
カスタマージャーニーの抽出
ロイヤル顧客のN1分析をしていけば、認知から顧客化、ロイヤル化までの変遷を捉えることができます。1人ずつ個別のカスタマージャーニーを時系列で描いて、こちらの想像の範疇にない、異質な体験や認知形成を見つけ出していきます。同時にその背景にある心理状態、どう感じたか、なぜそう感じたかを深く理解することが大切です。
このときのカスタマージャーニーの図は、横軸は時間としますが、縦軸は感覚的なブランドへの好意度でかまいません。N1インタビューの際に、顧客から「このときはこんなできごとがあった」「こんな気持ちだった」と聞きながら、実際に手元で時系列のカスタマージャーニーを描いて、顧客自身の感覚と相違ないか、一緒に作成するのが有効です。

注意すべきは、昔の話が曖昧で、最初に使い始めたきっかけや理由と、今現在そのブランドを愛用しているロイヤル化の理由が混在しがちなことです。例えばシャンプーなら、上位5位くらいまでのブランドのヘビーユーザーに「なぜ買い続けているか」と聞くと、半数以上が「髪がしっとりさらさら」と答えます。しかし、これを真剣に受けてそのまま広告で訴求しても、まったく売れません。むしろ「髪がクリスタルのように輝く」とか「朝、寝癖がない髪」のように、便益と繋がる独自性のある提案をしないと初回購入は起こりません。ロイヤル化した理由(使い続けている理由)とトライアル理由は、多くの場合で異なっているのですが、混同しがちなので気をつけたいです。
実在しない顧客のジャーニーやペルソナは無効
「カスタマージャーニー」は、現在マーケティングの現場では標準的な分析手法になっています。しかし多くの場合、そのカスタマージャーニーは想像でつくられています。作成するマーケターの思い込みや、偏りが含まれ、また平均的になりがちです。これでは役に立つどころか、マーケティングや経営戦略を惑わすリスクすらあります。特に企業側の複数人で作成する場合、実態としてそれは多種多様な方々の組み合わせであり、実際には存在しないカスタマージャーニーです。それよりも、実在のロイヤル顧客の話を徹底的に聞き、ご本人が自身について知っている以上にこちら側がわかるくらいのN1分析をするほうが、実態に即した顧客理解になります。
同様の問題は、ペルソナ設定にもあります。この手法はブランドの戦略想定顧客として社内でマーケティング企画を推進したり、代理店やコンサルティング会社にブリーフィングしたりする際によく使われますが、カスタマージャーニー同様に、ペルソナそのままの顧客は現実には存在しないのです。本当に顧客の心を捉える商品企画やコミュニケーション提案は、具体的な名前のある実在の顧客に対するN1分析で進めることが、絶対に必要です。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です