入口戦争は“スマホ”から“身につけるAI”へ――OS×モデル選択の再編

2026年以降のAI競争では性能差よりも、OSのデフォルトポジションを握ることが重要になります。企業は情報の整理と信頼構築を進める必要があります。
入口戦争は“スマホ”から“身につけるAI”へ――OS×モデル選択の再編
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第5回では、特定領域に学習させた職能ボットが増殖し、仕事や生活が「目的別AI」に分解されていく流れを整理しました。今回は、その職能ボットを“どこから呼び出すのか”、つまり入口(ディストリビューション)の争いを扱います。結論から言えば、2026年以降の競争は「どのモデルが賢いか」より、「ユーザーが最初に相談する場所=デフォルト席」を誰が握るかで決まりやすいと思います。

最強の接点は“デフォルト”:第一想起を物理的に独占

マーケティングの基本は、顧客が困った瞬間に思い出されることです。これを第一想起(Top of Mind)と言います。従来、第一想起を取りに行く手段は広告でした。しかしAI時代は、第一想起の取り方が変わります。なぜなら、顧客は「検索する」前に「AIに相談する」ようになるからです。

ここで最強なのがスマホOSです。iOSやAndroidは、誰もが毎日触る“生活インフラ”であり、そこに標準搭載されたAIは、ユーザーの行動導線の最上流に居座れます。アプリを探す、開く、ログインするという摩擦が不要で、音声やショートカットで即座に相談できる。つまりOSは、相談のデフォルト席を物理的に独占できます。私はこの「物理的」という言葉が重要だと思います。心理的な想起ではなく、インターフェースとしての最初の窓口を押さえるからです。

“モデル”ではなく“配布”が勝敗を決める

AIの議論は性能比較に寄りがちですが、ビジネスとして大きいのは配布です。どれだけ賢くても、ユーザーが日常で使う導線に乗っていなければ、習慣にはなりません。逆に、そこまで賢くなくても、OSや標準アプリに入っていれば、利用は増えます。これは検索が特定の入口に集中した歴史とも似ています。性能差というより、入口がデフォルトだったことが支配力になりました。

その意味で、今後の焦点は「OSがどのAIを標準として扱うか」「ユーザーが選べるのか」「どこまでをOS内で完結させるのか」です。仮にユーザーがOS内で複数モデルを切り替えられるようになれば、“モデルの競争”は“配布の競争”と一体化します。

iOS×Geminiの可能性をどう見るか:企業側は「確定」より「備え」が重要

iOSにどのモデルが採用されるかは、企業側がコントロールできる話ではありません。したがって、ここでのポイントは「予言すること」ではなく、「どんな組み合わせになっても損をしない備え」を作ることだと思います。備えの中心は次の3つです。

  1. OS入口で聞かれる質問に耐える情報整備
    ユーザーは短い言葉で相談します。「急ぎ」「失敗したくない」「予算はこれ」「いつまで」。このときAIが参照しやすい形で、便益、根拠、条件(在庫・納期・返品)を揃えておく必要があります。AIOのときと同じで、情報の“可読化”が基本になります。

  2. 評判と運用品質の強化
    OS内AIが推薦を行うほど、レビューや返品条件、サポート品質が推奨スコアに直結します。広告で期待を上げるより、買った後の体験を整えることが、入口の強いAI時代には効くはずです。

  3. 自社の職能ボットを「OS導線」に接続する設計
    第5回で述べた職能ボットは、配布されて初めて価値になります。今後、ユーザーがOSのAIから職能ボットに“つながる”動線が作られる可能性があります。社内ならショートカット、外部向けなら公式アカウント、アプリ内の呼び出し。入口の設計が競争力になります。

OSが握るのは「相談」だけではなく「許可」

もう一つ見落としがちな点は、OSが握るのは相談の入口だけではないことです。通知、位置情報、カレンダー、連絡先、決済、音声入力、写真。OSは“許可”のレイヤーを握っています。AIがユーザーの代理でタスクを実行するには、これらの許可が必要です。つまりOSは、エージェント化が進むほど重要になります。

この構造を踏まえると、企業が短期でやるべきことは、OSの方針を追いかけて右往左往することではなく、OSのAIが扱える形で「価値」「条件」「評判」を整え、どの入口から来ても選ばれる状態を作ることです。

「デフォルト化」が起こす3つの変化:検索・広告・アプリの役割がずれる

デフォルトAIが広がると、企業のマーケに少なくとも3つの変化が出ます。

第一に、検索の役割が「情報探索」から「最終確認」に寄ります。ユーザーはOS AIに相談して候補を絞り、最後に検索で裏取りする程度になります。するとSEOは“入口”というより“根拠の保管庫”になります。AIOが要約する対象として、一次情報を整備する価値が上がります。

第二に、広告の役割が「知ってもらう」から「安心材料を増やす」に寄ります。デフォルトAIが意思決定の土俵を作るなら、広告は“比較表に載る材料”を増やす方向、つまり第三者評価・事例・レビュー・条件提示を厚くする方向へ投資が寄りやすいと思います。

第三に、アプリの役割が「入口」から「実行」に寄ります。入口はOS AIが握り、アプリは決済や配送、サポートなど“実行”を担う比率が高くなります。言い換えると、アプリは「開いてもらう」より「開いた瞬間に完了させる」設計が重要になります。

