2026 年、「AI が賢くなる」を超えて「購入の主語が移り始める」

2026年の大きな変化は、顧客(人間)の購入意思決定がAIによる代理の意思決定に移行すること。情報伝達やマーケティングの戦略が一気に変化します。
2026 年、「AI が賢くなる」を超えて「購入の主語が移り始める」

2025年から2026年にかけて見えてきた変化を一言で言うなら、「AIが賢くなる」よりも先に、“購入の主語が移り始めた”ということだと思います。これまで企業は、広告やSEOで情報を広く届け、顧客の、認知を取り、比較検討を促し、購入意向を高める——という流れを前提に、マーケティングを設計してきました。ところが今、顧客側に「自分の代理人」としてAIが入り、検索・比較・要約・納得のプロセスを肩代わりし始めています。

このとき起きるのは、“ツールの置き換え”ではなく“力学の反転”です。企業が情報を握り、顧客が探し回る時代から、顧客AIが選別し、企業が選ばれる理由を整える時代へ。私はこの変化を「情報の支配から、NPI(次回購入意向)の代理形成へ」と呼びたいと思います。

「情報の支配」から「NPIの代理形成」へ

従来のマーケティングで企業が優位だったのは、情報の発信力を握り、顧客が“探し回る”行動を前提に、接点を増やせたからです。しかし顧客が、検索窓に向かう代わりに「私の欲しいものや不満なこと」をAIに相談するようになると、企業が頑張って作った情報の多くは、顧客の目に届く前にAIに要約され、評価され、場合によっては候補から外されます。ここで起きるのは「情報の多さ」の勝負ではありません。AIが顧客の状況を解釈し、候補を絞り、購入意向を形成してしまう——いわばNPIの代理形成です。

たとえば、忙しいビジネスパーソンが「来週のクライアント訪問で、失礼のない手土産を3,000円台で。相手は甘いものが苦手」とAIに相談したとします。この人は“菓子折りカテゴリの情報”を探しているわけではなく、“状況に適した失敗しない選択”を欲しています。AIは条件を整理し、候補を数点に絞り、理由(RTB)と注意点(賞味期限、紙袋、配送可否)まで提示し、場合によってはそのまま購入までつなぎます。するとNPIは、比較検討の末に生まれるのではなく、「この条件ならこれが最適」という代理判断として、その場で形成されます。

探索コストの消滅が、行動を変える

顧客が比較検討を避けたいのは、怠けたいからではなく、生活や仕事の中で意思決定が過密だからです。AIが探索コスト(探す、読む、比較する)を削ると、顧客は“情報収集の作業”から解放されます。Google検索でもAIによる要約スナップショットを提示する仕組みが公式に説明されており、ユーザーが「調べる手間」を減らす方向に検索体験が寄っていることが分かります。 さらに、AI要約が出るとリンクがクリックされにくくなる傾向も調査で示されています。

ここが重要です。顧客行動のデフォルトが「探す」から「任せる」に変わりやすい。しかもこれは、一度便利さを覚えると戻りにくいタイプの変化です。だから企業側は「クリックが減った」「流入が減った」という現象論だけではなく、“顧客の意思決定の作法が変わった”と捉える必要があります。

ブランドは“想起”より“採点”される

これからのブランドの課題は、「思い出してもらう」だけでは足りません。顧客AIが候補を絞るとき、ブランドは“想起集合に入る”以前に、AIの比較表・要約枠の中で採点されます。採点軸は、ざっくり言えば次の4点です。

  • 便益が明確か(その商品で何が良くなるのか)

  • 根拠(RTB)があるか(それはなぜ言えるのか)

  • 独自性があるか(代替の中でなぜそれなのか)

  • 条件が安心か(価格、納期、返品、サポート、在庫の確実性)

これらが曖昧だと、AIは「提案する価値が低い」と判断しやすくなると予測します。ここでよくある誤解は、「AI時代は広告が全部無意味になる」という話です。そうではありません。広告は残ります。ただし役割が変わります。“思い出させる”だけでなく、“AIに採点される材料を増やす”方向へ寄っていくはずです。具体的には、事例、レビュー、第三者評価、比較表に載せられる仕様、返品条件の明確化など、「引用される根拠」を増やす活動が価値を持ちます。

「良い売上」と「悪い売上」が分岐する

NPIの代理形成が進むほど、売上の質が二極化しやすいとも感じます。AIが顧客の状況に合う提案をし、納得して購入し、満足して再購入する——これは“良い売上”です。一方で、誇大な期待を煽って買わせ、届いたら条件が違う、返品できない、サポートが弱い——これは“悪い売上”になりやすい。AIは、評判や条件の不一致を学習し、次から推奨しない方向に寄るため、悪い売上の再現性は下がり、良い売上の再現性が上がる世界になると予測します。

企業が最初にやるべき棚卸し(WHO/WHAT/RTB)

