顧客にとって信頼できるマーケティングの実践へ
マーケティングに関連する心理学の9分類を再掲します。本項では、7(知覚と注意)8(環境の影響)9(リスク認識と意思決定)を解説します。
7. 知覚と注意
知覚は、感覚を通じて情報を受け取ることであり、注意はその情報に集中する能力です。商品やサービスの第一印象は、全体の評価に大きな影響を与えます。例えば、商品パッケージのデザインや広告のビジュアルが魅力的であれば、生活者の注意を引き、その商品に対する評価が高まります。
ハロー効果(Halo Effect):有名な俳優や女優を広告に起用すると、その製品やサービスが高品質だと生活者に感じさせることがあります。例えば、有名なスポーツ選手が推奨するスポーツ用品は、その選手のイメージのおかげで製品も良いものであると信じられやすいです。
貨幣錯覚(Money Illusion):投資家が年利5%の利回りを得たとしますが、その年のインフレ率が6%だった場合、実質的には投資の価値は1%減少しています。それにもかかわらず、投資家は「5%も増えた」と名目上のリターンだけに注目し、投資が成功したと錯覚することがあります。これは貨幣錯覚の典型的な例です。
ホーン効果(Horn Effect):ネガティブな第一印象が、商品やサービス全体の評価に悪影響を与えることがあります。例えば、あるレストランで最初に提供された料理がひどかった場合、その後のサービスや他の料理も悪いと感じられることが多いです。
8. 環境の影響
環境や状況は、人の行動に大きな影響を与えます。物理的な環境だけでなく、社会的な状況も含まれます。例えば、スーパーマーケットのレイアウトや商品の配置が、顧客の購入行動を大きく左右することがあります。レジの近くに小さな商品を配置することで、衝動買いを促進することがよく見られる手法です。
ナッジ理論(Nudge Theory): スーパーマーケットで健康的な食品を目の高さの棚に配置することで、顧客がそれらの食品を選びやすくなります。例えば、果物や野菜をレジの近くに置くことで、生活者は最後の瞬間に健康的な選択をしやすくなります。
単純存在効果(Mere Presence Effect): カフェやレストランで他の客がいることが、訪れる人にとってその場所が人気があるという印象を与えます。例えば、ショッピングモール内のカフェで多くの人がリラックスしている光景を見ると、新たに来店した人もそのカフェに入りたくなります。
選択過多(Choice Overload):ウェブサイトであまりにも多くの選択肢を提示すると、顧客が決定に迷い、結局何も購入しないことがあります。例えば、オンラインショップで一度に50種類の商品を表示するよりも、10種類に絞って表示した方が、顧客は購入を決めやすくなります。
9. リスク認識と意思決定
リスク認識は、リスクをどのように感じるかを指し、リスクを伴う意思決定は、そのリスクを考慮して判断することです。例えば、保険商品を販売する際に、将来のリスクを強調することで購入意欲を高めることができます。人々はリスクを避けたいという心理から、リスクを減らす手段に対して積極的な選択をする傾向があります。
プロスペクト理論(Prospect Theory):保険商品を販売する際に、将来のリスクを強調することで、購入意欲を高めることが期待できます。例えば「この保険に加入することで、将来の医療費のリスクを減らすことができます」と説明すると、顧客は保険に加入する意欲が高まります。
損失回避の原理(Loss Aversion Principle):「今だけの限定割引!」や「期間限定オファー」といったマーケティング手法を使って、顧客に「この機会を逃したくない」と思わせます。例えば「今週末までに購入すると20%オフ」といった限定的なオファーを提示することで、顧客はその機会を逃すことを恐れ、購入を決断しやすくなります。
ペルツマン効果(Peltzman Effect): 安全機能が充実している自動車を販売する際には、顧客がその安全性に頼りすぎて危険運転をする懸念が高まるため、危険運転を防ぐための教育を行います。安全性が向上すると、人はリスクを取る行動をしやすくなるのが、ペルツマン効果です。例えば「この車には最新の安全技術が搭載されていますが、常に安全運転を心がけましょう」といったメッセージを強調することで、過信によるリスクを軽減します。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です