2-2-19:ID POS分析――アンケート調査を使わない顧客分析

顧客起点マーケティング ビジネス構造の理解
ID POS分析は、顧客の売上データを活用し、アンケートなしで顧客の動きをセグメントし分析する手法です。顧客の動きからロイヤル顧客や離反顧客を特定し、ビジネスのリスクとチャンスを把握することが重要です。
2-2-19:ID POS分析――アンケート調査を使わない顧客分析
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ID POSを使って顧客の動きを分析する

ここまで解説してきた5segsは、基本的にはネットアンケート調査をもとに顧客を分類しますが、自社の分析ならばアンケート調査を使わなくても可能な分析を紹介します。最も手軽で費用がかからない顧客理解の方法は、自社が有しているデータを使う、ID POSを使った分析です。自社のPOSデータから、単年度、および複数年度で顧客の売上ランキングを作成し、個別の顧客がどう移動したかによって顧客をセグメンテーションした上で、その移動の理由を分析します。

例えば、どの年度のランキングでも上位にいる方は、ロイヤル顧客といえます。以前は入っていたけれど最近のランキングには入っていない方は、離反顧客。一方、最近で上位に入ってきた方は新規の潜在的ロイヤル顧客、ランキング中位以下は一般顧客に分類できます。IDを手がかりに、その差異がどこから生まれたのかを分析します。

3年分の売上ランキングからのシミュレーション

実際のビジネスのケースから単純化して、2022年から2024年までの単年度ごと、さらに2022年から24年までの3年間累計でのID別で、売上ランキングをシミュレーションしてみます。なお、新規獲得費用と顧客維持費用を加味した営業利益で見た方が、事業への貢献がより明確ですが、ここでは顧客の動きを見ますので、売上で行っても問題ありません。

IDは、2022年の単年度ランキング上位から100位までをID 001~ ID 100と振っています。それ以外のIDは、2022年の101位以下と翌年以降の新規顧客です。

では、分析していきます。まず2022年から2024年の各年と3年間累計の4つのランキングを見比べると、2022年のトップ5に入っていたID 001、ID 003、ID 005が、2023年も2024年もトップ5に入っており、累計で見ても順番に1位、2位、4位となり明らかにロイヤル顧客だとわかります。

一方、2022年はそれぞれ2位と4位だったID 002、ID 004は、2024年にはトップ5から消えていました。2024年時点で下位にでも残っていれば、ロイヤル顧客から一般顧客に変わったと判断できますし、2024年に売上が完全に消えていれば、離反顧客と判断できます。

また、売上が大きくない下位ランキングは毎年入れ変わっていますが、2022年にランキング38位だったID 038が、3年累計ではかろうじて97位に登場しています。この点から、ID 038は3年間の間に下がってきた潜在的な離反顧客だと推測できます。

ID POS分析でチャンスとリスクを捉える

それぞれの単年度の売上と利益は、このような様々な顧客の動きをすべてまとめたものであり、全セグメントの構成の結果です。単年度の合計売上が上がっていても、それは新規顧客が一時的に増えたことが要因で、そこからの離反もかなり大きかったり、ロイヤル顧客の離反も増えていたりすることは少なくありません。その場合、売上は良くても、すでに利益率が悪化してきているか、翌年以降に売上成長が急激に鈍化することが起こります。

各セグメントの構成の推移を分析し、顧客の動きを理解していなければ、見かけは喜ばしくても実はリスクが大きい状況だと気づくことはできません。逆に、チャンスを見逃してしまうこともあります。ロイヤル顧客の離反率が下がり新規顧客の継続率が上がっている場合、さらに大きな投資を新規顧客の購入促進にかければ、長期的な売上と利益を最大化できる可能性があります。しかし、顧客がセグメント間をどう動いているかを捉えられていければ、このチャンスに気づかず、機会損失が発生します。売上や利益の合計や財務分析からは、このようなリスクもチャンスも見えないのです。

したがって、顧客ごとの動きとその理由やきっかけを分析し、ロイヤル顧客の継続性につながる要素は何か、どうすればロイヤル顧客になる可能性の高い新規顧客を獲得できるか、あるいはどうすれば離反を最小化できるか、などを洞察することが重要なのです。これが、ID POS分析です。

今回のシュミレーションであれば、2022年時点で明らかなロイヤル顧客であるID 001、ID 003、ID 005と、その後に離反した可能性の高いロイヤル顧客のID 002、ID 004の違いは何なのかをまず考察します。顧客に由来する何らかの違いなのか、あるいは顧客の生活が変化したのか。自社プロダクトへの評価は変わったのか、それはなぜ変わったのか、変わった理由が競合プロダクトに起因する可能性はあるか。また、徐々に離反しつつあるID 038は、どうしてそうなっているのか。……といったことをそれぞれ丁寧にN1で分析するのです。

IDごとに、それぞれの新規購入から最新の購入までの履歴分析で仮説を作り、さらに個別の顧客インタビューを行なって仮説を検証し続け、成功パターンと失敗リスクを洞察してビジネスに反映していきます。

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《西口一希》

ビジネス構造の理解