
同じ「高級ブランド」でも中身は全く違う。ルイ・ヴィトンとエルメス、ビジネスモデルの決定的な差とは
多くの人々にとって、ルイ・ヴィトンとエルメスは、共に「ハイブランド」の頂点として一括りに語られがちです。しかし、2025年上期の決算を見れば明らかなように、両社の経営状況には大きな開きが生まれています。LVMHグループの中核を担うルイ・ヴィトンが属するファッション&レザーグッズ(F&LG)部門は成長の鈍化局面に入りつつある一方、エルメスは依然として力強い成長を継続しています。この差は、単なる景気変動や一時的なトレンドでは説明できません。両社が基盤として持つビジネスモデル、そしてブランド哲学の違いこそが決定的な要因なのです。
1) 商品は「資産」か「消費」か - 根本的な価値の違い
エルメスの製品、特にバーキンやケリーは、すでに単なる消費財を超越しています。中古市場データ(2024年時点)では価値維持率が100%を超え、ミニケリーIIなどは150%以上で取引される例もあります。もはや「持つ喜び」と同時に「資産性」すら提供しているのです。ルイ・ヴィトンも定番モデルの一部は価格高騰傾向がありますが、ブランド全体のリセールバリューはエルメスに及ばず、いまだ「消費財」の要素が強いと言えます。
2) 戦略の比喩:「フェラーリ型」 vs 「メルセデス型」
ビジネスモデルの本質的な違いは、自動車メーカーとの対比で理解するとわかりやすいです。
エルメスは「フェラーリ型」
フェラーリは大量生産を避け、年間の供給台数を厳格に制御し、希少性によって熱狂的需要を生み出しています。同様にエルメスも、職人による少量生産を守り、入手困難さをブランド価値の源泉としています。その結果、2024年の営業利益率は40.5%と、フェラーリの28.3%(2023年度)を凌ぐ水準を記録しています。ルイ・ヴィトンは「メルセデス型」
メルセデスは豊富なラインナップで広い顧客層にアプローチし、規模と流通力で勝負する「普遍的な高級ブランド」です。ルイ・ヴィトンも同様に、世界最大のラグジュアリーブランドとして幅広い層をターゲットに展開。規模の大きさは強みですが、顧客には富裕層だけでなく、景気の影響を受けやすいアスピレーショナル層も多く含まれます。
メルセデス・ベンツの乗用車部門の営業利益率は近年おおよそ10~13%で推移しており、フェラーリの28.3%と比べれば明確に低水準。ラグジュアリーにおいて「希少性で利益率を最大化する戦略」と「規模と安定供給で売上を最大化する戦略」の違いを象徴しています。ルイ・ヴィトンも後者に位置づけられるのです。
3) 数字に表れる“質”の違い
エルメスは需要に対して供給を制約し続けることで効率よく消化できているのに対し、LVMHは供給が多く幅広い展開が影響し在庫負担が大きくなっています。
営業利益率
・エルメス:2024年は40.5%
・LVMH全体:23.1%
・LVMHのF&LG部門:約37%(推定値、ルイ・ヴィトン単体は非公開)在庫効率
・エルメス:在庫日数は約215~224日
・LVMH:約302~312日
4) ブランドの思想とデザイナー
ルイ・ヴィトンはカルチャーとの親和性を重視し、キム・ジョーンズ、ヴァージル・アブロー、ファレル・ウィリアムズといった象徴的な人物を起用。革新性と話題性の確保に注力しています。
エルメスは対照的に、クリエイティブ・ディレクションの長期安定を志向。ヴェロニク・ニシャニアン(メンズ、1988~)、ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキ(ウィメンズ、2014~)など、数十年単位で継続する体制を取っています。職人技と伝統哲学を「個人ではなくメゾンに宿す」思想といえます。
景気後退で試される「値上げ力」
2024年~2025年にかけて、ラグジュアリーブランドの二極化が鮮明になりました。エルメスやプラダは増収を維持する一方、LVMHやケリングは減収減益に直面。違いを決定づけたのは価格転嫁力(値上げ力)です。エルメスは2024年に9割以上の商品で値上げを行っても需要は揺らがず、逆にブランド価値を高めました。対してルイ・ヴィトンは、アスピレーショナル層も抱える広い市場ゆえに大胆な値上げをためらい、成長鈍化の要因となりました。つまり、両ブランドは同じ「頂上」を目指しながら、フェラーリ型=需要>供給の希少性で超高収益を追うエルメスと、メルセデス型=需要<供給で、市場規模を拡大するルイ・ヴィトンという全く異なるビジネスモデルなのです。
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