アベイラビリティ・バイアスとは

アベイラビリティ・バイアスとは、人が意思決定を行う際に、頭に思い浮かびやすい、つまり記憶から容易に取り出せる情報を過度に重視してしまう心理的傾向のことです。今回はこのバイアスがどのように機能するのか、その仕組みと具体的な事例を解説し、さらにマーケティング分野でどのように応用されているかについて説明します。
アベイラビリティ・バイアスとは

アベイラビリティ・バイアスの定義

アベイラビリティ・バイアス(可能性バイアス)とは、人が何かを判断する際、その情報が記憶の中でどれだけ「アベイラブル(利用可能)」か、つまり「思い出しやすいか」という点に過度に依存してしまう心理的な傾向を指します。頭の中で情報が簡単に想起できるかどうかという要因が、その情報がどれだけ重要か、あるいはどれだけ頻繁に起こるかという判断に大きな影響を及ぼしてしまうのです。

判断が偏る仕組み:思考のショートカットとその落とし穴

私たちの脳は、複雑な事柄を判断する際に、無意識のうちに「思い出しやすさ」をヒントとして利用します。これは一種の「思考のショートカット」(専門用語で「ヒューリスティック」)として機能し、迅速な判断を助ける役割を果たします。この思考のショートカットは効率的である一方、判断を誤らせる原因にもなります。なぜなら、「簡単に思い出せる情報」が、必ずしも「最も重要、あるいは最も発生頻度が高い情報」であるとは限らないからです。この認識のズレが、アベイラビリティ・バイアスの根源となります。

具体例:ニュース報道が引き起こすリスクの過大評価

アベイラビリティ・バイアスの典型的な例として、ニュース報道によるリスク認識の歪みが挙げられます。

飛行機事故と自動車事故の比較衝撃的でドラマティックな飛行機事故は、ニュースで繰り返し報道されるため、私たちの記憶に強く残りやすくなります。その結果、多くの人々は飛行機を危険な乗り物だと感じ、そのリスクを過大評価する傾向があります。しかし、統計データを見れば、自動車事故の発生確率の方がはるかに高いのが現実です。

このように、情報のインパクトや報道頻度が「思い出しやすさ」に影響し、客観的な確率とは異なるリスク認識を生み出します。また、大きな地震のニュースを見た後だと、ちょっとした揺れにも敏感になってしまうのも、このバイアスが働く典型的な例です。

マーケティングにおける応用

「思い出しやすさが判断に影響を与える」という心理原則は、マーケティングにおいて非常に重要なポイントとなります。顧客の頭の中に自社のブランドや商品を思い出しやすい状態(アベイラブルな状態)にしておくことで、購入につながる可能性を高めることができるのです。以下に、具体的な応用戦略を3つ紹介します。

  • 1:高頻度の接触(メール、メッセージ)

    • 手法:ユニクロ、GU、楽天といった企業が毎週のように配信するメールマガジンや、マクドナルドのLINE公式アカウントから定期的に送られるクーポン付きメッセージのように、顧客と高頻度で接点を持つ戦略です。

    • 効果:たとえ毎回は読まれなくても、定期的にブランド名やロゴに触れることで、顧客の記憶の中にそのブランドの存在が確保されます。これにより、「服を買いたい」「昼食をどうしようか」と考えた際に、そのブランドや店舗が候補として思い浮かびやすくなります。ただし、もちろん限度はあり、あまりに頻度が高すぎたり、内容が顧客にとって無価値だったりすると、迷惑がられて逆効果になる可能性もあるので注意が必要です。

  • 2:リマーケティング広告

    • 手法:一度ウェブサイトを訪れたり、特定の商品を閲覧したりした顧客に対し、別のニュースサイトやInstagramなどのSNSを閲覧中に、関連する広告を再度表示する手法です。例えば、Amazonで見た商品の広告が別のサイトに表示されたり、Zozotownのカートに入れた服がSNSのフィードに現れたり、旅行サイトでホテルを探した後にそのホテルの広告がしばらく表示されたりする経験はないでしょうか。

    • 効果:これは顧客から「追いかけてくる広告」とも呼ばれる手法です。顧客が一度興味を示した商品情報を繰り返し見せることで、その商品の記憶を強めます。「そういえばあの商品が気になっていた」と思い出させ、再びサイトを訪れて購入を検討するよう促します。

  • 3:SNSでの頻繁な投稿

    • 手法:企業がSNS上で、自社商品やサービスに関する有益な情報や魅力的なコンテンツを頻繁に発信する戦略です。例えば、無印良品のInstagramアカウントが発信する商品の活用術や、スターバックスが投稿する新商品の告知などが挙げられます。さらに近年では、企業がTikTokでトレンドのダンスやチャレンジに絡めて自社の商品やサービスを面白おかしく紹介するケースも増えています。

    • 効果:広告のように直接的でなくても、日常的にブランドの情報に触れ続けることで、顧客は無意識のうちに親近感を抱きます。これによりブランドが身近な存在となり、「今度これを買ってみよう」といった購買意欲の維持・向上につながります。

結論

アベイラビリティ・バイアスは、私たちの判断を助ける思考のショートカットであると同時に、リスク認識などを歪める可能性を持つ認知の偏りです。しかし、マーケティングの観点からは、この心理原則を戦略的に活用することが可能です。メール、リマーケティング広告、SNSなどを通じて、一貫して顧客と接点を持ち、自社のブランドや商品の「アベイラビリティ(思い出しやすさ)」を高めること。それにより、消費者の選択肢に残り続け、最終的な購入確率を大きく向上させることができるのです。

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《西口一希》

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