STPの戦略構築におけるポジショニング
コトラー教授は、「ポジショニングは、4Pとなるプロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(場所)、プロモーション(宣伝)を企画する前段階であるSTPでの戦略構築として、非常に重要なコンセプトである」と、一貫して主張されています。
この『ポジショニング戦略』の冒頭で、コトラー教授は以下のような紹介をされています。
「私は、長年にわたって「マーケティング・プランの構築においては『4つのP』を核にせよ」と説いてきた。4つのPとは、プロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(場所)、プロモーション(宣伝)である。だが数年前から、4つのPの前にいくつかのステップがあることをつけ加えるようになった。まず、効果的なマーケティングには先の4つのPの前に必ず「R」、すなわちリサーチが行われねばならない。このリサーチによって、消費者のニーズや認知方法、嗜好などに大きな差があること、よって彼らを「S」、すなわちセグメント(分類)せねばならないこともわかってくる。」
「また、企業はすべての消費者を相手にすることなど不可能であり、自社が得意とする顧客層を的確に選びとらねばならない。これが「T」、すなわちターゲティングである。」
しかし、4つのPにとりかかる前に、何よりも重要なステップは、もうひとつの「P」、ポジショニングである。これこそ、アル・ライズとジャック・トラウトが、今や古典ともいうべき本書『ポジショニング戦略』で展開した革命的コンセプトである。」
こう述べられた上で、「ポジショニングには、さまざまな方法がある。」とし、「商品特性」によるポジショニング、「価格」によるポジショニング、「販路」によるポジショニング、「広告宣伝」によるポジショニングの事例を紹介され、正しく、4Pの前段階のSTPとしてのポジショニングの重要性を説かれています。
コミュニケーション理論としてのポジショニング
しかし、このコトラー教授の紹介文の後に始まる序章で、アル・ライズ氏とジャック・トラウト氏は、「ポジショニング」を以下のように「コミュニケーション理論であり、広告の本質を変えるコンセプト」と定義しています。
「本書のテーマである「ポジショニング」とは、これまでになかったコミュニケーション理論である。 」
「ポジショニングは、「広告の本質を変えるコンセプト」である。それ自体は極めてシンプルなコンセプトだが、その効力はすさまじい。これを理解してもらうのは容易ではないが、実際、成功した政治家は例外なくポジショニングを実行しているし、ビジネス界でも、P&Gやジョンソン&ジョンソンなど、ポジショニングで成功した企業は何社もある。」
実際に、広告宣伝の役割と成功にとって重要な要素をここまで明確に表した本は後にもなく、私も大きな影響を受け、まさに現代においても広告に関わる人は必ず読むべき名著だと思います。ただし前述のように、著者の2人とコトラー教授の定義にギャップがあったことに注意しなければなりません。
著者の2人は、広告コミュニケーションにおける「ポジショニング」とその絞り込み(フォーカス)と一貫性の重要性を提案しています。
一方で、コトラー教授は、「ポジショニング」という言葉に、広告宣伝以上に大きな役割を見いだされており、STPの一部として捉えられていたのです。実際に、『マーケティングマネジメント』の最新版でも、「ポジショニング」は4Pの前段階の非常に重要な戦略構築プロセスとして詳述されています。
この『ポジションニング戦略』を読む中で、冒頭のコトラー教授の解説と、本文を書いた著者であるアル・ライズ氏とジャック・トラウト氏の「ポジショニング」という言葉に違和感を覚えた方もいるかと思います。現代においても、多くのマーケティング実務で、広告コミュニケーションでの「ポジショニング」と、マーケティングプロセスのSTPの「ポジショニング」は混同され誤用されており、混乱のひとつの要因になっているのは明らかです。私も長年、違和感が消化できないまま、STPと4Pのプロセスが混乱していました。
本を読めば記載されていますが、広告コミュニケーションとしての「ポジショニング」は、テレビCMなどのマス媒体の広告キャンペーンに巨大投資するブランドを前提に、以下のように書かれています。
「消費者の頭の中のシェアを獲得するには金がかかる。ポジションを確立するにも金がかかる。確立したポジションを維持するのにも金がかかる。平均的な消費者は、年間20万件の広告を目にしている。スーパーボウルの30秒CMには500万ドルの制作費がかかっているが、これも20万件のひとつでしかない。クライアントは非常に不利な賭けに出ている。P&Gの成功の秘訣はここにある。同社は、新商品を導入するとなると、テーブルの上に5,000万ドルをドンと置き、「で、おたくの賭け金は?」とライバルを見渡す。騒音レベルを上回る広告を出す資金がなければ、あなたの商品はP&Gの戦略の陰にかすんでしまう。」
もちろん、異なる顧客ニーズがあってそれぞれの訴求が可能でも、同じブランドから「プレミアムな」と「安い価格」や、あるいは「優雅な」と「気軽に」などの違い互いに矛盾しかねない訴求を安易に行うべきではないです。
しかし、世の中のほとんどのビジネスはマス媒体を活用しないので、訴求をひとつに絞り込むことは、むしろ自社プロダクトが強みを発揮できる本来のポジショニングの枠を狭く捉え、成長の可能性を制限しかねません。
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