量化し、販売促進活動と統合したマーケティング投資判断とその検証を可能にします。ブランディング投資が説明できない、販促活動とブランディング活動の議論が噛み合わないという課題の解決に役立ちます。

これらの顧客分類と、それぞれのセグメントのどこに属するかを把握した上で実在の1人に対して実施するN1分析は、生活者が多様化し分散化した現代だからなお有効です。

インターネットの浸透、およびスマートフォンの普及は、人々のライフスタイルを大きく変えるだけでなく、旧来のビジネスのあり方も根本から変えています。顧客の購入や心理の微細な変化をリアルタイムで捉えていないと、特定セグメントの顧客がじわじわとデジタルベンチャーの新サービスに移動している事実に気がつかず、ある日突然、大きなマイナスのインパクトを受けることもあります。デジタル技術の進化が加速し、見えにくくなっている時代だからこそ、技術を追いかけるのではなく、顧客の変化に目を向けることが必要です。

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《西口一希》

ビジネス構造の理解