2-2-15:顧客に早期に気づかれなければ意味がない

顧客起点マーケティング ビジネス構造の理解
マーケティングの成功には、早期の顧客認知形成が不可欠であり、競合に模倣される前に独自性をアピールし、プロダクトの価値を伝えることが重要です。
2-2-15:顧客に早期に気づかれなければ意味がない
  • 2-2-15:顧客に早期に気づかれなければ意味がない
  • 2-2-15:顧客に早期に気づかれなければ意味がない

「知られない=存在しない」:認知形成スピードの重要性

マーケティングの成功には、顧客戦略(WHO&WHAT)の特定、価値になり得るアイデアの創出に加えて、早期の認知形成も重要な要素です。強い便益と独自性を伴ったプロダクトアイデアを開発できても、追随するように模倣してきた競合にポジションを奪われ、ただの類似プロダクトになってしまうことはよくあります。

様々なカテゴリーのトップブランドは、そのプロダクトアイデアに関して、後発であることが少なくありません。これは、認知形成スピードの重要性を物語っています。顧客に知られなければ、その顧客にとってプロダクトは存在していないと同然です。仮にそのプロダクトが新規のカテゴリー自体を開拓するような、既存の市場に類のないものであっても、顧客に気づかれないまま時間が経ち、競合が類似品を提案して一気に認知を獲得したら、先行者の優位性は消滅します。それまでカテゴリー自体に気づいていなかった顧客は、今まさに自分の目の前に提示された競合プロダクトに新規性を見いだすからです。その人にとっては、競合プロダクトが「今までになかった商品・サービス」に映ってしまうのです。

従ってプロダクトアイデアを確立したら、競合企業が模倣する前に、顧客の認知を獲得できるようなコミュニケーションアイデアを検討・実行しなければなりません。強いプロダクトアイデアと、コミュニケーションアイデアに加えて、「対象とする顧客における早期の認知形成」が成功の3要素だといえます。

とはいえ、コミュニケーションアイデアによる早期の認知形成は、あくまでプロダクトアイデアありきで検討することです。事業の継続には、一定数の顧客になるべく長く購入あるいは利用してもらいながら、新規顧客も絶え間なく獲得することが必要です。そのためには、顧客にとってプロダクトが便益と独自性を備えていることは大前提です。華々しいプロモーションで認知を獲得しても、知った人が「価値がある」と感じて購入や利用の意思決定をしない限り、事業成長には結びつきません。

さらに、市場投入後も、プロダクトアイデア自体を常にアップグレードしていく必要があります。プロダクトアイデアが弱い、特に独自性が弱いと模倣されやすく、競合プロダクトの参入障壁が低くなるからです。発売時点ではカテゴリーを開拓するような新規性のあるプロダクトでも、すぐに競合がひしめき合い、市場全体がコモディティ化することもあります。

後発のメルカリはなぜシェアを獲れたのか

認知形成のスピードを活用して成功した事例として、メルカリが挙げられます。メルカリが市場に登場した際、すでにCtoCのフリマアプリは存在しており、プロダクトとしては後発でした。しかし早期の認知形成を実現し、カテゴリーNo.1となりました。一方、スマートニュースはニュースアプリとして日本初でありながら、後発の競合プロダクトの認知形成に先を越され、一時期はニッチブランドとして停滞する危機に瀕しました。

また、ソフトバンクが行っていた「タイムマシーン経営」も、認知形成のスピードを活用した事例といえます。これは、世界中で芽生えつつある強い「プロダクトアイデア」をいち早く探し出し、それを自社サービスとして日本で開発し、本家本元が日本に参入する前に、そのカテゴリーの認知を作ってしまうというものです。

デジタル系以外でも、同様のケースは多く見られます。炭酸飲料市場ではコカ・コーラが圧倒的な世界No.1ですが、進出が遅れた中近東やアジア一部諸国には、早期に進出したペプシコーラが先行して認知形成し、長らくNo.1のポジションを維持しています。ハンバーガーチェーンで圧倒的No.1のマクドナルドも、各国で同様な経験をしています。進出の遅れたイギリスではかつて、Winpyというローカルのハンバーガーチェーンが圧倒的No.1でした。当時のイギリスでは、おいしいファストフードのハンバーガーはWinpyであり、マクドナルドは進出時点においてはプロダクトアイデアの弱い二番煎じだったのです。その後の大規模な投資とWinpyの失策で、マクドナルドは徐々に主導権を奪いましたが、初期のハンバーガーチェーンという認知形成に遅れたことで多くの投資と時間が必要になりました。

まだ会員登録されていない方へ

会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です


《西口一希》

ビジネス構造の理解