デフォルトAIの世界では「ブランド想起」より「ブランド辞書」が重要に

従来、ブランドは顧客の頭の中にある“記憶”として管理されてきました。しかしデフォルトAIが普及すると、ブランドはAI側の“辞書”にどう登録されているかが効いてきます。ここでいう辞書とは、AIがブランドを説明するときに使う定義、特徴、比較ポイント、注意点の束です。

たとえば同じ商品でも、

  • 「初心者向けで失敗しにくい」

  • 「上級者向けだが設定が必要」

  • 「納期は速いが返品条件が厳しい」

のように説明が固定されると、推奨される状況が決まってしまいます。企業側ができることは、辞書に載る情報の精度を上げ、誤解を減らし、根拠を揃えることです。

マルチモデル化のシナリオ:企業は“勝ち馬”を当てにいかない方が安全

OSが単一モデルを固定するのか、複数モデルを切り替えさせるのかは、まだ流動的です。もしマルチモデル化が進めば、企業は「どのモデルに最適化するか」を考えたくなります。ただ私は、ここは勝ち馬を当てにいかない方が安全だと思います。なぜなら、モデルが変わっても評価される材料はほぼ同じだからです。

便益が明確で、根拠があり、条件が透明で、実行が確実。これが揃えば、どのモデルでも推奨されやすい。逆に、どのモデルでも怪しいものは推奨しにくい。したがって企業は、モデルの癖を追うより、材料の品質を上げる方が長期的に勝ちやすいと思います。

“入口を握られる”ことへの不安にどう向き合うか

OSが入口を握ると聞くと、多くの企業は「プラットフォームに吸われる」「手数料が上がる」と不安になります。この不安は妥当です。ただ、その不安に対する解は「入口を取り返す」ではなく、「入口が変わっても勝てる構造を作る」だと思います。

具体的には、

  • AIO/OS AIに引用される根拠(一次情報・事例・レビュー)

  • 推奨後の実務品質(在庫・納期・返品・CS)

  • 再購入を生む体験(良い売上の積み上げ)

を強化し、プラットフォームがどこでも選ばれる状態に寄せる。これが最も現実的です。

組織のやり方も変わる:マーケだけでなく、オペレーションが主戦場になる

入口が強くなるほど、マーケとオペレーションの境界が溶けます。AIに推奨されても、在庫切れなら終わりです。納期が遅い、返品が分かりにくい、問い合わせがつながらない。こうした“実務の弱さ”は、AIが学習しやすいので不利になりやすい。つまり、デフォルトAI時代のマーケは、現場品質のマネジメントそのものになります。

ここで効くのは、部門横断の“共通KPI”です。たとえば「AI経由の問い合わせの満足度」「推奨後のキャンセル率」「返品理由の上位」「レビューの悪化点」など、入口から出口までを一本で見る指標を作ることです。

信頼の前提:許可(パーミッション)の設計ができない企業は入口に近づけない

OS AIが強くなるほど、ユーザーの許可をどう扱うかが重要になります。データを取りすぎない、使途を明確にする、解除を簡単にする。こうした信頼設計がないと、入口に接続する以前に選ばれにくくなると思います。

実務チェック:OS入口に耐えるための“最小セット”

ここでは、現場が今日から動けるように、最小セットを提示します。

  1. 相談文(ユーザーの言い方)を10個書き出す
    「この状況なら何がいい?」という短文を10個書きます。たとえば「上司への手土産」「雨の日の外出」「明日までに資料」「初めての人への提案」。この短文が、そのままAIへの入力になります。

  2. その相談文に対する“自社の勝ち筋”を一文で返す
    便益と独自性と根拠を、短く返せるかを確認します。長い説明が必要なら、価値が曖昧か、根拠が足りない可能性があります。

  3. 条件(在庫・納期・返品・サポート)を固定フォーマットで提示する
    AIが最も嫌うのは不確実性です。条件が曖昧だと推奨しにくい。ここはマーケではなくオペレーションの領域ですが、入口が強くなるほど差になります。

  4. “推奨後の失望”を減らす
    おすすめされて買ったのに不満だった、が増えると推奨から外れます。期待値の設計、注意点の明示、代替案提示など、失望を減らす工夫が重要になります。

まとめ:デフォルト席の争いに、企業はどう向き合うべきか

AI時代の入口戦争は、スマホOSを中心にしつつ、次回以降扱うウェアラブルや車内、家のデバイスにも広がります。ただ当面、スマホが最強の入口であり続ける可能性は高いと思います。だから企業は、まずスマホOSを前提に「相談される言葉」「採点される材料」「購入後体験」を整える。その上で、職能ボットを増やし、どの入口から来ても同じ判断軸で答えられるようにする。私はこの順番が現実的だと考えています。

次回予告:新デバイスが入口を増やすが、習慣を超えるには時間がかかる

次回は、OpenAI×ジョナサン・アイブのAI専用デバイスや、Metaのグラスなど、“常時同伴AI”が入口をどう変えるかを扱います。ただし筆者としては、特にメガネ型の常時携帯がスマホの習慣を超えるには時間がかかると見ています。その現実的な時間軸も含めて整理します。

まとめると、AIの覇権は性能差ではなく、「OSで最初に相談される席」を取った側が握ると思います。

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《西口一希》

AI大変革時代のインパクト