
ブランディングは、マーケティングの一手段
ここで、ブランディングとマーケティングの関係を考えてみます。筆者の定義では「マーケティング」とは「顧客への価値の創造」です。企業は生み出した価値を顧客に提案する。顧客が価値を感じれば、売り上げを通じて利益という対価が得られる。その得た利益を再投資して、さらなる価値をつくる。こうした循環こそがマーケティングであり、経営とほぼ同義だと思っています。

「ブランディング」はあくまで、そのマーケティングの一手段です。これまで解説したようにブランディングの主な目的の一つは、商品・サービスが顧客に忘れられないように記憶化して、想起率を上げること。コーヒーを飲みたいと思ったときに何のブランドを思い浮かべるか、温泉に行きたいときにどこの宿泊施設を思い浮かべるか。これが強い記憶化による想起です。
その想起は、購入する商品・サービスが持つ便益と独自性と結び付いていることが前提です。ですので、ブランディングはマーケティングの一手段だと考えます。
ところが、「マーケティング」も「ブランディング」も定義がばらばらで、異なる認識が広がっています。既出の項で解説しましたが、ブランディングは経営学者のデービッド・アーカー氏によって、解釈の余地が多くなりました。ブランドは「商品・サービスを認識するためのものである」というシンプルなものから、定義が拡大し、より複雑なものへと変わりました。
ブランディングはなぜ経営者の注目を集めたのか
特に「ブランドエクイティ」という言葉は、物理的な物ではない企業価値を「資産価値」としてどう見るかという概念で、財務会計ではブランド価値、のれん代(Goodwill)の一部と見なされますが、この概念が米国で生まれてから、世界中の経営者の関心を集めていました。米国の財務会計基準審議会(FASB)が基準を設定し、その後の企業買収の際に、その無形資産の評価額に大きな影響を与えるようになりました。
売り上げや利益を上げるだけでなく、無形資産があるかどうかが企業の評価額を大きく左右するようになり、経営者の注目するキーワードになったため、「ブランディングが重要だ」という話が、経営サイドから広まったのです。広告代理店なども経営者向けに企業価値を上げるためのブランディングを掲げて、いろいろな支援サービスを始めたことで、経営主導で、ブランディングは拡大解釈されていきました。
顧客がついて売り上げが増え始めた、もしくは、ベンチャーキャピタルから投資を受けたスタートアップが、曖昧な目的のまま「ブランディング」活動に投資をして、お金を無駄にするだけでなく、成長スピードを落としてしまうケースを数多く目にします。また、既に株式を公開している資金の潤沢な大手企業であっても、同様のケースがあります。
こういった投資は、ブランディングという言葉の曖昧な「万能感」とその誤解によって起こっています。多くの場合は、クライアントの意思決定者のブランディングヘの過剰な期待が問題です。
マーケティングとは、開発から価値提供までの一連
一方で、マーケティングも定義がはっきりしません。米国の業界団体「アメリカン・マーケティング・アソシエーション(アメリカ・マーケティング協会)」は「マーケティングとは顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供、創造、伝達するプロセスである」としています。ものづくりから、価値提供に至るまで一連のプロセスの全てであるということを言っています。
経営学者のフィリップ・コトラー氏は「マーケティングとは社会活動のプロセスである。その中で個人やグループは価値ある製品やサービスを生み出し、提供する。その製品やサービスを他社と自由に交換して、必要なものなど欲するものを手に入れる」としています。
価値ある製品を作り出す物づくりから、それを提供し、お金や物々交換で必要なものを手に入れるという、事業の創造から営業活動までを内包した定義になっています。
しかしながら、ビジネス現場の実態はどうでしょうか。「マーケティング」の定義を確認することもなく、曖昧な理解のまま企業への導入が進みました。
例えば、マーケティングとは「物を売る仕組みである」とか「プロセスである」という主張もあります。これは非常に狭義かつ、HOW (手段)そのもので、もはや顧客と価値に触れてすらいません。
マーケティングを「HOW」と捉えると見誤ること
マーケティングを「物を売る手段」「物が売れる仕組みづくり」といった、HOW (手段)と捉えてしまうから、ブランディングとマーケティングが並列のように見えてしまいます。
マーケティングとは、「価値を創造し、得た利益を再投資して、価値を再創造する活動」。ブランディングとは、「創造した価値の記憶化と想起率を上げるために行う社内外への活動」。こう定義すると、マーケティングとブランディングの関係性が分かりやすくなるはずです。
「広告宣伝、販促、PRといった顧客とのコミュニケーションといったマーケティングにおける一連の活動の根底に、ブランディングという概念を置く」というのが、より実情に近いと言えるでしょう。つまり、まずは自社の商品・サービスの価値となり得る便益と独自性と、その顧客を明確にした上で、その価値が正しく伝わって記憶化されるように様々な施策を打っていくことがブランディングです。

ですが、いずれの言葉も定義が曖昧なままマーケティングの現場に広がっており、人によって捉え方はばらばらです。そこで、一つ提案したいのが、マーケティングやブランディングという言葉を一度忘れて、自分たちが誰のために何の価値を提供したいのかという目的で議論するという発想です。
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