ロボティクスと自動運転——AIが「購入」だけでなく「実行」を代行する

AIはロボティクスや自動運転の進化により、提案にとどまらず実行までを代行するようになります。それに伴い、マーケティングは露出重視から、導線や完了までを設計する方向へとシフトしています。
ロボティクスと自動運転——AIが「購入」だけでなく「実行」を代行する
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第9回では、CEPがAIの判定ゲートになり、状況がそのままクエリになる世界を整理しました。今回は、その先に起きる変化——AIが「提案」だけでなく「実行」まで代行する領域について考えます。結論から言えば、ロボティクスと自動運転が進化するほど、AIの影響はデジタル購入を超えて物理世界へ広がり、マーケティングは「露出」より「導線(ルート・タイミング・実行)」の設計に近づいていくと思います。

生成AIの次は“Embodied AI”——現実世界で動くAIが価値を作る

生成AIは、文章や画像や要約の世界で価値を作ってきました。しかし企業の現場には、デジタル化しきれない仕事が大量にあります。倉庫でのピッキング、工場の搬送、店舗の品出し、検品、清掃、介護の補助。ここにロボティクスが入り、AIが状況判断して動くようになると、価値は一気に大きくなります。

私はロボティクスの普及を、未来の夢としてではなく「人手不足という制約が強すぎるために起きる必然」と見ています。特に物流・製造・小売・医療介護の現場は、需要に対して人が足りない。ここに“動くAI”が入ると、単なる省人化ではなく、サービスの提供可能性そのものが広がります。

最初に進むのは「倉庫・工場・バックヤード」

ロボティクスの普及は、いきなり家庭に来るより、まずバックヤードから進む可能性が高いと思います。理由は、環境が制御できるからです。倉庫や工場は、動線、照明、棚、マーカーなどを整備しやすく、例外を減らせます。ロボットは例外に弱いので、環境側を整える方が成功確率が上がります。

ここで起きることは、納期の安定化、欠品の減少、ミスの減少、そして何より“実務の確実性”の向上です。第8回で述べたように、エージェント・コマースでは在庫・納期・返品・CSが推薦スコアに効きます。ロボティクスは、この実務の確実性を底上げする技術でもあります。つまりロボティクスは「生産性向上」だけでなく、「AIに推奨され続けるための土台」になり得ます。

自動運転が変えるのは移動だけではありません——生活導線が変わる

次に自動運転です。自動運転が普及すると、人の移動は“運転という労働”から解放されます。これは単に楽になるだけではありません。移動時間の使い方が変わり、移動の意味が変わります。

たとえば、車内で仕事をする、買い物をする、予約をする、会話で計画を立てる。車内は、スマホ以上に“集中して相談できる空間”になり得ます。つまり車内AIは、強い入口になります。さらに、移動が楽になると、行動範囲が変わり、来店や外食の頻度、週末の過ごし方、配送の受け取り方まで変わります。これは、マーケティングの前提である「顧客の生活動線」が変わるということです。

私は自動運転の影響を、技術ニュースとしてではなく「顧客の状況(CEP)が変わる出来事」として捉えるべきだと思います。移動が変われば状況が変わり、状況が変われば推奨が変わり、推奨が変われば売れ方が変わります。

マーケへの含意:広告より「ルート・タイミング・同伴AI」に組み込まれる

ロボと自動運転が進むと、企業の競争は「広告で見せる」より「どのタイミングで、どの導線に、どう組み込まれるか」に寄ります。たとえば、車内AIが「今の渋滞ならここで休憩」「この後予定があるなら先に受け取り」「雨だからこれが便利」と提案し、そのまま予約や購入までつなぐ。ここでは広告の割り込みは弱く、状況に沿った提案が強くなります。

つまり、マーケは“配信の最適化”ではなく、“状況と導線の最適化”へ寄ります。企業は、自社の商品やサービスがどの状況で“行動の一部”になれるかを設計する必要があります。これは第9回のCEP設計と直結します。

企業が準備すべきこと①:安全・責任・例外処理(人に戻す設計)

ロボと自動運転は、必ず例外が起きます。想定外の障害物、天候、機械の故障、誤検知。ここで重要になるのが「人に戻す設計」です。AIができないときに、誰が、どのタイミングで、どう介入するのか。ここが曖昧だと現場は回りませんし、事故や炎上のリスクが増えます。

したがって企業は、性能の議論より先に、責任分界と例外処理を設計する必要があります。これは地味ですが、最終的に採用を決めるのは“安全に運用できるか”だからです。マーケ視点でも、信頼を失うと推奨されにくくなるため、運用設計は価値の一部になります。

企業が準備すべきこと②:データと環境の整備——ロボは環境で賢くなる

ロボティクスの導入は、ロボットを買うことではなく、環境を整えることです。棚の高さ、通路、照明、マーカー、在庫データの精度。これらが揃って初めて、ロボは安定します。逆に環境が汚いと、ロボは不安定になり、現場の負担が増えます。導入が失敗する典型は、現場の例外処理が増え、“ロボのために人が忙しくなる”状態です。ここを避けるには、導入の最初に環境整備の投資を織り込む必要があります。

これは自動運転にも似ています。道路環境、地図、ルール、地域の合意。技術が進んでも、環境と合意が整わなければ普及は遅い。だからこそ、企業は普及の順番を読み、まず制御しやすい領域から試行錯誤して学習を積むことが重要になります。

企業が準備すべきこと③:顧客体験の再設計——“待つ”が減り、“同意”が増える

ロボと自動運転が進むと、顧客体験も変わります。たとえば、配送がより細かい時間帯で指定できる、受け取り場所が柔軟になる、移動中に注文して到着時に受け取れる。こうした体験は、顧客にとって“待つストレス”を減らします。一方で、AIが提案し、顧客が「それでいい」と同意して進む体験が増えます。つまり、顧客体験は“操作”から“同意”へ寄ります。

このとき企業に必要なのは、同意を得るための材料です。注意点、条件、代替案、失敗しない方法。これらを短く、正確に提示できる企業が強くなります。ここでも第8回の「完了」と第9回の「状況判定」が効いてきます。

実務チェック:ロボ・自動運転時代に“選ばれ続ける”ための最小セット

最後に、マーケと事業に跨る実務チェックを整理します。

  1. 状況(CEP)を3つに絞り、そこでの勝ち筋を深くする

    導線が変わるほど、広く浅くは弱くなります。

  2. 条件を固定フォーマットで提示する(在庫・納期・返品・サポート)

    AIは不確実性を嫌い、ロボは例外を嫌います。条件の透明性は武器です。

  3. 運用の例外処理を設計する(人に戻す)

    事故を防ぐだけでなく、現場の心理的安全性を作ります。

  4. 環境整備に投資する(データ精度・動線・ルール)

    ロボを賢くするのは環境です。ここを軽視すると失敗します。

  5. ログを残し、試行錯誤を学習資産にする

    導入は一度で当たりません。Start/Stop/Scaleで回し、学びを残す企業が強くなります。

次回予告:AIの天井は“電力と計算資源”が握り始める

ロボ・自動運転・常時同伴AIが広がるほど、計算資源の需要は増えます。次回(第11回)は、AI進化のボトルネックとして現実味を帯びる電力・データセンターの制約を取り上げ、「賢いAI」より「資源を無駄にしない運用」が競争力になる話を整理します。

まとめると、ロボティクスと自動運転が進むほど、AIは提案だけでなく実行まで代行し、マーケは露出より“導線と完了”の設計へ近づくと思います。

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《西口一希》

AI大変革時代のインパクト