2-2-20:次回購入意向(NPI)を加味して顧客をさらに分類する

顧客起点マーケティング ビジネス構造の理解
購入頻度だけではロイヤル顧客を正確に把握できないため、次回購入意向(NPI)が重要です。消極ロイヤル顧客が多いと、競合の出現で顧客を失うリスクがあるため、自社の独自性を強化することが必要です。
2-2-20:次回購入意向(NPI)を加味して顧客をさらに分類する
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購入頻度だけでは真のロイヤル顧客はわからない

ここからは、9segsについて解説していきます。

5segsにおいて購入頻度や購入額で定義しているロイヤル顧客層には、実は真のロイヤル顧客といえない顧客が多く含まれています。自社ブランドだけを買っている人を“真のロイヤル顧客”とすると、自社の購入行動データだけでは検出できません。

自社ブランドのロイヤル顧客層を対象に、次回のブランド購入意向の調査をすると、自社ブランドを選ばない顧客が存在することがわかります。ここでいうブランド選好とは、単なる好き嫌いや他人への推薦意向などではなく、本人の次回購入意向です。競合する複数ブランド名と並べて次回購入ブランドを選んでもらうと、自社ブランドのロイヤル顧客であっても、自社ブランドの購入意向が100%になることはまずありません。

つまり、自社ブランドを大量に買ってくれているロイヤル顧客の心は、必ずしも“次回もロイヤル”ではないのです。どのようなカテゴリーでも、自社ブランドだけを買い続けている顧客はほとんどおらず、様々な競合ブランドも代替品も合わせてダイナミックに買い回りをしているのが現実です。大量購入顧客の全員が、自社ブランドのロイヤル顧客とはいえないのです。

人気スーパーの顧客が急に減った理由

この状況を、小売店の例で考えてみます。自宅の前にスーパーAがあり、周囲には他のスーパーもコンビニもない場合、おそらく日常の買い物はほぼAで済ませるでしょう。それは、他に選択肢がないからです。その場合、スーパーAから見れば、あなたはロイヤル顧客です。

ところが、少々歩かなければいけない200メートル先に品ぞろえもサービスも良い最新のスーパーBがオープンすると、どうなるでしょうか。雨のときや時間のないときは、今まで通りスーパーAも使うかもしれませんが、Bでの買い物も増えます。つまり、スーパーAは単に物理的に近いから高頻度購入していたのであって、そもそも強い便益と独自性(プロダクトアイデア)があったわけではないのです。物理的に最も近いという独自性以外は、コモディティだったということです。

このことから、自社ブランドだけでなく、競合のプロダクトアイデアを理解し、その便益と独自性を顧客がどのように認識しているかも把握すべきだとわかります。一気に顧客を失う事態を防ぐために、自社ブランドのプロダクトアイデアを強化していく必要があります。

もしスーパーAに、強い便益と独自性があり(例えば、品ぞろえと価格に大きな問題はなく、店員の対応が丁寧で早いなど)、スーパーBに大きく劣る点がなければ、BがオープンしてもAへの購入行動は大きくは変わらないでしょう。徒歩圏に魅力的な選択肢が登場しても、「でもやっぱりAが良い」となるはずです。つまり、Aへの購入行動の裏側に、心理的なロイヤリティが存在しているということです。これこそがブランドであり、高頻度購入自体はブランドではないのです。

先の例における「次の機会もスーパーAを使いたい」という意志は、つまり次回購入意向(NPI)です。高頻度購入層の中には、NPIがある(もしくは高い)「積極ロイヤル顧客」と、NPIがない(もしくは低い)「消極ロイヤル顧客」が混在しています。

積極的ロイヤリティと消極的ロイヤリティ

NPIの意味を踏まえて現在の小売業界を考えてみると、同業界におけるAmzonを始めとしたEC事業者の躍進は、物理的な店舗網を持つ小売業者の消極ロイヤル顧客を全世界レベルで奪っている、と読み解けます。EC登場以前を考えると当然なのですが、広い物理的店舗網を持つ小売業の多くは、顧客と店舗の物理的な距離の近さを強みに売上を拡大してきました。毎年の新規エリアへの出店や、人口や交通量の多い場所に集中して出店することで、高い売上伸張と顧客増を達成してきたわけですが、近さ自体は顧客に対する強い「プロダクトアイデア」にはなっていません。結果的に、NPIが低い消極ロイヤル顧客を多く抱えていました。

小売業者同士が近さの競争を繰り広げる中で、その距離の概念を打ち砕いたのが、ECです。NPIが低い消極ロイヤル顧客を、一気にAmazonほかのECプレーヤーが奪っていきました。

物理的な店舗網を持つ小売業がすべきことは、まず積極ロイヤル顧客のNPIの理由、つまりその積極性を支える便益と独自性を見つけ出すことです。そして、EC事業者が提供できないプロダクトアイデア(便益+独自性)を、消極ロイヤル顧客に向けて提供することです。これにより、消極ロイヤル顧客のNPIを獲得して積極化し、奪われにくくします。

小売業だけでなく、異業種サービスが代替品となってロイヤル顧客を失っていくことは日常茶飯事です。Uberなどのシェアリングサービスはタクシー業界を侵食しただけでなく、自家用車を所有するマーケットも侵食しています。Airbnbもホテルなどの宿泊業を侵食していますが、それだけではありません。自宅を所有している人のうち、消極ロイヤル顧客の心理的な理由を想像すると、自宅所有という不動産需要自体を侵食していくでしょう。「買い続けている/使い続けている」という行動を左右する心理的原因を理解しないと、ロイヤル顧客の売上が減っても本質的な問題が理解できないまま、顧客を失い続けてしまうことになります。

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《西口一希》

ビジネス構造の理解