では、企業は何から手をつければいいのでしょうか。私は、施策より先に「棚卸し」が必要だと思います。

  1. WHO:誰の、どんな状況の問題を解くのか
    属性ではなく、状況(締切前、失敗できない、来客、体調不良など)で書けるかがポイントです。

  2. WHAT:便益と独自性が一文で言えるか
    “便利です”ではなく、「どんな変化が起きるのか」と「なぜそれが自社だけでできるのか」をセットにします。

  3. RTB:それを信じる根拠が、第三者に伝わる形であるか
    事例、数値、第三者評価、比較可能な仕様、返品条件など、“安心の材料”を整えます。

この3点が揃うと、次の段階でAIO(AI要約)やエージェントコマースへの接続が現実的になると思います。たとえばOpenAIは、チャット上でユーザーの代理として購入のための情報連携を行う「Instant Checkout」の考え方を説明しています。 ここで企業側に必要なのは、派手な新機能よりも「AIが扱いやすい形で価値と条件を提示できること」です。

今日からできる“小さな準備”3つ

最後に、初回の締めとして、すぐに着手できる準備を3つだけ挙げます。

  1. 自社商品の“採点シート”を作る
    便益・独自性・RTB・条件(納期/返品/サポート)をA4一枚で書き出します。曖昧な項目がそのまま課題です。

  2. 「状況(CEP)」で提案文を作る
    「誰に」より「いつ・なぜ困るか」を起点に、提案文を3パターン作ります。AIの相談文は状況から始まるためです。

  3. 引用される根拠を増やす
    レビュー、事例、比較可能な仕様、FAQ、返金条件など、第三者が検証できる材料を増やします。

「NPI」をどう捉え直すか:購入“意向”が可視化されにくい時代へ

ここで少し厄介なのは、NPIが「アンケートで測れる意向」だけではなくなっていく点です。顧客がAIに相談し、候補を絞り、カートに近いところまで進んだものの、今日は買わない——このような行動は、従来の計測だと見えにくいまま残りがちでした。しかしAI時代は、この“買う直前の相談”が増えます。すると、企業は「購入」だけを見ていると、重要な変化(候補に入ったのに落ちた理由)を見逃します。

私は今後、企業が持つべき指標は「CV」だけではなく、少なくとも次の3つに分解されると思います。

  • AI掲載率:AIの要約・比較表に載る確率

  • AI推薦率:最終候補として推奨される確率

  • 購入レール接続率:推奨後に“買える状態”が整っている確率(在庫・納期・決済・返品)

これらはまだ一般化した指標ではありませんが、現場の感覚としては「載っていない」「推されない」「買えない」が売上の機会損失を作る点で、極めて実務的です。特に購入レール接続率は、マーケではなくオペレーション(在庫、返品、CS)に跨るため、部門横断で取りに行く必要が出てきます。

マーケターの仕事は「配信」から「価値の監督」へ

もう一つ、初回で押さえておきたい変化があります。それは、マーケターの仕事が“配信担当”から“価値の監督”へ移ることです。これまでのマーケは、広告運用、クリエイティブ、メディアプランニング、SEOといった「どこで見せるか」の比重が大きかった。しかし代理形成が進むと、「何を」「なぜ」「どんな条件で」提供できるのか、つまり価値と条件を整備する仕事の比重が上がります。

言い換えると、マーケターは“言葉を作る人”である前に、“意思決定される材料を整える人”になります。広告はその後で効きます。広告で目立っても、AIの比較表で落ちれば、顧客の意思決定は前に進みません。逆に、比較表に残る価値があれば、広告の効率はむしろ上がります。ここが、AI時代を悲観で終わらせないための重要なポイントだと思います。

「AIに選ばれる」とは、迎合することではない

最後に強調したいのは、「AIに選ばれる=AIに迎合する」ではないことです。AIが最終的に代行しているのは、顧客の状況を整理し、納得材料を揃え、失敗確率を下げることです。ですから企業がやるべきは、AI向けの小手先の最適化ではなく、顧客にとっての価値を、検証可能な形で提示することです。私はこの順番が逆転すると、短期的に数字が良く見えても、長期的には推薦から外れやすくなると予測します。

「情報流通の争い」が始まっている

この構造転換は、ユーザー体験の話であると同時に、情報流通の主導権をめぐる争いでもあります。AI要約が普及すると、出版社やコンテンツ事業者は「自社サイトへの流入が減る」と感じやすく、実際にAI要約をめぐって独立系出版社がEUで反競争的だとして申立てた、という報道も出ています。 クリック率の低下を示す研究・調査も複数あり、広告やSEOだけで成り立っていたビジネスモデルが揺れる可能性は現実的です。

ただし企業側の論点は「流入が減る」そのものより、顧客が“情報を読んで判断する”から“要約を見て決める”へ移ることです。つまり、マーケティングの競争は「記事の上位表示」から「要約に採用される根拠の整備」へ移っていきます。

本連載では、この「代理形成」という視点を軸に、検索(AIO)、職能ボット、会議・ログ、OSやデバイス、購入のエージェント化までを、順番に具体化していきます。今回はまず“地殻変動の定義”を押さえました。次回は検索の変化を入口に、なぜ「プロダクトアイデアの純度」が問われるのかを掘り下げます。

2026年以降、マーケティングの勝負所は“露出”ではなく“代理形成される理由”に移ります。次回は、その代理形成が最も露骨に現れるAIO(AI要約)時代の検索・SEOの変化を入口に、「AIに採点される」時代の勝ち筋をもう一段具体に整理します。

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《西口一希》

AI大変革時代のインパクト